あと、5分...
前回までのあらすじ
徹夜でゲーム(ポ○モン)
↓
寝落ち
真っ白な部屋の中央から少し離れた位置、そこに置かれた椅子にその少女は座っていた。
その美しい容貌には、どこか不満げな色が浮き出ている。
少女の様子を見るに、彼女の不満の種は彼女の持つ1枚の書類にあるようだ。
少女は、その書類を穴が空くほどじっと見つめると一言、
「遅い…時間がないのに…」
と呟いた。
どうやら、少女は彼女の待つ何かが書類に書かれている時間通りに到着していない事に、苛ついているらしい。
それからしばらくして、遂に待ち続ける事が耐えきれなくなったのか、少女はやや苛立たしげに足音を響かせて立ち上がる。
すると、少女のその行動を待ち計らっていたかのように、部屋の中央で淡い光が立ち上った。
光はゆっくり広がると徐々に形を変えて行き、やがて緻密で複雑な図形を描き始めた。
「やっときた、6時間も待ちましたよ」
待っていたものが現れたのか、胸をホッと撫で下ろすような仕草とる少女。
そして部屋の中央を陣取る光は不意に動きを止めて、光の描く図形はその形をはっきりと表した。
「まるで魔法陣だ!」ファンタジーやオカルトが好きな者がこの場に居たならば、恐らくはそう口にせずには居られなかっただろう。しかし、少女は喜びこそその顔に浮かべながらも全く驚いた風もなく、光の様子を見つめている。
図形が完成してからどれ程経っただろうか、動きを止めた時と同様、光は不意にその輝きを増した。
しばらく経つと、図形の上空で光の粒子が何かを型取り始めた。図形を描く光の輝きが収まるに連れて、その何かは徐々にはっきりとした姿を型取り始め、遂には1人の人間となった。
光の弱まりと共にその姿を消した図形、それの位置していた部屋の中央部へと、人間はゆっくり降りて行く。
つい先ほどまで部屋の主であった少女は、床に横たわる人間を見つめている。人間ー恐らくは少年ーの容貌と、手元の書類を見比べながら、
「短く刈られている黒髪、浅黒く焼けた肌、そして比較的小柄な体躯…」
と呟き、1つ頷くと少年の方へ歩を進める。少年の元までたどり着くと、そのまましゃがみこみ、
「起きて、起きて」
と言いつつ、ペチペチという擬音がつきそうな手つきで少年の頬を叩いたのだった。
*****
「…て、…て」
寝起きのぼんやりとした耳にそんな声が聞こえた気がした。
空耳だと思って聞き流し、優雅に二度寝でも決め込もうか、などと考えるも、やはり依然として
「…きて、…きて」
と声が聞こえる。
俺は別に黒ヤギさんではないが、こうも呼ばれては仕方がないのでお返事せねばなるまい。そして返事をするのならば、やはり今の自分の心をストレートにまっすぐなおかつ率直に伝えるのが良いだろう、なんて半分以上寝ぼけた頭で考えると、右腕を高く掲げ右手の五本指をしっかりと開き、先程からずっと俺に呼びかけている声の主に対してたった一言告げた、
「あと、5分…」
と。
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