三度目
男は追われていた。
男の職場が火事で全焼し、職を失ってからもなかなか職が手につかず、人間関係も上手くいかず、借金をして、人からの信頼を失い、家を失い、男の出来る限りを尽くしたが、最終的には男の元には何も残らなかった。
元はと言えば、自分の職場が火事で無くなってしまったことが原因だと思いながら強盗をした。そうであって欲しかった。
店主を脅すために発砲したら、運悪く発射された弾は近くにいた客に当たり、また運悪くその客は死んでしまった。
男はただ頭が真っ白になった。
男は店主に出させた金も持たずに慌てて店から飛び出した。車に乗りこんだはいいが手が震えて上手くキーを指すことができない。
ブレーキを踏み込んだ。
片手に拳銃を握り締めたままでハンドルを握り、バックミラーを見て後方に確認をしてからやっと発進出来た。
店主が電話しているのが一瞬見えた。
ただ捕まりたくない一心で、ハンドルを左右に回し、猛スピードで道路を走り続けた。
すると遠くからパトカーのサイレンの音音が聞こえた。
男は焦った。
もうすぐそこまでパトカーが近づいてきてるのがわかった。手には汗が滲み、アクセルの踏み込む力が増した。
男は気になって仕方がなくなり、後ろを見たらパトカーが見えた。
男が前を向いた瞬間、車の前には人がいた。赤信号だった。
男はもう焦ることをやめた。
男は考えた末に考えることもやめ、拳銃の引き金を引いた。
この男は最後の最後まで運が悪かった。