隣の芝生は青い13
久々に一人で映画に来てみた。
超能力を使える高校生がタイムスリップして戦国時代に行くと言うしょうもない内容の話だが、休日なのにやることのなく時間をもて余してる彼女もいない男子高校生にはちょうどいい暇潰しになりそうだと思い来てみた。
かと言って人が大勢いるのは苦手だから、一番人気の無さそうな映画を選んだ。
とは言え、久々の映画で少しウキウキしていた。
映画にはポップコーンが定番だよな。
ん?
ポップコーン売場にすごい人だかりができていた。
しかも、黄色い声を上げている女ばかりの人の群れ。
誰か有名人でも来てるのかな?
ちょっと遠くから見てみるか。
人だかりから少し離れて、背を伸ばして見てみると…、そこにいたのは有名人なんかじゃなく…。
「あ、鈴木ー、お前も映画来てたのか?」
お前か…。
アイドルさながらの笑顔でこっちを見る男、イケメン天王寺がいた。
天王寺の言葉に、女たちの冷たい視線が一斉にこっちに集まる。
『何あのブ男』
『ブ男の分際でこんなイケメンと馴れ馴れしい』
超能力者でもないのに、彼女たちの心の声が手に取るように分かった。
「良かったら一緒に観ようぜ!」
こっちに来るな。
せっかくの休日、貸し切り状態で映画を楽しめると思ったのに、お前が来たら、あっと言う間に満員御礼になるだろうが。
オレは天王寺の言葉を無視して、劇場に入った。
「おい、待てよ、一緒に観ようぜ、相棒」
やはり、こうなってしまうのか…。
予想通り、満員御礼の劇場になってしまった。
しかも、天王寺の映画を見ての反応…。
事あるごとに笑ったり、怒ったり、戸惑ったり、挙げ句の果てに泣き始めた。
(いやいや、この映画に泣く要素なんて全くないだろう)
こいつがこんなに映画に移入すると思って無かった。
そんな天王寺の喜怒哀楽の姿に周りの女たちも同じ行動しやがる。
ここは何かの宗教の集まりか…?
「やっぱり、映画はスクリーンで見るのが一番だな」
映画が終わり、劇場出口で天王寺がグーンと伸びをした。
お前のせいで散々な一日だ。結局、映画の内容頭に入ってないし…。
「またいつか一緒に観に来ようぜ!」
断る。
ああ、神様、僕に超能力があったら今すぐこいつの側から消えたいです。