星の少女とオオカミ執事~ある転生者が転生した世界の軌跡~
…ここは、どこだろう…?
気付くと“私”は真っ暗な空間に居た…
ここまでの経緯を思い出す為に、私は見えない目を閉じて、記憶の海へと沈んでいった・・・・・
…“俺”のこの世界での最初の記憶は、絶望に濁ったアンバーの瞳から始まっている…
とは言っても、今居る暗黒の世界での話じゃない。
“俺”が、今の“私”として産まれた世界での話だ。
「さぁ『ステラ』、彼がこれから貴女の専属執事になる子ですよ~?」
「ハハハ、まだ産まれたばかりの彼女には分からないよ。」
「あーうー?」
「…っ!」
俺は、気付くとそのアンバーの瞳に手を伸ばしていた…
俺に手を伸ばされた相手…小学生位の男の子は、息をのみ、目を見開いて固まった。
その瞳には…見知らぬ赤ん坊の姿が映った…
そう…“俺”は、気付くと赤ん坊になっていたんだ。
もちろん、目の前の栗毛にアンバーの瞳の少年を俺は知らない。
俺を抱える黒髪赤目の女性も、その女性に寄り添う銀髪碧眼の女性も…だ。
何より、俺は天涯孤独、家族なんて居なかった。はずだった。
そして…何より俺は“男”であり、『ステラ』何て名前では無いはずだった。
だが…俺には“俺の姿”に関する記憶が“男で在った”事以外に無い。
友達や周りに居た人間、俺がこの瞬間に至るまでの経緯は覚えているのに…だ。
なのに、名前も、顔も、声も思い出せない…
混乱した俺は、赤ん坊である身体も相まってか盛大に泣いた…
自分に手を伸ばしたまま泣き出した自分を、少年は慣れない手つきながら、ぎこちなく頭を撫でてきた…
その手は…とても優しくて…暖かかった…
気付くと俺は眠っていた………
翌日以降も彼は俺の近くに居た。
彼は…俺の事を濁った瞳でじっと見つめてくる…だが不思議と嫌な気はしなかった。
「・・・。」
「うー…?」
「ぼくは…キミにひつようとされてるのかな…?」
「ふみゃ。」
「っ!?
もしかして…ぼくがなにいってるかわかるの…?」
「くぁぁ…
「…そんなわけ、ないか…。」
それから時が経ち…離乳して…立ち上がって…言葉を喋れる様になって…
俺がこの世界で最初に発音したのはその少年執事の名前だったりする。
まぁ…その当時は上手く言えなかったけど。
「あーふぇ…くにゃ…ぬゅ…くりゃ…うしゅー。」
「(!!)おっ!奥様っ!今ステラお嬢様が私の名を…!」
「あらあら…ママでもパパでも無いのね…妬けちゃうわぁ~。」
少年執事…“クラウス”は何時も俺の近くに居た。
そのクラウスは俺と居る内に濁っていた瞳に光が戻っていき、俺が名を呼んでからは尚更俺を可愛がってくれた。
優しくて気さくな彼を、俺は近所の兄の様に感じて安心して、そして頼り慕った。
それから更に時が経ち、7才になり十分に動ける様になった俺は…女の子になってしまった不安から逃れる様に鍛練をする様になった。
もちろん、女の子になってしまった以上、そして、望まなくとも『ハーレスト公爵家』と言う貴族の家に生まれてしまった以上…レディとしての嗜みも学ばなければならなかった…が、服装だけは男のプライド的なものが許さず、男装している。
クラウスは、女の子のクセに男装して、しかも鍛練をしたがる俺に嫌な顔1つせずに付き合ってくれた。
両親(銀髪の人は父親だった)もそんな俺を自由にさせてくれた…
元々、自分が生まれた家は軍人の血族の家…と言うのもあるだろうが、俺は女だ…弟がいる以上跡継ぎにはなれないから、が一番の理由だろう。
まぁ…政界はドロドロしてそうだし俺の性に合わないから後を継ぐ気もないが。
とにかく俺は…俺のやりたいようにやらせてくれる両親やクラウスに答える為にも精一杯努力した。
その内に、俺の1つ下に産まれた双子の弟妹も俺と一緒に鍛練する様になり、俺はますます気合いを入れた。
その頃には弟妹の手前、俺の一人称は“私”に矯正したし、段々と女である自分を受け入れて、感じていた違和感は無くなってきていた。
それでも、心の中では未だにこうして男の“俺”のままだった…
…それが、いけなかったのだろうか…?
そして、今日…
家族皆と王都に来ていた私は…
一人でも大丈夫だと思って一人になった所を何者かに拐われ、意識を失って…気付いたらこうなっていた訳だ…
再び目を開けたが、相変わらず世界は黒で、臭いも音も何も無い…
呼吸は出来るから空気はあるみたいだが…
…これは…感覚遮断状態…だよな…?
確か前世の頃…何処かで聞いた事がある、“ヘロンの感覚遮断実験”…幻覚状態になりオカシクナルとか…
ゾワッ…!
「…っ!!
変な事を考えてはダメ…大丈夫…私は…大丈夫だから…。」
俺は自分に言い聞かせる様に呟いた…
どうやら自分自身の声は聞こえる様だ…
7年経って完全に馴染んだ自分の声は、自分で言うのも何だが鈴を転がす様な可憐な声で…今はそれが尚更心許なくて…思わず信頼する専属執事の名前が口をついて出た…
「っ…ぅぅ…助けて…助けてよ…クラウス・・・!」
しかし、そう都合よく執事は現れちゃくれなかった…
その事が余計に寂しくて…悲しくて…私は…私は心が…壊れそうで…
「やだ…嫌だよぉ…クラウスぅ…クラウスぅぅ…!!」
再び叫んだ所で、そんな都合の良いこと…しかし、何度も何度も叫ぶ内に…、“私”はどうしようもなく非力だと自覚して、やっと完全に“私”を受け入れられた…そんなやっと目覚めた“私”の心も壊れそうになった時、それが起こった。
「お呼びですか?お嬢様。」
「…えっ?」
疲弊し、とうとう涙が止まらなくなった“私”の耳に響く…優しい声…
その声が聞こえた瞬間…私の世界は…元の光ある世界になった…!
「お待たせしました、お嬢様。」
「・・・クラウス…?」
「はい、貴女のクラウスですよぉ~♪」
クラウスは…いつもの穏和な笑みでおどけてみせる…
それに安心した私は…思いっきりクラウスに抱きついた…!
「クラウスぅぅー!」
「怖かったですよねぇ…でも大丈夫ですよ、私が居ますから、貴女には、私が居ますから。」
(申し訳ありませんお嬢様…僕が不甲斐ないばかりにこんな目に遭わせてしまって…!)
「幻覚じゃないわよね!?本物のクラウスよね!?」
「大丈夫です、私は本物ですよ。」
「…はぁぁ…くらうすぅぅ…♪」
「・・・・・。」
(クソッ…何とか間に合ったが結局主犯には逃げられたな…どこのどいつだ…?
僕の…僕達の宝物に手を出しやがって…!
八つ裂きにしてやる…!見付け出して八つ裂きにしてやる…!!
だが…それ以上に僕は…また同じ過ちを繰り返す僕自身が一番許せない…!!!)
「…?クラウス…顔が怖いわよ…?」
「あ…申し訳ありませんお嬢様、犯人に対する義憤に震えておりました。」
(まぁ…今はステラと家に帰るのが先決だな。
旦那様と奥様に報告しないと…。
それはともかく、ステラはやっぱり可愛いな。
普段は気丈に振る舞う“ステラお嬢様”の泣き顔なんて滅多に見れないから余計にグッと来る…!!)
私が不安気に見上げていたのに気付いたクラウスは、穏和な笑みを浮かべて、私を抱き上げた。
その温もりに安心して、私は、彼の首に手を回してしがみついた。
「クラウス、ありがとう。」
「っ!?」
そして、お礼の意味を込めて頬に口づけをした。
「はい、お嬢様の事は私にお任せください♪」
(フフっ役得…だな。これだけは犯人に感謝してやる、八つ裂きにはするがな。)
迎えの馬車に乗り、クラウスに抱えられて家に向かう途中、すっかり安心して眠り込んでしまった私は、不思議な夢を見た…
それは、知らないはずなのに知っている、私の友達である男の子達と遊ぶ夢。
その夢の中では私も男の子で、皆、親しそうに私の名前を呼び、肩に手を回して笑いかけてくる…
私もそんな彼等と遊び、笑い合い、拳を合わせて称え合い…凄く…楽しい夢だった…
―様、ステラお嬢様。」
「んぁ…?
誰だよ…つーか今…何時だ…?」
「っ!?
ステラお嬢様ッ!!?」
「・・・ふぇ?
あら、クラウス…おはよぉ…ぁふ…ごめんなさい、貴方の側で安心して眠り込んでしまった様ね…。」
「あ…はい…それは良いのですが…(むしろステラの寝顔をじっくり見れて役得だし。)お嬢様、また粗暴な男みたいな言葉遣いをなさいましたね…?」
「えっ?
・・・ふふっ、だとしたら不思議の夢のせいね♪」
「夢…ですか。」
「ええ、夢の中では私は男の子だったわ。
皆で走り回ったり…ドッヂボールをした…り…?」
「(!?)お嬢様…?」
気付くと何故か、私の目から溢れ落ちる水滴が…なんで…?
なんで…こんなにも…悲しくて…寂しい…気持ちに…
「・・・ごめんなさいクラウス…もう少し…胸を借りるわね…?」
「・・・私の胸で、お嬢様が安心できるなら喜んで。」
(今日のステラはやけに弱々しいな…ステラがそんな表情をしていると、心が…ざわつきやがる…。)
「ありがとう…
私は、そのままクラウスの身体にぴったりと頬を寄せて目をつむる…すると…彼の香りに自然と心が落ち着いていく…私に物心がついた時から、こうすると安心出来るから私の習慣になっている行為なのよね…
「ん…ぅ…ねぇ…クラウス…
「はい、なんでしょうか、お嬢様。」
「貴方は、ずっと私の執事だからね…?」
「ええ、勿論ですよステラお嬢様。」
(寧ろ、僕の方が君を離すつもりは無いからな。)
「ありがとう…そして、ごめんなさい…貴方を縛る様な真似をして…嫌になったらいつで―
「嫌なら、今日貴女を見限っていますよ。私は望んで貴女の側に居るのですから。
何時も子供らしからぬ気丈な振る舞いをする貴女が急にそんな事を言い出すなんて、やはり今日は疲れているのでしょう、ゆっくり休んで下さい。」
「・・・ええ、そうするわ。」
家に到着すると、待っていたお母様が子供の様に泣きながら私を抱き締め、お父様が私の頭を撫でた後、クラウスに労いと感謝の言葉を伝えた…
そんな何時ものハーレスト家の風景に私は安心して、お母様の胸のなか、再び眠りについた…
『…“俺”が“女の俺”でも幸せになれるのなら、“男の俺”は…一体誰なんだろうな…?』
その日、私から、私の根源に関わる大切なモノが失われた様な気がしました・・・・・
翌日、自室のベッドで目を覚ました私は、いつの間にか隣に引っ付いていた妹のリアを優しく引き離して起き上がった…すると、弟のアステルが私の事を睨み付けていて…?
「おはよう、アステル。どうしたの?えらく不機嫌じゃない。」
「・・・姉さんはもっと、自分が女だって事を自覚しろ。
クラウス兄さんは、姉さんが行方不明になった時に誰よりも早く探しに行ったんだぞ。」
「・・・分かったわ。
大丈夫、これからはなるべくクラウスと一緒に行動するわ。
心配かけてごめんね?アステル。」
「フンッ…分かれば良いんだよっ…。」
それだけ言うと、既に着替え終わっていたアステルは部屋を出ていった…
うーん…私も大概だけど、アステルも早熟ねぇ…?
彼は本当に6歳児なのかしら…??
私が首を傾げていると、入れ代わる様にクラウスが入ってきた…
「おはようございますお嬢様。」
「おはようクラウス、ちょうど今、着替えてから貴方を呼びに行こうと思っていた所よ。」
「おや…それはまた何故でしょうか?お待ちいただければ何時もこの時間に私は来ますよ。」
「うふふ♪少しでも早く貴方に会いたいからよ。
じゃあ、直ぐに着替えるわね。」
私は、何時もの黒地に白いふんわりフリルの装飾が付いた普段着用の簡易ドレスに着替え、頭にも同じデザインのヘッドドレスを着けた…
クラウスの趣味なのか給仕服にも見えるわね…
その間にクラウスはリアを起こして着替させて…
「さぁリアお嬢様、今日もアステル様好みに可愛らしくなりましたよ~?」
(アステルはステラ以上に年不相応なほど落ち着いているのに重度のシスコンなんだから、世の中分からないよなぁ…ただ、その点では同志ゆえか波長が合うからついついこうしてアステルの為にリアを可愛くしてしまうのだが…)
「ありがとく~ちゃん♪」
「・・・この歳で“くーちゃん”はいい加減に止めていただきたいですねぇ…;」
(僕は犬じゃねーしな…まぁ…ステラになら…いやいやいや!!僕は何を…;)
「え~っ!?でもく~ちゃんはやっぱりく~ちゃんだよ♪
いつもねぇねに付いててわんこみたいだし♪」
「・・・。」
(このお嬢様…本当に僕を犬だと思ってたのか…;)
クラウスに着替させてもらったリアが無邪気に笑いながらクラウスを犬呼ばわり…って、文面だけ見るとリアが我が儘なお嬢様見たいに見えるわね…リアはあれで6歳…年相応の無邪気さだと思うわよ?
私とアステルが年不相応な程に落ち着き過ぎなだけで。
そんなリアに私は姉として注意しておく…
「リア。クラウスを困らせてはダメよ。」
「はぁいねぇね♪ごめんねクゥにぃ!」
「あ…はい…;」
(まぁ…素直なのはリアの美点…ではあるけどな…。)
「じゃあボクは先ににぃに達の所にいってるねぇ~♪」
「あ…リアお嬢様!?;」
(あーあ…走って行っちゃったか…あのお嬢様は上二人に比べたら年相応に子供…なんだよなぁ…;)
素直にクラウスへ謝ったリアはそのまま楽しそうに走り去ってしまった…まぁ…屋敷の中なら誰か他の使用人が案内するでしょう…;
今の時間ならこの近くにメイド長のマリアさんが居るはずだわ。
『はいは~い、リアお嬢様~、戦闘中でもないのに走るなんてはしたないですよ~?』
『やぁん!!離してよぉマリちゃ~ん!!』
「…どうやらマリア様に捕まった様ですね…。」
「・・・予想通り…と言うか何時もの流れね…。
ふふっ♪じゃあクラウス。私達も行きましょう?」
「はい、お嬢様。」
(あぁ…やっぱりステラはこうでないとな…)
食堂に来て、私が席に着きクラウスが後ろに控えたタイミングで両親も現れた。
「おはよう我が子達よ!今日はよく眠れたかな?
特にステラ、キミはあんな事があったばかりだろう?」
「ええ、大丈夫よ。
アステルやリアと一緒だったもの、安心して眠れたわ。」
(…欲を言えばクラウスも一緒に居てほしかったけれども…。)
「そうか…それなら良かったよ♪」
「ええ、でもこれからは気を付けるわ。
今回は無事だったけれど、次はどうなるか分からないから…
「ステラお嬢様…
「ステラちゃんなら大丈夫よ~♪」
「お母様…?」
昨日の今日で暗くなりかけた雰囲気を吹き飛ばすようにお母様の陽気な声が響く…
大丈夫、そういったお母様の表情は、本当に大丈夫だと物語っている様で…
「あのねルナ、何が大丈夫なんだい!?;
本人が反省して危機感を覚えてるのに何故母親であるキミが…もう…本当にキミは危機感が足りてないと言うか…;」
「あら~?
だって、ステラちゃんには優秀な執事が付いていて、きっとこれからのステラちゃんは彼を頼るもの~それで充分でしょう?」
「…!はいっ!!
不肖このクラウス、全力でお嬢様をお守り致しますッ!!」
「ふふ~、
娘をよろしくねぇ~クラウス~♪」
「…お母様、よく私の考えている事が分かったわね…?」
「ふふ~ん♪
なんたって私は~貴女の母親ですからね~♪」
私の両親は本当に、凄いと思うわ。
それは、公爵だからってだけじゃない。
公爵なのに、気さくな事、傲らず、平民に対しても平等に見れること…
そんな二人が国王の右腕として働いている事を私は誇りに思うわ。
因に、お父様は近衛騎士団の団長、お母様は現国王の妹で治癒術師団の団長だったりするのだけど…
この国の中枢は大抵がハーレスト家の血族な辺り、裏を返せば何時でもこの国を乗っ取れるのだけれど、私達本家の王族や国民に対する忠誠心は本物よ。だから王様や総裁も本家に対してはそれほど危険視をしていない。
とは言えハーレスト家の血族も一枚岩ではない。
当然の様に国家転覆を狙う愚かな血族も存在する。
その手の輩は王様達と一丸となって排除してきた…それが、この国の歴史。
シリル:事実、この後《一部のハーレストの血族》が盛大にやらかして、この国は、この世界は急速に疲弊していくのじゃがな。
ヨースケ:………あぁ。《まるで乙女ゲーの様な出来事》、だな。
シリル:うむ。これもまた《神々の遊び》と言う奴じゃな。
ふざけおって……………神という概念はどうしてこう、変な遊び心を出すのじゃろうか?
ヨースケ:さぁな。だから、そんな神共を消して回って、【終末】を迎えさせてるんだよな。
シリル:然り。さて、少し時を飛ばすかのぅ?
…今、私は赤色の目をした猪の様な魔獣…ブルボアと対峙して居る。
そのブルボアは私よりも私の背後に居る方を脅威と捉えて私の横をすり抜けていった!!
私の背後に居る、執事服の彼を脅威と捉えるのは正しい、けれど魔獣は1つミスを犯した。
それは―
「…そっちに行ったわクラウス!!」
「お任せをッ!!」
斬ッ!!
スルリと横に躱しながら放たれた斬り上げの一太刀で腹を斬り裂かれて絶命した魔獣は黒い霧となって消え去って、後には毛皮と猪肉だけが残った。
そう、魔獣はミスを犯した。
彼を倒したいなら先ずは私を危機的状況にして彼の気を散らさなければならなかったのだから。
まぁ、それでもこの程度の魔獣では勝てないでしょうが。
「…フゥ。
これで最後かしら…クラウス。」
「…ええ、お疲れ様ですステラ。」
「…。」
「…?
どうしましたか、ステラ。」
「…あ、いえ…。
今日はもう帰りましょう。」
「はい。
鍛練は必要以上にしても効果は薄いですからね。」
…私の名前はステラ。
ステラ=ハーレスト。
漆黒の艶髪を双房に纏め、切れ長の蒼い瞳…周りからクール系美少女とか言われた…の18歳。
ウィンドル王国の公爵家の長女…だった者。
だった…と言っても別にネガティブな意味はないわよ?
私は、理由があって学園を卒業して成人と認められてから家を出て、冒険者をしている…その理由が…
「では宿に帰りましょうか。
ですが村に入るまでは油断してはダメですよ?」
「ええ、勿論よ。」
今も一緒にいる彼、クラウス。
5歳年上、23歳の彼は私が生まれた時から執事をしてくれている。
ダークブラウンの髪を細テールに纏め、キリリとしたアンバーの瞳で、だけど基本的にニコニコと穏和な表情をしている私の専属執事だ。
とても有能で、私の装備…漆黒のバトルドレス(白いレースのフリル付き)と銀のレイピア(魔力を通しやすい)…は彼のオーダーメイド品なのよね…しかも、超高品質。
家事もそつなくこなすし戦闘も出来る。
もちろん、身の回りの世話だってお手の物。
だけど、私は自分の事は自分でやるってスタイルを貫いてきたから、彼には私の身の回りの世話を殆どしてもらってない。
その代わり…でもないけど私の装備作製(錬成)と私の戦い方の指南はずっと彼。
彼は私にとって、大切な執事であり、兄であり、師匠なのよ。
そんな彼が、私が学園を卒業したのを期に執事を辞め、故郷に帰ると言い出して…
そうしたら…2度と会えなくなる気がした私は、クラウスと共に行く事を決めた。
両親は親不孝な私を…泣き笑いで送り出してくれた…『クラウスと一緒なら安心だ』、そう言って…
そんな私は元々、家は弟が継ぐ事が決まっていたからわりと自由にさせてもらえたのよね…
今考えると、両親は元からそうなる事が分かっていたみたいで、だからこそ、そうするつもりだったみたいだけど。
クラウスはクラウスで、私がついていくと言った時に最初こそ反対したけど、最後は結局困った様な嬉しそうな笑顔で私がついていく事を許してくれた。
…でも…私は…何でクラウスが居なくなると思ったら胸がチクリと痛んだのか…何でクラウスが連れていってくれると言ってくれた時、嬉しかったのか…それは…わからない…
旅を始めてから今日まで、宿ではクラウスと同じ部屋だけど…それが凄く嬉しくて…恥ずかしくて…何だか自分で自分が分からないわ…
「…失礼します、お嬢様。」
「えっ?キャッ…
私がそんな風に思考の海に沈んでいたせいか、クラウスが私をお姫様抱っこしてきた…
うん、魔力を感じるし流れる様な身体強化ね…
銀製のレイピアは勿論、バトルドレスも鉄板入りで重いから…
※レイピアとバトルドレス自体に半永久的な身体強化魔法がかかっている為、装備者は重さを感じない。
「ボーッとしていましたが…お疲れですか?
それとも魔力不足でしょうか??」
「あ…違うわよクラウス。
少し、考え事…貴方の事を…ね?」
「…お嬢様、それならばどうぞ私の背中で…町までは私が歩きましょう。」
「あら…自分で歩けるわよ?」
「いや…しかし、考え事をなさるなら私に背負われていた方が…
「あら、そんなにクラウスは私の感触を楽しみたいの?
なら、仕方無いわね~?」
「…。」
「あっ…
食い下がるクラウスに私がおどけた様にそう返すと、クラウスは急に私をしっかりと抱き締めてきた…
「お嬢様、鍛練をしていて、学園を首席で卒業したと言っても、貴女は旅慣れをしていないです。
それに、お嬢様にもしもの事があったら旦那様と奥様に会わせる顔がありません。」
「・・・・・なら、そうゆう事にしておいてあげるわ。」
本当に…本当に苦しそうな表情でクラウスがそう言うから、私はそれ以上なにも言えなくなってしまった…。
ヨースケ:この世界に関しては、《平行世界が無数に存在する》んだったな。
シリル:うむうむ、よぅ勉強しとるのぅヨースケ♪流石ワシの旦那様なのじゃ♡
ヨースケ:ははは……;ま、とにかくこれはそんな平行世界の1つだった。
シリル:ワシが問答無用で消し飛ばしたがのぅ……
ヨースケ:そりゃな、この世界は、平行世界だけはやたら作るくせに全部が全部頭打ちの世界だったからな。
シリル:全く、神様とやらは何をしとるんじゃろうな?
ヨースケ:処理するこっちの身にもなれってんだ。