60.ヒロカ
ほとんど中身の入っていない通学鞄を肩にひっかけて、私は音楽室に駆け込んだ。
入り口に鍵をかけ、奥の準備室のロッカーを開いてギターのハードケースを取り出し、開く。
サウンドホールの周りの金色の装飾が輝く。
私はケースを片付けるのももどかしく、ストラップに体をくぐらせた。
F#m、C#m、D、E、思いつくまま、力強くピックを弦に叩きつける。
早く、この気持ちが少しでも色あせてしまう前に、メロディに定着させるんだ。
コードを形作る左手が無秩序に形を変えて、私の求める音を探し回る。
理論上はそのコードの上に乗るはずのない音でも構わない。
材料はたった一つ、胸の中に抱えた感情の塊。
そこから糸を紡ぎ、時間という流れに乗せる。
音の世界が見せる無限の可能性の中から、私だけが見出せるビジョンを形作っていく。
もどかしさと、憤り。
やり場のない思いは、酷い消化不良を起こしたように私のお腹の中につかえている。
今にも意味のない叫び声として漏れ出しそうになるそれを、可能な限りありのまま、メロディに変換する。
そうでもしないと、突きつけられた理不尽に心が屈してしまいそうだった。
結局その日だけで二曲、スマホに新曲を録音することが出来た。
気が付くと時計は十時を回っていた。
私は慌ててギターをケースにしまい、そのまま持って帰ることにした。
教科書を持って帰らないという選択はある意味正解だったかもしれない。
灯りの消えた廊下と階段を駆け抜けて、昇降口から出る。
真冬の身を切るような空気の冷たさが、むき出しの膝と顔面を襲う。
一瞬怯みかけたが、すぐに口元を引き締め、走って帰ることにした。
運動が苦手で長距離走なんてカマドウマと同じくらい嫌いだった私が、一度も立ち止まったり歩いたりせずに家まで辿り着いた。
燻る怒りが、私の背中を追い立てていた。
「ただいま」
この家というか、この店の構造上、どんなに後ろめたい事情があったとしても正面から入るしかない。
特に理由もなく、連絡も入れずにこんなに帰りが遅くなった日であっても、だ。
「……言い訳は?」
レジの中で頬杖をついてこちらを睨みつけているお母さん。
私はすたすたとその前に歩み出た。
「ない。遅くなってごめんなさい」
「……」
更に眉間の皺を深くするお母さん。
「なんで謝るくらいなら先にメール一本入れないのよ。何のために携帯もたせてると思ってるの?」
「ごめんなさい。次から、ちゃんと連絡するから」
「……?」
いつもならもごもごと言い逃れや反論を口にするはずなのに、やけに潔い私を気味悪がって、お母さんは黙りこむ。
私はその隙にさっさと二階へ登った。
自分の部屋に戻って制服を脱ぎ、ハンガーにかけて、下着姿のままスマホのメールアプリを立ち上げる。
今日出来たばかりの二曲を、早速メイに送った。
すぐに既読はつかないし、今日は朝に一本メールをくれたきり音沙汰が無い。
忙しいのか、家庭のことで頭を悩ませているのか、それとも両方か。
何にしてもそのことを心配したり思い悩んだりは、もうしないことに決めた。
もしメイが助けて欲しいと言ってくれるなら、その時は全力で彼女の救援に向かうことにする。
そうでないなら、私は私のやるべきことをやるんだ。
空元気でもなんでもいい。
目標に近づくために不要な気持ちは無理矢理抑え込んで、自分の心に鞭を入れる。
次のライブは、もうIrisだけのためのものじゃない。
高橋くんの思いに報いるためにも、何が何でも成功させなくては。
スウェットに着替えて、パソコンを立ち上げる。
今日作った曲は、今日中にデータ化しておきたい。
会場のことも調べなくては。
もう残された時間は少ない。
作業は夜明けまで続いた。
それでも、朝八時には目を覚まして、私は朝食をとっている母に相談を持ちかけた。
「はい?アルバイト?」
「そう。最悪、ここの店番でもいいんだけど」
「最悪って……あんたね」
「お願い。クリスマスまでにどうしてもお金が必要なの」
「……」
お母さんは手にしていた漆器から味噌汁を零しそうになって、慌てて手首を起こす。
「あのね、急に変なこと言い出さないでよね。そんな借金に追われてる人みたいな」
「いいから。お願い。絶対無駄遣いとか、変なことには使わないから」
「……男絡み?」
「違う!」
私は食卓に勢い良く両手をついて、そのまま頭を下げた。
「……お願い。どうしてもなの」
「……そういってもねぇ……お父さんに聞いてみないと」
「絶対話がこじれるに決まってるよ!ほら、お母さん前にいってくれたでしょ、困ったらお母さんに言えって!」
「あぁ、まあそうだけどさ……」
「じゃあ、ここでの店番!土日丸々二日間やったら、いくらになる?!」
「四千円」
「やすっ!」
私の腕から力が抜けて、食卓に突っ伏した。
「だって、バイトなんて雇う余裕も必要もないんだもの。労働力の押し売りされても困るの」
だからといって、二日で四千円とは……。時間のロスがあまりに大きすぎる。
かといって、より好みは出来ない。
昨日の夜の調査では、他のところで短期のバイトなんて、私には到底勤まりそうもない力仕事くらいしか見つからなかったのだ。
「せめて五千円!」
「無理ね」
「四千五百!」
「別にほか当たってもいいのよ」
「四千三百!」
「……」
「四千二百五十!」
「刻んだね」
「四千二百!」
「はいはい、分かったよ」
根負けしたというように、たくあんを齧りながらお母さんは不承不承頷いた。
「ただし、働くからには半端はダメだよ。店番だけじゃなくて、ちゃんと私の代わりになるように働くこと。あと、ミスったらその分減俸するからね」
「……了解」
「早速今日からね。お父さんにはバイトのことは伏せとくから、ただのお手伝いってことにしときな」
「わかった!ありがとう!」
普段お母さんは二階の方の店番担当と、閉店後のレジ閉めをしている。
細かな作業内容は都度聞きながらになるかもしれないが、本の配置などは勝手知ったるものだ。
何も知らないお店に飛び込んで働き始めるよりはずっとスムースなはずだ。
私は部屋に戻り、動きやすいジャージ姿に着替えて、その上に紺色のエプロンを装着した。
一応のユニフォームである。
「……ったくもう、突然休みにしてもらったって、まったく予定も何も立ってないのに」
グチグチ言いながらも、朝食を終えたらしいお母さんが二階の売り場に上がってきた。
私は居住まいを正す。
一応客商売なので、見てくれにも多少は気を使わなくてはならない。
「開店の方は、お父さんが下でやってるから、あんたは本の補充からよ。平積みの本は下の引き出しにストックが入ってるはずだからそっから出す。もし引き出しの中になければ、バックヤードから探しだして陳列棚と引き出し両方に補充。OK?」
「Aye, ma’am!」
すぐに走りだそうとして呼び止められる。
「軍手。指先とか切ったら、ギターに影響あるでしょ」
「……ありがと」
黄色いイボの付いた新品の軍手を一揃い受け取って、私はまず店内を巡回し始めた。
新書、文庫、ハードカバー、コミック、地図、参考書、ところどころに補充が必要な箇所を見つける。
三箇所に一箇所はバックヤードからの補充が必要だった。
雑然と積まれた段ボールの中から目当ての本を見つけるのはなかなか骨が折れ、見つけたとしても四段に積まれた段ボールの一番下だったりする。
狭いバックヤードの空間をなんとかやりくりしながら上の箱を降ろして目当ての本を取り出し、また上の箱を戻す。
たちまち汗だくになって、ジャージを脱ぎ捨てた。
苦労して取り出した本を補充し終えたと思ったら、すぐ隣の補充対象がさっきと同じ段ボールの中にあることに気付いてげんなりした。
また同じ作業の繰り返しだ。
Tシャツ姿で段ボールを持ち上げたりおろしたりしていたら、段ボールの蓋の側面で二の腕を切ってしまった。
深い傷ではないが、たらりと血が出た。
痛みよりも、痕が残らないかという心配よりも、本を汚さないように気をつけなくてはならなかった。
商品を汚したりしたら間違いなく減俸だ。
これ以上時給を下げてたまるものか。
私は大きめの絆創膏で傷に蓋をし、暑いのを我慢してジャージを着こむことにした。
次メイに会った時に傷だらけは避けたい。
「補充まだ終わんないの?もう開店だよ」
「げ、やば……」
さっきと同じ間違いを繰り返さないように、補充が必要な本を先にリスト化して、全ての番号を控えてからバックヤードに向かうことにする。
無駄な箱の移動は大きなタイムロスだ。
対象の本は台車に並べておいて一気に運ぶ。
狭いバックヤードと店内だが、ぎりぎり台車で行き来できるだけの間隔は設けられているようだった。
それでも気をつけないと段ボールとその中の本を傷つけてしまったり、陳列されている商品を落としてしまったりしそうだ。
慎重に、でも開店時間には間に合うように急いで、台車を転がす。
何とか時間内に補充は終えることが出来た。
「はい、じゃああとは、除湿機の水溜まってるから捨ててきて。棚の上の埃払って、床の上モップがけ。全部終わったらレジに入って、陳列ポップの切り抜きと色付け。出来たものから棚に貼り付けていって」
除湿機?そんなのどこにあったっけ?
ハタキも、どこかで見た気がするけど、置き場はどこだろう?
モップは分かるが水道は一階だからバケツで水を汲んでくるのか?
そのあとは……ポップをどうするんだっけ……?
混乱しながらも、脳内の記憶をなんとか引っ張りだして順にオーダーをこなしていく。
やっと作業に取り掛かるとお客さんが商品をもってレジに来たりする。
もたつきながら会計と本のカバー掛けの対応をしていると、どこまで作業したのか忘れていたり、そもそも残作業が何だったのか自体を忘れていたりもした。
結局、ポップの対応は午前中には終わらせられず、作業は午後に持ち越しになってしまった。
昼食の時間として一時間の休憩を与えてもらったが、すでに作業がビハインドなので十五分で食べ終えてレジの中に戻った。
甲斐あって、お客さんが少ない内に用意された全てのポップを仕上げて店内に設置できた。
「午後は、何か特別すること、あったっけ?」
「明日新刊が入ってくるから、その準備ね。平積みは向かって左手側が最新作、右手側が準新作だから、一番右は棚の陳列に降格して空いたスペースの分全体をスライドさせておいて」
「新作のリストは?」
「発注表がレジの棚の中にあるから、それの納品予定日が明日になっているやつ」
「了解!」
返答してみたものの、表に記載されているのはISBNだのCコードだのという数字だけで、実体が全くわからない。
お母さんがいつもレジの中に置かれた古ぼけたデスクトップパソコンをいじっていたのを思い出して、とりあえず見てみることにした。
配管が延々と伸びて回るという古めかしいスクリーンセーバーを解除すると、見慣れないアプリケーション画面が表示される。
検索ウィンドウに発注表の数字を入れ込んでみると、書籍情報を表示することが出来るようだ。
しかし、明日の入荷予定分すべてをちまちまこれで調べていくのだろうか……。
お母さんに確認しようと思ったが、どうやら買い物に出かけたらしい。
小説や文庫本は新しい物を目立つようにするのは当然だが、地図や参考書はどうなのだろう?
参考書なら教科や出版社、地図なら流行りの旅行先とかによって優先順位があったりするのだろうか?
適当にいくつかだけ最新の場所に配置して、それ以外は棚と引き出しの中に放り込んでしまっても構わないのではないか……。
私は頭を振って妙な考えを振り払う。
私とメイの目指す目的を果たすためのステップに、そんな適当があっていいはずがない。
最新の場所に置くべきか判断が付かないものはメモに書き留めておいて、後で確認することにしよう。
壁に取り付けられた年代物の振り子時計を見ると、針は三時を指していた。
もうかなり長い時間働いているような気がするが、それでも閉店時間までまだまだだ。
私は寝不足の頭を振って、新刊情報の収集に没頭することにした。
全てはメイとのステージのために。そう思うだけで、寝不足も苦にはならなかった。
その夜、市内の貸し会場情報を全て調べ終えて、やはりやるとすれば新山公園が良いだろうとの結論に達した。
敷地が広いし、何より位置が理想的だ。
麻生高校の生徒が来やすいことはありがたいし、出来るなら商店街の人達や、別の高校の生徒達にも聞いてもらいたい。
今年の十二月二十五日はカレンダー上では平日なので、休日よりも少し安い料金で貸しきれるのがありがたかった。
「十二月二十五日、夜六時~八時、貸し切り、一万五千円か……」
毎週末の給料が四千二百円。
クリスマスまで週末は三回しかないので、稼げるのは一万二千六百円……。
お年玉の貯金はメイと遊びまわっている内にほとんど使い果たしてしまっていた。
古本や古着を売りさばけば、なんとか不足分を捻出できるだろうか……。
どのみち、今年はメイにまともなクリスマスプレゼントは贈れないことになりそうだ。
残念だが、きっとメイも今はライブをすることを再優先に考えているはずだ。
来年こそは早めにバイトを始めておくことにしよう。
ともあれ、予約が取れない事態だけは避けなくてはならない。
私は申し込みフォームに必要事項を記載して、予約申請を提出した。
パソコンを閉じて、大きなため息を一つ。
体も頭もヘトヘトに疲れきっていた。
多分明日は朝布団から起き上がるのも難儀するほどの筋肉痛だろう。
しかし明日は今日以上にハードな仕事が待ち受けている。
へこたれているわけにはいかない。私はメールアプリを立ち上げた。
『ライブの準備、ばっちりしておくからね!送った曲にも、時間があったら歌詞つけておいてね!』
変に返信に期待して時間をムダにしないように、すぐにスマホを切ってしまおうと思っていたのに、その日に限ってすぐに既読がついた。
入力中のアイコンも表示された。
『メールできてなくてゴメン。送ってもらった曲聞いたよ!聞いてるとじっとしてられない気分になれて、ワクワクしてる。今、一生懸命歌詞考えてるよ』
久しぶりにリアルタイムでメールで会話が出来ることが嬉しかった。
同じ時間にお互いスマホに文字を打ち込んでいるという繋がりは、すぐそばにいて会話をしているのとはまた感覚の違う繋がり方だった。
『歌詞、楽しみにしてるね。メイの方は、どんな感じ?』
できるだけ気負わず深くは踏み込まず、軽く聞いてみたつもりだったが、文字ではそんなニュアンスを全て込めることは不可能だった。
『お母さんの入院の手続きとかで、もうちょっとこっちから離れられないかも』
『そっか……』
どんなに覚悟していたつもりでも、いつ会えるのかがはっきりしないと気持ちが沈みそうになる。
クリスマスには会えると分かっていても、丸々三週間離ればなれなんて、耐えられるだろうか?
自分の部屋を見渡す。
前回メイが泊まってくれた時のことが思い出された。
初めて触れた、メイの体温。私を無条件で幸せにしてくれる、魔法のような感触。
あまりに印象強く覚えているだけに、その持ち主が手の届かない所にいる事実が切なくてたまらなかった。
本心ではそんな気持ちを伝えたいと思っているのに、はっきり言えない自分が嫌だった。
寂しがるなら素直に寂しがる、いい子で待つならメイが全く心配をしなくて済むだけの空元気を振り絞る、どちらかにできればきっとすっきりするはずなのに。
メイに気付いて欲しくて、その上で優しい言葉をかけて欲しくて、私はどっちつかずの言葉ばかりを返信する。
そばにいれば、こんなに嫌な自分を自覚しないで済むのに。
メイの事情に理解があるフリをしながら、上手くいかない色々なことを二人の間の距離のせいに落ち着かせようとしている。
本音を言ってしまえば、学校をサボってでも会いに行ってしまいたい。
メイが今いる場所を尋ねる文面を入力して、送信をタップする直前で、慌てて削除した。
何処にいるか知ってしまったら、私はきっと自制できなくなってしまうだろう。
ライブ会場のためのお金を稼がなくてはいけないのに、交通費なんか出せるわけがない。
今は、とにかく我慢だ。私は意地で最後の一線を踏みとどまった。
『大変だろうけど、せめて夜はしっかり眠って、体調だけは崩さないようにしてね。最近どんどん寒くなってきてるから、温かくしてね』
やり取りを収束に向かわせるような文面を打ち込みながら、目尻に涙が滲む。
二人でいる時は、平気で一緒に夜更かししてて、それでもへっちゃらなのに。
二人でいる時は、望むだけ相手に温かさを届けることができるのに。
『うん、ありがとう。ヒロカも、お布団剥いでお腹出して寝ちゃダメだからね?』
お姉さんぶった文面。
私はクスリと笑って、お休みの挨拶を打ち込んだ。
『ねぇ、ヒロカ。何でなんだろ?』
メイが私の返事を待たずに送ってきた内容に、私は書きかけの文字を消して、尋ねた。
『え?何が??』
入力中の表示が、返事を待つ気持ちの大きさの分だけ長く感じる。
『なんだか泣けてきちゃった。どうして私達、今そばにいないんだろ?』
胸に突き刺さる文面。
声を聞いて確かめなくても、分かってしまう。
メイが泣いている。
私の手の届かないところで、一人寂しさに耐えかねて。
まるで私の弱気が伝播したようだった。
私は湧き上がる自責の念を誤魔化すように、慌てて文字を打ち込んだ。
『どうしたー?らしくないぞー!ライブが待ってるのに!』
ずきんと痛む胸。
それでも指先は、入力をやめない。
『メイと離れてる時間の分だけ、切なくてもいい曲が作れるって、信じてるよ。まずはあと二週間、頑張ってみようよ!』
二週間。
文字にして打ち込むだけならどうしてこんなに気楽なんだろう。
本当はあと十数回も一人の夜を過ごすんだと自覚して息苦しくなるくらいなのに。
『頑張ったら、いっぱいご褒美が待ってるから!またご飯作るし、メイが喜んでくれるならずっとエプロンつけてるよ』
『……なんでエプロン?』
黒猫がびっくりするスタンプ。
その反応だけで、救われた気持ちになる。
『あれ?エプロン着てる姿、好きなんじゃないの?新婚さんみたいな感じで』
『……やっぱりヒロカ、発想がおじさんくさい……』
『なんですって!?』
ミニチュアダックスがびっくりするスタンプを送り返す。
メイが苦笑いしてくれているのが伝わってくるようだった。
『ごめんね。なんか弱気になっちゃってた。楽しみのために、もうちょっと頑張ってみるよ』
『うん。あ、でも……あんまり、過度な期待はしないでね?』
『え?』
『私の裸エプロンなんかじゃ、メイを興奮させられないかも……』
『そっちじゃない!っていうか興奮って、馬鹿!!』
可笑しくて、私はスマホを胸に抱いて一人部屋でクスクスと笑った。
大丈夫、私もメイも、まだこんなに元気だ。
『じゃあ、お休み。また明日』
『うん、お休み。また明日ね』
今度こそ私は決意とともにスマホを枕元に伏せ、布団をかぶった。
メイに言った言葉の通りに、風邪なんかひかないようにしっかり休んで、明日に備えよう。
枕元では、ウサギとトマスが仲良く並んで座っていた。




