表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Whatever  作者: けいぞう
30/78

30.ヒロカ

 家に着くと七時半頃だった。

 店番のお父さんは「遅かったな」と一言声をかけてきただけだったので、学校から連絡は来ていないようだ。

 学園祭の準備で色々ね、とお茶を濁して茶の間に入る。

 いつも通り、私の分の夕食がテーブルの上に用意されていた。

 少し冷めていたが、そのまま食べた。

 「冷蔵庫にプリンあるよ」というメモがお茶碗の下に挟まっていた。

 私は少し考えて、電話台のペン立てからボールペンを取り、「ありがとう、ご馳走様」と書いて、座布団の下にそのメモを隠した。

 私が忘れた頃くらいに見つけてくれるとちょうどいい。


 プリンとスプーンを持って二階に上がる。

 物があふれた私の部屋。

 クッションの上に置かれたウサギのぬいぐるみの隣に腰掛けて、プリンを食べた。

 当然のように甘くて、美味しかった。


 俯いて動かないウサギの横顔がメイと重なった。

 帰っても声をかけてくれる人もいない。

 ご飯も用意されてなければ、甘いプリンを買っておいてくれる人もいない。

 一人ベッドで膝を抱えるメイを想像すると、涙が溢れてきそうだった。

 私は食べかけのプリンを畳の上に置いて、スマホを取り出した。

 メイからの連絡は何もない。メールアプリを立ち上げた。


『メイが最高に気持ちよく歌えるように、全力で練習するからね。明日、楽しみにしてて!』


 メールを送り、残りのプリンを掻き込むようにして食べ終え、私はギターを構えた。

 ウサギをメイに見立てて、一音一音心を込めて弾く。

 どんな感情も、今は練習への情熱に変換しよう。

 メイが果たしたい目的の足を引っ張るなんて許されない。

 逆に私が押し上げて、想像以上の結果を二人で掴めるように。


 その日の練習は深夜三時まで続いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ