06.メイ
朝礼が終わって教室に行くと、先生が新しく机と椅子を用意してくれていた。
一番後ろの席なのはありがたい。
いつもの転校初日と同じように、まずは遠巻きに視線を投げられ、しばらくするとお節介焼きが話しかけてきて、数人の人だかりが出来る。
彼らからすれば転校生なんて珍しいだろうが、転校する立場としてはもう通算十回目だ。
どこの学校でもこの過程は変わりなかった。
そして何度経験しても慣れない。
いつものように無難に、早くこの儀式が終わるように祈りながら受け答えをする。
授業が始まるとほっとする。
転校生はしばらく腫れもの扱いだから、教師も回答を指名したりはしない。
その日は特に変わったことのない、普通の転校初日となりそうだった。
自分だけがスローモーションで、周りの生徒たちがみんな早送りで動いているような錯覚。
すでに人間関係が落ち着いた輪の中に放り込まれると、時間の感覚さえもずれているように感じてしまう。
教室移動だと聞かされていないうちに、教室に一人取り残されていた。
時間割表を見ると音楽だった。
昨日歌を聞いた場所の記憶を頼りに、芸楽館の音楽室に向かう。
音楽の授業はもう始まっていた。
遅れた言い訳を考えながらドアに手をかけた時、教室から漏れ出る歌声が聞こえて来た。
世界と人間を賛美する歌を四十人が大合唱している。
――無理だ。こんなに出来上がってる形の中に、自分という異物を放り込んでいいはずがない。
彼らの今の世界は綺麗で、幸せに満ちあふれていて、私みたいに拗ねた奴が入り込む余地なんかない。
回れ右して、その足でそのまま職員室へ。
学年主任がいたので、体調不良で早退する旨を伝えて校舎を出た。
どうせすぐまた転校だと思えば、ズル休みにも罪悪感はなかった。
どんよりと曇った空の下、私は一人帰路についた。