隣の芝生は青い14
「なぁ、鈴木、腹減らない?」
一刻も早くこいつから離れたくてオレは歩を早めていた。
何故、唯一このイケメンオーラ全開の天王寺から離れられる休日まで一緒にいなくてはならないんだ。
いや、確かに天王寺の事は嫌いではない。
人間的には好きだ。
だが、こいつが側にいると自分と言う人間がどれだけ平凡なのかが嫌と言うほど分かってしまう。
こうやって、ただ天王寺と一緒に歩いてるだけで突き刺さるような女子の視線を感じる。
無論、それは天王寺が浴びている好意的な視線ではなく、
『おい、そこのフツメン、私の王子さまから離れろ』
『おい、そこのモブ男、自分の顔鏡で見てみろ、その顔でよく彼の側を歩けるな』
などと言われているのではないかと思うほどの痛い視線だ。
オレは入場者特典で貰えた今人気急上昇中の主人公の写っているポストカードをヒラヒラさせて見ていた。
うん、断トツ天王寺の方がイケメンだな。
「鈴木、腹減ったよな?」
オレが無視しているのが全く分からないようで、天王寺は続けた。
てか、映画館で浴びるほどのポップコーンを女の子たちにもらったくせに、腹減ってるとか、どんだけの胃袋を持っているんだ?
「ちょっとそこでお茶していこうぜ」
天王寺が指差す先には先日オープンしたばかりのショッピングモールがあった。
いや、悪いオレは家に帰りたい。
「オレがおごるからさ」
その一言に、乗ってしまうオレって本当安い男だ…。
「ねぇ、あなた、どこかで会ったことない?」
ショッピングモールの入口で、イスに腰掛けている丸メガネを掛けた小太りの中年女性に声を掛けられた。
天王寺のように若くてかわいい子に声を掛けられたら、例え会ったことなくても、イエスと答えるのだが、こんなおばさん見たことない。
「いえ、人違いでは?」
「いいえ、確かに会ったことあるわ、ここに座りなさい」
何を言っているのだ?
天王寺に助けを求めてみたが、天王寺は女の子たちに囲まれて身動きが取れなくなっていた。
「座ってくれないの?」
今にも泣きそうな顔をして言われてしまうと、少し可哀想に思えて隣に腰かけた。
「あなた、絶対にどこかで見たことあるわ、それでね、相談なんだけど、これをあなたの持物と交換できない?」
人当たりの良さそうな笑顔でいきなりとんでも無いことをぶちこんできた。
彼女が差し出したのは、何かよく分からないが色とりどりの石がついたブレスレットだった。
「そこで買ったんだけど、よくよく考えたら若作りの気がして、だから、誰かに交換してもらおうと思って」
意味が分からない。
今買ってきたのなら返品してくればいいじゃないか?
「ぼ、僕先を急ぐので」
「私ね…、毎日ここに座って色々な人を見てるから分かるの!貴方はとても優しい人だって!おばさんのお願いを無視するような人じゃないって!しかもこのブレスレットを持っていると近いうちに彼女ができるって店員さんが言ってたわよ」
立ち上がろうとするオレを強引に引き止め、この言葉。
こんな言葉信じるはずある訳ないじゃないか!
「ふぅー、やっと出てこれた」
ゼイゼイと息を切らした天王寺がオレの肩を掴んだ。
そして、オレの腕を見て、
「あれ?お前、そんなブレスレットつけてたっけ?」
不思議そうに首を傾けた。
ああ、神さま、僕は本当にバカな男です。