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シリルと俺と魔姫様

再び【終末の魔女】として、異世界を滅ぼしに来たシリルとついて来た俺で、この世界の神とやらを消滅させた。

これはその直後の話しだ。



「私は、お礼を言うべきか罵声を浴びせるべきか考えあぐねています。」


「なら、罵声で良かろう。

確かにワシはこの世界を暇つぶしや遊びで引っ掻き回した神を消したが…

そも、ワシはこの世界を滅ぼしに来たからのう……。」


「でも俺は礼を言う。スノウと俺を、"悪い魔王の役"から下ろしてくれてありがとう。

お陰でただの『スノウラチカ』として、『クラウドレイン』として死んでける。」


「…レインは、冷静ですね。」


「なに、これでも俺は、死ぬ覚悟を決めて神との戦いに来ていたからな。」


「そうですか…私は()()()死ぬつもりもレインを死なせるつもりもなかったのですが。」



そう言って儚く笑うダークエルフの女の子は、隣に立つ壮年のおじさんと笑い合う。

シリルが言うには実際はダークエルフの方が年上らしいが。



「貴方は俺達に嫌悪感が無いんだな?」


「まぁな。曲りなりにも、共闘した仲だろう?」


「…それは、そうだけど。」



俺とシリルがこの世界に来た時、丁度この魔姫様…スノウラチカと冒険者…クラウドレインは神に戦いを挑む所だった。


シリルが言うには"最悪なタイミングで到着してしまった"そうだが。


何せ、そのせいで神が既に臨戦態勢だったから。

そうで無ければ前回の【終末】の様に【極大魔術】を仕掛けて瞬殺出来たらしい。


が、臨戦態勢の神はそう簡単には倒せやしなかった。

ここに居るスノウラチカとクラウドレインの協力が無ければ消滅させるのは難しかったかもしれない。

(不可能では無い。)


そんな俺が言い淀むのを見てクラウドレインは苦笑いしながら続ける。



「まぁそう気に病むなよ少年!仮にお前達が来なくてもいずれこの世界は破綻していたさ!」


「…そうですね。

私も、仮に神を倒せてもそれ即ち世界の終わりだと思ってはいました。

今すぐに消滅しなかったとしても…………


「そんな……



つまりこの2人、なんだかんだ言いつつも最初から死ぬのが前提で戦っていたってのか………?



「だから、終末の魔女さん?

貴女も気になさらないで下さいね。

ただ、私が滅ぼすか、貴女が滅ぼすか、の違いだけだったのですから。」


「……あぁ。

分かってはおるのじゃ………何せ、この世界における【魔王】とは即ち、【世界の管理者】じゃからな。」


「なっ…!?じゃあ、スノウラチカさんがやろうとしていたのは……!」


「うむ、初めから、【終末の魔王】、だったのじゃろうて。」


「そう…ですね…。」



そう言うスノウラチカさんは、儚い笑顔のまま、困った様に首を傾げるー

神を消した以上、この世界も30分も経たずに消え去るだろう。

だが、俺は……………



「なぁシリル。この2人だけでもー


「ダメじゃよ、旦那様。

そうやって"特例"を作ると際限なく異世界の住人をワシらの世界に連れてきてしまうのじゃ。

そうなると食料は?住む場所は??マナが合うのか???魔力は、空気は、常識は????」


「…………クソッ。」


「ワシも、旦那様の意見には賛同したい。

じゃが、それはあまりにも無責任じゃ。

この魔王達はワシらと気が合うじゃろう。

仲良くなれそうじゃろう。」


「だけど、俺達はどこまで行っても異世界人、か…?」


「うむ。」


「なら、俺は?俺は"特例"じゃ無いのか…?」


「ヨースケ…


「俺だって異世界人だ!!地球人だ!!お前とは違うじゃないか!!

……あ。」


「っ…!」




しまっ…た…つい、熱くなっちまった………

シリルがショックを受けた顔を……違う、青ざめ、頭を抱え、震え出した………



「あぁ……あぁあああああ………!!

ごめん………ごめん………なのじゃ………ごめんなさい………ごめんなさい…………

ごめんなさいごめんなさい…………ワシは………ワシは………お主の世界も破壊した魔女じゃ……………ワシは………ああああああああぁぁぁっ!!!」


「シリルッ!?」



クソッ!!

もう消滅まで数分も無い異世界でシリルが走り去っちまった…

いや、シリルが離れようとこの世界が消滅すれば自動的にシリルの世界に還れる訳だが。

だが……



「なぁ、少年。」


「クラウドレインさん…?」


「俺には詳しい事は分からんが、あの魔女さんはお前にとって何なんだ?」


「……嫁だ…あぁ、そうさ、大切な家族だよ。」


「なら、極力悲しませるな…いや、常に甘言だけなのもダメだろうがな。」


「難しいですね。」


「ははっ、まぁな。俺だって何度スノウを泣かせたか………


「レイン?今はそんな話しはどうでもいいでしょー


「ははは………世界の終わりに話すことじゃ、無かっー


「あっ………



それを最期に、2人は虚無に呑まれ、俺はシリルの世界に強制送還された。





















「……。」


「シリル。」



還って来ると、シリルは体育座りをして、囲炉裏の火を死んだ目で見詰めていた。



「……………。」


「なぁ、シリル、悪かったって………


「……………………………違うのじゃ。悪いのは、全部ワシなのじゃ。」


「いや、シリルは悪くなんかー

「慰めは要らぬのじゃ、旦那様。」

ーシリル。」



シリルは、肩に置いた俺の手を振り払ってかぶりを振った。

そして、生気の失われた暗い瞳を俺に向ける。



「のぅヨースケ………ワシは、前にお主の世界を見せたじゃろう。」


「…あぁ。もう、人類どころか、生きとし生けるもの総てが死に絶えていたな。

………燃えていたり、凍っていたり、帯電していたり、建物や何かと同化していたり、液状化、ゲル化…………とにかく、ありとあらゆる"死に方"をしていた。

正に、【終末】の光景だったな。」


「そう、アレが、アレこそがワシの【原初の罪】じゃ。」


「…そして、唯一俺だけが〖異世界(シリルの世界)へタイムワープした〗。」


「そう、ワシが、"実験"でお主の世界へ渡ろうとした、その結果じゃ。

お主の世界のあらゆる生物は、死してなお燃え続け、凍り続け、帯電し続けおる。

最早、生き物の生きれる世界では無くなってもうた。」


「だが、お前は地球を消滅させなかった。」


「あぁ、そうじゃ。あの世界は、ワシへの戒めじゃ。

例え、逆らえぬ者に言われてやった事だとしても、じゃ。」


「結果的に、俺は俺の世界の【終末】を知る事となった訳だ。」


「そうじゃな、それも、ワシの高慢さが原因なのじゃ。

戒め等と気取らず、疾く消滅させておくべきじゃった。」


「………違う。俺は感謝してるんだぜ?」


「なんじゃと?」


「そのお陰で俺は、お前と出逢えた。

あぁそうさ、詭弁だとか言われても構わない。

俺は、お前に会えて良かったと思っている。」


「嘘じゃ……


「いや。この話しは既に終わっただろう?

生憎俺には家族や親しい友人の記憶が無いんでね。

怒りも恨みもねぇよ。」


「……ヨースケ……。」


「だから、俺だけは"特例"の"例外"だってか?

シリルは、俺の事を罪滅ぼしの為に【旦那】にしたのか?」


「違うっ…!ワシは、ワシを恐れぬヨースケに惚れたのじゃ!!

ワシを可愛いと言い、ワシを愛してくれたから………!じゃから………!!」


「ああ、そうだな。俺がお前を惚れさせた。

だからお前は()()()なんだろ?シリル。」


「そう…じゃな……


「俺は、お前にとっての【特別】だ。俺にとってのシリルがそうである様に。

だから、俺は助けたが他は助けられない。

そうなんだろう?シリル。」


「……それこそ、後付け、じゃな。」



そう言ったシリルは、やっと小さく笑った。

そして、再び光は失われる。



「ならば、彼奴(あやつ)らも、助けるべきじゃった。」


「シリル。」



そうかよ。

まぁ、お前は、そうゆうやつだもんな…………



「そうか。なら歯を食いしばれシリル。」


「……なんじゃ?殴るのか。ハッ、やはりワシを恨ーガブッ!?」


「忠告はしたはずだ。」



オウ、俺は殴ったぞ。

躊躇なく、思い切り。

なんかまだ言い続けるシリルにイラッとしたからなぁ。



「バッッカじゃねぇのお前!

過ぎた事をウジウジ考えてんじゃねぇよ!

じゃあなんだ!?お前は俺が居た世界を蘇らせれるってのか!?」


「…無理じゃ。」


「だろうなぁ!!何せもうお前は新しい事を学べない身体なんだからなぁぁっ!!

分かってんだよ!!お前が悪い訳じゃないってのは!!

分かってんだよ!!怒りをぶつける先が無いってのは!!!

何より、知らないんだよ………知らないんだよ俺は………本当の家族を………

俺にとって、シリル、お前が、唯一の家族なんだ……

血が繋がってなくたって、当たり前だ。

俺とお前は、夫婦なんだろ??

俺の世界じゃあ血縁者は夫婦になれねぇ。

だから良いんだ。

他人だからこそなれる家族が、夫婦なんだからな。」


「何が言いたいのかさっぱりなのじゃ。」


「………すまん、勢いだけで喋ってた。」


「………ふふふっ……そうじゃな、ヨースケは、そうゆうやつじゃな。」


「とにかく!シリル、俺はお前が好きだ。

最初こそ姉としてのLIKEだったが今は嫁としてのLoveだからな?

何があっても俺はお前の味方だ。

未来永劫、お前が死ぬまで。」


「ハッ、クサイが、最高の殺し文句じゃな…………ありがとう旦那様。」


「ははっ。これでも俺は、お前の事をもっと知りたいと思ってるからな!

幸い、俺の寿命はお前と等分。永遠に近いからずっと一緒に居てやるよ。」


「そうじゃの。」



やっと笑ったか。

俺とシリルは、それからどちらともなく軽く口付けしてお互いに肩を預け合って囲炉裏の火をボーッと眺めていた。

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