隣の芝生は青い10
最近、誰かの視線をやたらと感じるようになった。
特にそれを感じるのは、学校の往復、授業中、休み時間、つまりその視線の相手は学校内、しかも同じクラスと言う訳だ。
始め、オレにコクってきた前野(まだ本心かどうかは分からないが)かとも思ったが、どうも違うらしい。
と言うことは…、と言うことは…、オレにも遂に、遂にモテ期到来ーーーー!
モテ期がきたーーーー!
おっしゃー!
ここまで、イケメン天王寺の影に隠れて生きてきた人生。
この15年間、寄ってくる女と言えば、
『この手紙、天王寺くんに渡してもらえますか?』
『このチョコ、天王寺くんに渡しとけよ、間違ってもお前が食ったりすんなよ』
など、純粋な天王寺ファンから礼節を知らないアホな天王寺ファンばかりがオレに寄ってきた。
やっぱり、見る人間が見たらオレの良さが分かるんだなー。
「どーした?鈴木?」
短距離走のタイムを計り終えた、天王寺が額の汗を腕で拭いながら隣に来た。
女子のいない体育の授業では、天王寺が隣に来ても、いつものような嫌悪感はさほど無い。
さほど、無いが、全く無い訳ではない。
天王寺のキラキラの汗と一緒に何だかいい香りが…。
ほらほら、周りの男たちもホワーンとした顔で天王寺に目を奪われている。
くっ…、恐るべきイケメンパワー。
ん?また視線を感じる。
おかしいグラウンドにはヤローしかいないのに…。
まさか、教室内から見てるとか?
教室内はキレイにカーテン閉まってるし…、外の様子見てるような生徒はいない…。
と言うことは…。
「次、鈴木くんの番だよ」
女のような高い声にポンと肩を叩かれて、我に返る。
蒼井雅樹がいた。
女の子のような華奢な体にクリクリの大きな二重の瞳、柔らかそうなモチモチ肌、しかし、残念ながら彼は男だ。
「あ、ああ、ありがとう」
スタートラインに着こうとするオレの服の裾が掴まれ、歩を止められる。
「え?」
「あ、あの、頑張ってね」
真白な頬を赤らめて、声の限りにそう言って彼は孟ダッシュで走り去って行った。その俊敏なダッシュ力に体育教師の目が輝いていた。
「蒼井、めちゃ早いじゃないか!もう一度計り直そう」
いやいや、そんなことより、何だあの態度は?
あれはよく天王寺を見守る恋する乙女の目と同じじゃないか?
え?と言うことは…?
まさか、視線の正体って…?
近付いてきた真実にぶるっと身震いしてしまった。
ああ神様、こんなとき僕はどうしたらいいのでしょうか?