シリルと俺が世界を滅ぼす前の生活について
それから数日、彼女の家で世話になって分かった事は、
シリルがやたら俺に構いたがるタイプの姉だという事だ。
「のぅヨースケ、ここでの生活に不自由はないかぇ?」
「あぁ、問題無いぞ。」
「のぅのぅヨースケ!この菓子も美味いぞ!」
「いや、今飯食ったばっかだろ!?」
「デザートじゃよデザート!
男子なら食えるじゃろ♪」
「無茶言うな!?」
「のぅヨースケ、こっちでワシと一緒に昼寝でもせんかぇ?」
「お、おぅ……?」
とにかくシリルはグイグイ来る。
それも楽しそうに、嬉しそうに。
今まで寂しい思いをしていたのだろうと思う程、とにかく俺を構いたがった。
俺としてもそんな彼女が放っておけなくて構い倒してる内に慣れてしまった。
そうして数日が経過し、お互いの距離感も掴めてきて本当に姉弟みたいな感覚になって来たある日。
「ヨースケ!ワシと一緒に散歩にでも行かんかぇ?」
「おう、片付け終わったらな。」
「よし来た!ならばワシの魔術でー
「いやいいから。」
ーむぅ、ならば魔術無しであれば良いのじゃろう?
手伝う故、疾く片付けるのじゃ!!」
「ああ、それなら頼む。」
シリルは基本、何でも魔術で済ませようとする傾向がある事も分かった……
そんな彼女もその都度言えば分かってくれる程度には素直な性格だから特には問題ないのだけれど。
そして、片付けを済ませて2人で森を歩く。
当然の様にシリルは俺の手を握ってくるが、心持ち的に拒絶したいとは思わなかったし恐らく記憶を失う前も"家族"とは手を繋いで歩いていたんだろうな。
…シリルが俺の手の感触を確かめる様に親指を動かしてくるのが少しくすぐったいが、身の上を聞いた後だと寂しさからの行動だと分かるしコレばかりは時間が解決してくれるのを待つしかないのだろう。
「のぅヨースケ、ここでの生活には慣れたかぇ?」
「んー…まぁ、多少はな。
記憶が中途半端に無いお陰か、シリルの事も家族としてすんなり受け入れられたし、だからこそ一緒に居るのが当たり前って感覚があるのが大きいな。
シリルが居てくれるなら、そこが俺の居場所、と言うか……
「むふん♪それに関してはワシも同じなのじゃ!
ヨースケの隣が、ワシの居場所じゃよ♡」
「そっか…ありがとう、シリル。」
「こちらこそ、なのじゃ♪ヨースケ!!」
うん?なんだかシリルの雰囲気が甘い気がする。
姉とは弟を慈しむもの、とは何処かで聞いたセリフだったか………
だけど、実際の"姉弟"にしては距離が近過ぎる気もするんだがなぁ………?
でも、良いか。
誰かに迷惑がかかる訳では無いしな。
しばらく森の中を歩き回り、ついでに薬草やキノコ、果実と言った森の恵みを採集しつつ川に出た。
「さてヨースケ!釣りでもするかの!」
「ん?また唐突だな。
…いや、シリルの事だから釣竿はあるんだよな?」
「むふん♪その辺はもちろん抜かりなしなのじゃ♪」
今まで集めた物をシリルの亜空間に収納した俺達は、早速手頃な岩場に腰掛けて川に向かって竿を投げる。
……日本に居た頃読んでいた漫画やらアニメやらライトノベルなんかだと釣り勝負が始まるのだろうが、俺達はそうはならずただ釣り糸を垂らして雑談をする。
うん、釣りがオマケになってるな。
「それにしても、魔術も魔法も概念はあるのに実在しないとは、不思議な場所じゃのぅヨースケの居た【ニホン】という国、【チキュウ】と言う世界は。」
言うな、前に居た世界の正式名称なんか俺には分からん。
ここが異世界だとして、この世界にも名前なんか無いからな。
シリルもそれが分かっててあえてそう表現してるだけだ。
「全ては"架空の物"として扱われていたからな。
ただ、想像力は豊かだからか、定義としての魔法やら魔術やら【異世界転移】や【異世界転生】、【異世界召喚】なんかは概念としてはあった、ってだけだからな。」
「むふん♪その点、ワシはその【異世界】に関する研究者じゃからな!
"想像"は得意なのじゃ♪」
「あぁ、シリルが理解するのが早くて助かるよ。」
「まぁの!
重ねて言うがワシは、それこそ異世界について研究しておったからなのもあるし、
それにヨースケがワシを恐れなかったのもあるがのぅ!」
「でもまさか簡単に帰れるとは思わなかった。」
「むふん♪ワシは【世界を渡る魔術】なぞとっくの昔に開発しておったからのぅ!」
「どうやって創ったのかとか気になるが俺には理解出来なさそうだな。」
「……理解しなくても良い、ワシは、ヨースケが居るだけで良い。」
……どうやらこの話はタブーな様だ。
シリルの目から光が消えている。
が、コレもまた大体想像がつく。
多分、"瞬間移動の超常現象"の様な結果が、幾つもあったのだろう。
尤も、あちらはそもそもの目的が違い、瞬間移動自体は事故なのだけれど。
文字で見るだけでもおぞましいアレを、シリルは生で何度も見てきたのだろう。
…………。
「ん?何じゃヨースケ、いきなり抱きついて来おって。」
「いや、何となく。」
「むふん、仕方の無い奴じゃのぅ…………
そう言って、困った様に笑いながらも俺の頭を撫でてくるシリル。
そんな彼女に、俺が出来る事はそばに居る事しかないのが歯がゆいけれど………でも………
「むふふ……♪なでなで〜♪わしゃわしゃ〜♪」
シリルが楽しそうだから良いか、なんて事も思った…………
だが、俺はこの時知らなかった。
そのシリルがやらされていた実験と、その結果のせいで、俺が今ここに居る事を。
俺の居た世界は、とっくに…………………………
地球その物が異世界に転移して俺以外の地球上の生物全てが死滅していた事を。