隣の芝生は青い17
「す、す、鈴木くんって彼女とかいないの?」
カラオケへ向かう道中、熱を帯びたような目をしてオレの事を上目使いで見てくるから、ズズズと後退りしてしまった。
麗らかな春の日差しに包まれながら、クラスメイトの蒼井雅樹は大きな目を何度も瞬きさせながらオレの答えを待っていた。
コイツはどんな心境でこの質問をぶつけてきているのだろうか?
そう思う一方で、冷静に考えてみれば。
いやいや、オレの考え過ぎではないか?
と思う自分もいた。
オレだって同性の友達に、彼女いないの?って質問はよくする。
と言うことでこの質問は単に好奇心以上の物はないと受け取っていいはずだ。
「いや、特にいない」
『特に』ってつけるのおかしいだろう?
と自分の言葉に突っ込んでしまった。
彼女いないか?と聞かれて、特にいないって言っていいのはオレの右隣を歩いている、どこからどう見てもイケメンの天王寺とかが使うものだろう?
しかも、女の子に聞かれて、『特に』とか使うならまだしも男に聞かれて、『特に』と言う言葉は見栄を張っているようにしか思えない。
「わぁーーーーー良かった!」
ピョンとジャンプして小さく手を叩く蒼井は、すぐにハッと我に返り頬を赤くして頭を掻いた。
へ?良かったって、これまた奇想天外な答えが返ってきたが、この答えだって考えようによっては、彼女募集の自分が友達に彼女がいると言われたらショックであるが、友達も彼女がいないと答えてくれたら、安心して『良かった』と答えるのが常ではないか…。
と…思いつつも蒼井の喜びようはそれとは違う気がして、救いを求めるように天王寺を見上げたが、天王寺は春風に吹かれて悠々と口笛を吹いていた。
生い茂る木々の下でただ口笛を吹いているだけなのに、どうして彼はこんなにもイケメンなのだろうか?
日差しさえも彼に味方して、スポットライトのように彼を照らしていた。
「ん?」
ようやくオレの視線に気付いた天王寺が口を開いた。
「天王寺、話し聞いてた?」
「悪い、全く聞いてなかった」
だと思った。
「蒼井に彼女いないかどうか聞かれたんだけどさ、天王寺も彼女いないよな?」
そう、どう言う訳かこんなにイケメンな天王寺に彼女はいない。
天王寺には忘れられない初恋の相手がいるそうで…その相手と言うのがまだ確証はないのだが、恐らく自分ではないかと言う疑念が出てきている…。
その話は置いといて。
「彼女話しか-。青春って感じでいいなー。そう言う蒼井は彼女いないの?」
イケメン天王寺の残念な点。
それがこの昭和ちっくな言葉だ。
天王寺に会話を振られた蒼井はオレには見せない、苦い顔で渋々答えた。
「彼女なんているはずないじゃないですかぁ」
そこでひと息つき、パァと顔を輝かせて、オレの腕にしがみつき元から高い声を更に高くして言った。
「好きな人はいますけどっ」
ああ、神さま。
いつか女の子にこんな事されたいと思うのはワガママなのでしょうか?