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呪いの雛人形  作者: 矮鶏ぽろ
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サプライズ雛人形


『雛飾りを注文して届けました。驚かないで下さい』


 ――!

 まさかの――雛人形送りましたメール!

 私の母親から、娘へのサプライズ雛人形――?


 どんだけ驚いたことか――! サプライズがこれほどまで功をなすのを今までに私は知らない――!


 頭の中が、真っ白になった……。


 世の中には……。欲しくても欲しくても雛人形を買ってもらえない女の子。友達に自慢されて悔しい思いをした女の子。親に買ってとねだっても、「うちにそんなお金なんかありません!」と怒られて泣いた女の子。お姉ちゃんが遊ばしてくれないと泣いた女の子。雛祭りをしたくてもできない男の子――。


 そんな女の子は大勢いるというのに――!

 雛人形を――サプライズで買うなんて――!


 ……つ、つ、妻になんと言ったらいいんだ?


 慌てて母親に電話を掛けた。

「――ちょっと、母さん! なんでそういうことは買う前に相談してくれないんだよ!」

『あら、五月人形はあったけど、雛人形はなかったでしょ?』


 それが、今はあるんよ……。


 それに、長男に買ってもらった五月人形……。これも……ガラスのケースに入ったやつが……二つもあるんよ――!


 タンスの上をダブル五月人形が占拠し続けているんよ――!


『別にいいじゃない』

「それがよくないんよ……」

 なんとか打開策を考える。せっかくの母の行為を無駄にはしたくない。雛人形を貰い受けてきた時の妻も……同じ気持ちだったのかもしれない……。


 ――は、そうだ!

「兄貴のところに去年、娘が生まれただろ? 実家を継いでいるんだから、先にそっちに買ってあげるのが筋じゃないか?」

 七段までの雛飾りセットなら……車で運べるのは実証済みだ――!


 娘が一歳の時に雛人形があっても、ぜんぜん問題ないだろう――!

『うん。買ったわよ。一緒に』

 一緒に……? 一緒に買っただと――!

 二つ同時に買うと、お安くなりますよ……と人形屋さんに言われたのであろうか――。


 巧みな話術に引っ掛かったのだろうか――!



 電話を切る俺の顔は、渋柿を口一杯に頬張ったような顔だった。

「おかんが……おかんが……。――雛人形を送ってくる――」

 妻も渋柿のような顔をする――。

「――ええ! どこに飾るのよ!」

「……」

「なんで、相談しないのよ――!」

「……」

「もう、どこにも置く場所なんてないわー!」


「いや、ある。俺の部屋なら……なんとか」

 ごちゃごちゃした小物を端に寄せて、ベッドを解体してお布団にすれば、なんとかなるかもしれない……。

「あなたの部屋に飾ってどうするのよ――!」


 もう、半泣き状態だった……。

 まさか宅急便の運転手に、「雛人形の受け取り拒否」なんてできない――。



 届いた雛人形が、お内裏様と三人官女だけの小さなセットなのを確認すると、妻と胸を撫で下ろした。しかし、それでも一メートル四方はあるその雛飾りを娘の部屋に置くと、……勉強机が置けなくなってしまった。



 あれから数年が経ち、今年も嫌な季節がやってくる。娘はもう中学生だ。

 友チョコのお返しで三月は忙しい。イベントとしては、ホワイトデーに雛祭りは負けているのではないだろうか。


 妻がため息混じりに人形を飾る……。年に一度は出して、天気のいい日に片付けをしないと人形にカビが生えてしまうそうだ。


 まるで娘のように……人形を大切に、そして丁寧に扱うので……。


 ……壊れないし捨てられない。


「娘が結婚したら、持って行ってもらうわ」

 それは……雛壇を二つも持って嫁がせるおつもりですか?


 その行為こそ、先祖代々続く呪いと化する――! 捨てるに捨てられない。手放す方法は……子供が娘を授かった時のみ――。


 近くに貰ってくれる人でもいればいいのだが、妻が子供の時に買った年代物の雛人形……誰も欲しがらないだろう。引き取ってくるれるサービスもあるそうだが、それができるのなら……こんな苦労はしていない。



 お雛様の顔を見ていると、昔の人形はふくよかで愛嬌があり、――捨てるなんてとんでもないと思えてくる。


 ……ちょっと、今、笑った?

 ……クスクスじゃなく、口元を押さえて、プププって――。




ため息をつきながら雛壇を飾ったり片付けたりしていると……。ほら、お雛様が笑っている……。


読んでいただき、ありがとうございました。



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