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【器用貧乏】?違うわ、貴方は【器用万能】よ!~とある幼馴染み冒険者の軌跡~

待ってよメルト!君まで出て行かなくてもいいじゃないか!


止めないでノエル!

私は私の意思でアンタと一緒にここを出て行くって決めたの!

それとも私が付いてきたら邪魔なの?


いや、嬉しいよ!

幼馴染みの君が僕なんかの味方になってくれて、嬉しいに決まってる!!

僕なんかを愛してくれて…【無職】判定を受けた僕なんかを……大好きだって今でも変わらずに言ってくれて……泣くほど嬉しいに決まってる…………!

だけど、僕なんかと一緒に居たら【賢者】の判定を受けた君までー


……むぅ。

ノエルは分かってない、分かってないよ!!

良いよ、これから私が、アンタの本当の価値を教えてあげるから!!

私が誰よりも大好きで!誰よりも愛して大切にしてる!アンタの価値をね!!






















ー私達が住むこの世界には、【職業】の概念がある。

【職業】は5歳になった時と10歳になった時の2回までは【職業判定所】で無料で判定してくれるから、判明するのだけれど、その職業で人生が決められてしまうと言っても過言では無いんだ。

決められた【職業】以外の仕事も出来なくは無い、それに極めればその【職業】にもなれなくは無い。

後からでも有料とはいえ判定はしてもらえるからね。

だけれど最初からその【職業】を持っている人にはどうしても及ばないからそんな事をする酔狂な人なんて滅多に居ないし、居ても滅多に成功なんてしない。

だから皆、不満があろうと無かろうと決められた【職業】で生きていくしかないんだ………


だけれど、私はそんな世界の仕組みに、もしも本当に居るとするならば職業神に不満を持っている。

何故なら、職業神が私の大好きな幼馴染み(ノエル)によりによって【無職】なんて最低最悪な【職業】を与えたから………!

無職………それは"職業スキルが一切無し"のハズレ職………

職業神から見放された落伍者(らくごしゃ)……。

楽観的に考えれば努力次第でこの先なんにでもなれるけれど、さっきも言った様に職業持ちに劣るのに誰が雇うというのだろう!!

非戦闘職ですら【職業】スキルが無いと雇って貰いにくいし、肉体労働は誰でも出来るけど適した【職業】スキルが無いと安い賃金で使い潰されるだけだ………


まぁ、救済措置はある。

それが【冒険者】になる事………所謂【仕事斡旋所】だからね、【冒険者ギルド】は。

幸い、冒険者としてならノエルの【器用貧乏】が生かせるし、ギルドからのクエストとしてなら臨時の助っ人として適正【職業】無しでも仕事が出来るし。


……私の幼馴染みは昔からなんだって出来た!

出来ない事も頑張れば出来る様になって行った!!

そんな幼馴染みが私は自慢だったのになんで神様はそんな彼に【無職】……"あらゆる職業に適正無し"なんて判定を下したの!?


私ですら魔法万能職である【賢者】を貰えたからノエルならきっとあらゆる職業に適正のある【オールラウンダー】か、それの下位互換の判定が出ると思っていたのに!!


オールラウンダーは本当になんにでもなれる最強職……

本当の意味で自由な職業なんだ。

何をしても人並み以上、あらゆる職業より上か、()()()()同等にこなせるから。


なのになんで…どうして………!

私は当の本人よりも怒り、悲しんだ。

唯一の救いは、彼が固有スキル【器用貧乏EX】を獲得した事だろうね………

器用貧乏は、最初からあらゆるコモンスキルがCランクまで使える様になるスキル。

ただ、それだけなのだけれど………


ちなみに、コモンスキルのランクはSSS.SS.S.A.B.C.D.E.Fの9段階と判定不能なEXランクを足した10段階。


その点で言えば【器用貧乏】の固有スキルは【器用万能】と言う、"全スキルがSまで使用可能"なスキルに化ける可能性のあるスキルではあるのだけれど…………

と言うか、最近のノエルを見てると分かる、絶対【器用万能】に化けてるよ!!

だけど、その事にはノエル本人も含めて私以外の全員が気付いて居なかった……………



















ーノエル、お前はクビだ。」


「…えっ?」

「はぁ?」


「聞こえなかったのか?お前はクビだって言ったんだよノエル。」


「ちょっとリーダー!?ノエルがクビって何でっ!?」


「はぁ?態々説明しなきゃ分からないのか?賢者様ならクズのコイツと違って賢いはずだろうメルトちゃんは。」




確かに私は職業【賢者】の持つスキル、【記憶力強化S】や【絶対記憶(魔法)EX】、【賢者の知識EX】、【魔法知識SSS】、【四則演算A】、【判断力A】なんかの頭が良くなるスキルも持っている。

だけどそれを加味してもノエルが…私の幼馴染みがクビになる理由が全く分からない。



「ええそうね、なにせ私は曲りなりにも賢者だもの、頭は良いかもしれないね。

だけど、()()()()()()()()()理解出来ない、と言っているのよ。」


「ははは、冗談だろうメルトちゃん!

なら改めて言ってやるが、コイツ、戦闘では全く役立たずじゃねぇか!!」


「うぅ…。」


「はぁ?役立たず………?」



どこがよ。

本気で首を傾げる私に、このパーティーのリーダーであり【勇者】の職業を持つシュートは、ノエルを嘲笑う様に言い放つ。



「だってそうだろう?攻撃魔法の威力は弱くて牽制にもならない!

盾役(タンク)を任せてもマトモに引き付けられない!

回復魔法も支援魔法も中途半端だし斥候なんかも他の奴より劣化する!!

じゃあコイツには何が他の奴より出来るんだ?」


「…確かに、戦闘面だけを見ればそうかもしれない、だけれど、それは彼が《全てサブとして動いているから》でしょう?

1度でも彼をメインに添えた事はあるの?

それに、作戦の立案は彼の功績だし身の回りの世話や荷運び何かも彼のお陰で快適じゃないのさ!!」


「それは全部賢者であるメルトちゃんのお陰だろう?

錬金術スキルはあるのに【マジックバッグ】すら作れなかったコイツはただ君と俺達に寄生してるだけのクズじゃないか!

確かこのクズとメルトちゃんは幼馴染みだったか?

だからって庇う事は無いよメルトちゃん!!」



………本気で理解が出来ないよ。

確かに私には賢者のスキルでそれらに関する知識、【戦術考案A】【戦闘指揮A】もある、だけれど"スキルに寄る知識"と"自力で調べて身に付けた知識"とでは埋まらない差というものが出来る。

あくまでスキルは補助であり、経験に基づいた生の体験談を聞いたりして得た知識なんかはかなり有用だったりするもの。

それこそ、作戦は本当にノエルがメインで考えてるし行動方針もノエルがメインで考えたものを提案してる。

私とノエルの2人で考えて初めて作戦は完成するの。

だけど誰も【無職】であるノエルの提案なんか聞きやしないから何時しかノエルは【賢者】である私に言わせる様になってしまった……

それもいけなかったから一概に私達が悪くないとも言えないのだけれど。


ただ、言わせてもらうならそんなスキルを補助として考えてないこんな奴等とパーティーを組んだ事が間違いかなぁ………

確かにスキルが強力な彼等だけれど、スキルに頼りきりで鍛錬をしている所なんて見た事が無いから………


確かに、【勇者】なら最初から物理戦闘系スキルが全てSランクまで使える状態から始まるし、

魔導師(ハイ・ウィザード)】を最初から手にした彼女や【聖女】の彼女、【神弓】の彼や【大騎士(ハイ・ガーディアン)】の彼………この人達は確かに強い。

皆それぞれの役割に必要なスキルをSランクまで使える。

だけれど、それだけだ。

研鑽をしないから、中身が無いのよ。


私だって【賢者】の恩恵で全ての魔法関連スキルが最初からAランクまで使える状態からスタートしたけれど、ノエルと一緒に鍛えに鍛えて攻撃や回復はSSランク、一部支援魔法もSランクまで使える様になった。

そう、努力次第でいくらでも上は目指せる。

そこだけは居るかも分からない神様に感謝してる。


だって今のノエルは私を支援する為に必要になりそうなスキルは軒並みBランク以上になっているんだから。


近接戦闘に必要な【短剣術B】、【小盾術A】、【耐久力A】、【回避力S】等、

斥候に必要な【隠密A】、【罠師A】等の複合スキル全般、

治癒魔法全般に魔力消費が何かと多い(本職の魔導師や聖女より攻撃魔法や回復・支援魔法の使用率が高い)私に魔力を譲渡する為の【魔力譲渡S】や【魔力回復力上昇SSS】、【魔力消費減少A】、【魔力の呼吸A】等、


ハッキリ言ってノエルは1人で何でも出来るし私にとっては唯一無二の相棒だ。

ノエルが居なければ私は【賢者】の職業を持っていても冒険者になろうとは思わなかったし、

【賢者】の職業があるからこそ冒険者になると決めたノエルについて行くことが出来た。


幸いにも私は、ノエルが1人で消えようだとか、私に申し訳ないだとか釣り合わないだとか馬鹿な考えに至ったとしても私が手を差し出せば取ってくれるように"大好きだ"と伝えられたから、ノエルは迷いつつも私の手を取ってくれた。

それが何よりも嬉しくて今でももっともっと"大好き"を伝え続けている。


……そっ、それに…魔力譲渡はキスする必要があるし…ね………?

つくづく、恋人になれていて良かったと思う。

…………10歳の時に改めて無職だと判定された時に畳み掛けるように好意を伝えて恋人になったからね私は!





《ノエルが何処に逃げたって!私は探知魔法でもなんでも【賢者】の持てる力を使って探し出して"大好き"を伝えてやるんだからぁぁっ!!

ぜったいに!ぜったいに!!誰がなんと言おうと!!!私はノエルの事が大好きなんだからぁぁぁぁっ!!!!》




言葉だけじゃ伝わらないと思って全力で抱き着いたしなんなら思い切りキスだってしてやったわ!!

そうじゃなきゃ……絶対に後悔するって、私の【直感EX】が伝えてきたから。

………何故【賢者】の私が【直感EX】を取得したのか分からないけど、この時の私はこのスキルにものすごく感謝した。

実際、ノエルはこっそりと私達の生まれ故郷から去ろうとしていたからねその時。


結局、生まれ故郷の奴等は実の両親ですら【無職】のノエルを冷遇し続けていたから、そのまま故郷から旅立った。

端から私はノエルを止めに来た訳じゃなく、ノエルと共に旅立つつもりだったからね。

それ以来私はずっとノエルのそばに居る。

ノエルはそんな私の恥になりたくないと頑張ったからこそ、今のノエルをバカにするこのリーダーが許せなかった。



「ーしんっっじらんない!!馬鹿じゃないの!?

私のノエルをバカにすんじゃないよっ!!」


「メルト…


「止めないでノエル!」


「良いんだよメルト。

君さえ僕を必要としてくれるなら、僕は満足だからさ。」


「分かってるよっ…!

私だってアンタが頼れる私で在ればそれで良い…!

だからね、リーダーさん?」


「ん?なんだよ怖い顔をして〜美人が台無しだぜ?」


「ノエル以外から美人とか言われても嬉しくないね!

「メルト可愛い。」

「ありがとノエル♡でも今ここで言う?」

「ごめん。」

「許さないから後でキスする。」

「分かった。」

「我慢できない、今する。んぅ…♡

ーとにかく、ノエルをクビにするなら私はノエルについていくよ!!」


「ほぅ………?」



瞬間、リーダーの雰囲気が変わる。

なるほど?暴力で黙らそうって訳ね。

確かに【勇者】の職業持ちなら【賢者】と【無職】を制圧するのは容易いだろうね、

…………()()()()()()()()()()()



「ーサンダーブレイド!」


「残念だよ…リーダー……


「ーは?」



瞬時に放たれたリーダーの斬撃は、しかし私の杖に受け止められていた。

更にその喉は既にノエルに切り裂かれていた。


まぁそうなるだろうね。

だって私、さっきのキスの時に【プロテクション】と【クロックアップ】の魔法をノエルに直で叩き込んだし。

ノエルは私に【フィジカルアップ】と【プロテクション】の魔法を入れて来た。

《身体強化魔法は口腔摂取だと物凄く効果が上がる》

これは私の【賢者の知識EX】にあったんだ。



「先にそっちが本気で殺しに来たんだから、仕方無いデショ…?」



ノエル以外に、私は容赦しない。

ノエルだってもう、自身をちゃんとヒトとして扱ってくれる私以外には容赦が無くなっていた。

何せこの旅路の間、何度もこうゆう事があったもの。

【賢者】の私欲しさに、私が愛する【無職】のノエルを殺しにかかるバカ共の愚かで浅はかな襲撃が、ね。


と言うか、どれだけ人気なのよ【賢者】。

私なんかそうやって冒険者を返り討ちにしてきたから《美人局(つつもたせ)の賢者》なんて不名誉な2つ名がついてるんだけど。

とはいえ、ノエル以外にはどう思われようがどうでもいいけどさ。

ちなみにノエルは《賢者の寄生虫》とか言われてる。

ぶっ潰してやろうかしら、冒険者共。

冒険者ギルド自体は良くも悪くもドライだから実績だけで評価してくれるからありがたいけど。


ちなみに、私もノエルも既にBランク冒険者。

一般的には中堅冒険者だね。

(冒険者ランクは上からS.A.B.C.D.E.Fの7段階)

一流冒険者と呼ばれるAランクまで上げれたらもう誰もノエルに文句を言えないはずだわ。

(Aランク以上は国や貴族相手に仕事をする可能性が出てくる為、個人で承認試験を受ける必要がある。)


今回のこの依頼だって、承認試験前の最後のクエストのつもりだった。

資金も資格も充分だったからね私とノエルは。


難なく馬鹿共を倒した私は、小さくため息をついた。



「……はぁ。予想通りと言うかなんと言うか…………。」


「メルト、しっかり記録はしたよね?」


「当然よ。正当防衛が証明されなきゃただの人殺しだもの。」



特に今回は希少職の【勇者】と【聖女】持ちを殺してしまった訳だし。

………冒険者ギルドからの私達への評価は《実力を過信した馬鹿共の掃除屋》だからね。

キチンと正当防衛である事を記録さえすればかなり便宜を図ってくれる。

……………………まぁ、私自体も希少職の【賢者】持ちだから、なのは多大にあるだろうけどさ。


















シリル:ーそう、コレは、かつてワシが滅ぼした世界の軌跡。

その残滓じゃ。


ヨースケ:仕方ないだろ。あの世界は、あんな仕組みであった以上、発展なんかし得ない頭打ちの世界だったんだからさ。


シリル:じゃが、"僅かな可能性の芽"まで摘んでしまったのじゃ………!

ワシは……ワシは………!!


ヨースケ:それでも、殺るんだろ?


シリル:………あぁ、それが、概念となったワシじゃから。


ヨースケ:…付き合うさ。俺はシリルの旦那なんだから。



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