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04 Fireplace

 エイワズが目を覚ますと、彼は温かいベッドの中で寝ていた。

 そこは彼にとって見慣れぬ部屋だった。貧しい村の出であった彼にはそこがとても豪勢な空間に見えた。石作りの立派な暖炉では火が燃え、床には絨毯が敷かれ、部屋の中までとても暖かい。彼の寝ていたベッドだってふかふかとしていて、とてつもなく寝心地が良い。

 着ていた服もエイワズの物ではなかった。彼は今、着慣れた旅装束ではなく、ゆったりとした寝間着を着ていた。

 ベッドの脇には一本足の小さなテーブルがあり、テーブルの上には果実が山積みになった皿と水が入った陶器の器まであった。そして、皿の脇にはなんと書いてあるのかはわからなかったが、文字の書かれた紙が置いてあった。

 そして、暖炉の脇には自分の短剣が丁寧に立てかけられてまでいた。


「ここは・・・」どこだろうか?

 エイワズは自分の置かれた環境に怖くなった。

 確か自分はアンデッドになってしまった仲間達に追われていたはずだ。そして、ゴーストビレッジに追い詰められたはず。それがどうしてこんなところに。

 試しに自分の頬を抓ってみたが「痛い・・・」これは夢ではないようだ。




 エイワズが眠る部屋のすぐ隣では、騎士装束を脱ぎ、普段着姿のレイモンドが食事の支度を済ませていた。

 村の入口で倒れていた少年を拾い、一先ず家まで連れて帰り、少年の手当てをして、空いている部屋で寝かせた。

 後は少年が目覚めるのを待つばかりだ。


 今日のメニューは少年を気遣って鶏粥にした。大麦を煮込み、鶏の肉と刻んだ野菜をいれた、最後に溶いた卵で蓋をした村特性の鶏粥は体力の回復の効果的だ。他所では薬草を混ぜるらしいが、神様がそれだと不味いを仰ったので数種類の野菜で代用している。実際、このほうが美味い。


 寝ている少年の様子見ついでに粥を器によそって持って行ってみると、少年はもう目を覚ましていた。

「気が付いたようだな。もう身体は大丈夫かな?」

「あ、貴方は・・・」

「紹介が遅れた、俺はレイモンド・スキニ。この村の騎士だ」


 騎士と聞き、少年は青い目を大きく開いて驚いた。

「しっ、失礼しましたっ!騎士様! ぼ、僕はエ、エイワズと言います」


 騎士とは特別な身分だ。少なくともこの国は公的な身分と能力の高さの両方を持った者にしかその称号は与えられない。一応、この村で神様に選ばれた騎士達は全員、国を治める君主、ラーズ公より正式に騎士の身分を与えられている。だから自分も平民とは一線を引いた身なのだが、公的な行事以外でそれを気にしたことはあまりない。


「エイワズ、何も気にすることはない。俺は身分に拘る気はない。それよりも、食事を用意した。温かい内にお上がりなさい」


 食後、いくらか硬さが残ったが、エイワズは舌が滑らかになり、村に流れついた経緯を語りだした。


「それで何があったんだ」

「僕らは五人で魔物の出る森に挑みました。ここから数日の所にある森です」

 この村から三日ほど旅をすれば、別の村があり、更にそこから半日歩けば、財宝伝説がある森がある。エイワズの言う森とはそこのことだろう。


「あそこなら知っている。昔、俺も騎士に選ばれたばかりの頃に一度挑戦した。だが、それほど難易度の高い森ではなかったはずだ」

 あの森は確か別名、ロニー氏の森と言われ、名前の由来は現在の所有者から来ている。魔物の出る危険な場所ではあるが、生息する魔物は弱く、所有者のロニー氏は魔物の乱獲を危惧し、制限を設けているとも聞く。

 森の奥で獲れる蜂蜜は絶品で、蜂蜜以上の宝はないと言う人もいれば、蜂蜜こそが森の財宝であるという者もいる。ちなみに、神様はあそこの蜂蜜が大好きだった。新米の騎士は最初の遠征としてあの森の蜂蜜を神様のために取りに行くのが習わしだった。


「はい、僕らも蜂蜜集めの依頼とキノコ狩りの依頼を受けてあの森に入りました」

「だが、今日見た死体の状態からはとても低難易度の森で受けた傷のようには見えなかった。それにアンデッド化したのも気にかかる。放置された死体がアンデッドになることはよくあるが、それでも死んですぐにアンデッド化することは自然には起こらない」

 これは周辺の村に伝えなければいけないことだろう。それにロニー氏は自分の森で起きたことをすでに把握しているのだろうか?


「僕もよく分らなかったんです。夜、交代で見張りを立てて、野営していたとき、仲間の悲鳴で目覚めました。周りに仲間の姿が見えなくて、でも、悲鳴だけが聞こえて・・・僕だけ逃げました」

「そうだったのか。君の仲間達は封じてあるが、明日には火葬するつもりだ。そこで彼等に別れを告げてやってほしい。葬儀と別れは死者を送り出す上で大事なことなんだ」

「はい・・・」

「それと、君の仲間達の遺品の一部は俺が聖別して清めておこう。故郷の村へ帰るときに遺族のもとに帰してあげてほしい」

「何から何までありがとうございます。仲間達の供養が済み次第、僕は故郷へ帰ります」

「残念だが、それはできそうにない」

「えっ?」

「もうすぐ、雪が降る。雪が降れば道は閉ざされ、山の命も息を潜める。この辺りでは、冬は雪解けまで大人しくしていたほうがいい」


 村を取り巻く自然環境は過酷だ。周囲は高い山々に囲まれ、道は一本しかない。その道も雪が降れば閉ざされてしまい、人と物の往来を制限する。また、山や森では恵みが消えるため、餌を求めて魔物が下りてくることも昔はあった。今は魔物の数が減ったので、昔のように大物が下りてくることはないが、他所で住処を追われた小物が迷いこんでくることはある。


「そうだな、春、花が咲きだすまではここにいた方がいい。安心しろ、ここには十分な食料も薪もある。それに村の守りに俺もいる。村も今は人手が不足していて外から人が来る分は歓迎している」


「重ね重ねお世話になります、騎士様」


 こうして俺は移住者(仮)を確保した。

 後は一冬の間、エイワズにこの村を気に入ってもらい、移住を進めるだけだ。



鶏粥:鶏肉と野菜、そして卵を使った栄養価の高い大麦粥。村においては薬草入りの粥に人権はない。(理由、神様は苦いのが嫌いだから)

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