とある終末のプロローグ
ーヨースケ、これ!起きんかヨースケ!!
なんだよ、うるさいなぁ……
もう少し寝かせてくれよ………
まったく、世界が滅んだと言うに、相変わらずの寝坊助じゃのう、お主は。
まぁ、そこが可愛くもあるのじゃが………
…うん、温かい。
柔らかい手が俺の頭を撫でる、
頭の下に、枕とは違う柔らかで温かい感触が入る。
ふむぅ……しかし、よいではないか。
そうさ、こやつの世界は、とうにワシが滅ぼしたのじゃから。
こやつにはもう、なーんも務めなぞ無いのじゃから。
ん?
何を言っているんだ??
そうは思ったものの、柔らかい感触と、心地の良い声に俺の意識は再び微睡みの中に沈んだ。
ーああ、悲鳴が聞こえる。
『早く助けろよ!』
と誰かの怒号が聞こえる。
『ハッ、無駄な足掻きよ。
ワシを誰だと思うておる?』
………そして、俺の大好きな、【あの人】が、"人類"を嘲笑する声が聞こえる。
『ー【終末の魔女】、ワシを、【シリル=イルハート】を、不名誉なその渾名で、そう呼んだのはお主らじゃろう?』
『ふざけんな!ふざけんなよ!?
我等を滅ぼすなどと!貴様は神にでもなったつもりか!?』
『神?神と来たか!
ククッ…笑止…!ワシはそんなモノに成ったつもりは毛頭ないわっ!!
ワシはなぁ?ー』
……あぁ、【彼女】は、ただ、俺にだけは勝気なニカッとした笑顔を、そのツリ目を少女の様に楽しげに緩ませて、その紅蓮の髪を焔の様にゆらめかせ、視線を寄越した。
大好きな、大好きな、彼女の笑顔だ。
『ーワシはただの、こやつの嫁よ!!
我が最愛の旦那様を苦しめるこの世界、
お主らのお望み通り、終末の魔女が終わらせてくれよう!!』
…………望まずとも元の世界で【終末の魔女】と呼ばれていた、ひょうきん者のシリル。
これは、そんな……
俺が大好きで大切な、俺の為に世界に終末をもたらした彼女と、
彼女が大好きで、世界を敵に回すほど愛してやまないと言ってはばからない俺の物語だ。