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03 Knight


「朝、祈る時、自分に何が出来るかを考えなさい。夜、祈る時、自分が一日何をしたか思い出しなさい。無償の奉仕こそ天国への道!」

 レイモンド・スキニは自らの崇める神の教えを口ずさみ、村の門へと急行した。


 最初は持ち歩いていた剣一本で現場に向かうつもりでいたが、次第にそれだけでは心もとなくなり、もしもの場合に備えて騎士の装備に着替えてから向かうことにした。

 村の生き残りは自分一人、もしも自分が死んでしまっては今度こそ本当に村は滅んでしまう。

 死んで神様のもとに向かうのは悪くないが、せめて村の未来をある程度見届けてから死にたい。


 大慌てで家に帰り、手入れを欠かさずにおいた純白の騎士装束に身を固めたのだ。

 霜蜥蜴と呼ばれる純白の大型爬虫類の皮で作られた騎士の装束は鎧と言うよりも戦闘服に近い。表情すら見えにくくするほどの深いフード、武装を隠すコートのような長い裾、強度はあるが動きやすく、金属も最小限した使っていないので動いたときに音がしない。隠密性に優れた装備だ。なにより、騎士装束は全て神様が自らの手で縫って下さった特注品だ。故にこれは騎士達の誇りであり、神様と騎士との絆を物語る物でもある。


 村の門まで来ると、門の中には痩せ細った少年が一人、虚ろな目で倒れていた。そして、街道からは四つの人影が村へと向かってくる。


「人型か?だが、人間の気配じゃない。この辺りの魔物でもなさそうだ・・・この匂い・・・死臭か。つまり、アンデッドというわけか」

 これは厄介だな。

 アンデッド、生ける屍は元々厄介な相手だ。死の恐怖が消え、生命としての枠を超えることで生前よりも強力な力を振るえる。一般的に下級アンデッド一体を安全に倒すには適切な武装をした村人が五人いると言われる。しかし、それはアンデッドの弱点を抑えていればの話で、闇雲にアンデッドと戦った集落が全滅したという話も聞いたことがある。

 アンデッドの弱点とは、火で焼くか、粉々にするかだ。ただの村人がアンデッドと戦う場合、鍬や長い棒、梯子などでアンデッドの動きを封じ、たいまつの火を押し付けて焼いてしまうのが効果的だ。

 しかし、今は火の持ち合わせがない。それに俺は火に纏わる魔法も使えない。


「もう大丈夫。後は俺に任せておけ、これが終わったらなにか温かい食事をご馳走しよう」

「たすけ・・てっ」

「勿論だ。我が神様に誓おう」


 俺は腰のベルトから下げた剣を抜いた。

 敵はアンデッドが四体。内一体は杖を持ち、残りの三体は剣を持っている。

 アンデッドは脳と筋肉が腐るため、知能は低い。ほとんど本能で行動していると言っていい。しかし、もしも武器をもっていた場合、生前の戦闘経験を肉体が覚えていることが多い。

となると、あの杖持ちは魔法が使えると思って戦ったほうがいい。


「我らが尊き神様、貴方の教えを受けし、貴方の騎士にどうか貴方の加護をお与えください」

 神様への最後の祈りを済ませ、俺は一人、アンデッドに斬りかかった。


 剣は左手に持ち、右手は自由にして戦う。状況に応じて剣を左右の手で持ち替えながら戦う、神様が村に授けた剣術だ。自分の扱う武器は全て両手で扱えるようにすることで戦術の幅を増やし、フェイントやカウンター技を織り交ぜやすくするのが狙いだ。

 この戦術がアンデッドを相手にどこまで有効かは分らないが、だからと言って今更このスタイルを捨てる気にはなれない。


 簡単な威力偵察も兼ながら、一番厄介と考えた杖持ちを狙ったが、戦闘経験は確かに記憶しているようで他の三体が隊列を組んで杖持ちを守った。

 俺の振るった剣はサーベルを持った金髪のアンデッドによって受け止められてしまった。



 このアンデッド達は死んでからまだそれほど日が経っていないのか、まだ白骨化していなかった。致命傷だったと思われる傷口は黒く変色し、死肉を貪る虫に集られながらも、辛うじて生前の面影と思しき形は保っていた。


 これは増々厄介な相手だ。アンデッドの死肉は時間が経てば虫に食われたり、剥がれ落ちるなどして、最後は骨だけになる。しかし、そうなる前は硬化し、骨や関節を守る防具となる。骨だけであれば、骨を砕くことでアンデッドの行動を制限できるが、肉が付いたままでは骨は砕き難い。アンデッドが一番厄介な時期は白骨化が始まるまでと言う者もいる。


 それにこの四体のチームワークは悪くない。個ではなく、集として来られたらかなりやばい。

 だが、隙もある。


 剣を受け止められたのを感じてすぐに飛んで後退した。追撃されることを覚悟したが、アンデッドの剣士達は動くことなく杖持ちを守り続けた。よく見れば、杖持ちの顎は動いているように見えた。


「クソ、やっぱり魔法を」

 おそらく、これが彼等の生前の戦術だったのだろう。剣士達が守り、魔術師が魔法を打ち込む。

 魔法を撃たせてはならない。そう考え、騎士装束の内側に仕込んだナイフを右手で取り出し、構えた。

 多分、これを杖持ちに向けて投げた所で、あの剣士達が防いでしまうだけだろう。ならば、他を狙うまでだ。


 俺は素早く、神様から授かった魔法を詠唱し、魔力をナイフに込める。村の騎士達が神様から学び、最も得意とする種類の魔法だ。

「冬雪降りて、道閉ざす」

 魔法の籠ったナイフはそのまま、アンデッド達の足元に投げると、ナイフは先頭に立つ剣士の手前で突き刺さった。そしてナイフの突き刺さった地点から地面が白く、盛り上がり始め、その範囲は広がり、四体いたアンデッドの足元をすぐに呑み込んでしまった。


 霜の結界だ。成功こそしなかったが、かつて災いが村を襲ったとき、神様は大規模な霜の結界を展開して災いを結界の中に封じることを考えた。おかげで騎士達もこの魔法はかなり練習させられた。それこそ短い詠唱で扱えるまでに。


 この結界は動きを封じるのにも使えるが、その最も恐ろしい所はその成長メカニズムだ。展開された結界は弱点となる属性で中和されるまで周囲の魔力を吸い続け、地面に降りた霜は成長を続ける。魔法の詠唱をしている杖持ちなどは霜に魔力を吸われ、魔法を完成させることができずに終わった。あの杖持ちが再び魔法を使うには、あの結界から脱出しなければいけない。


「さてと、俺はもともと奇襲攻撃や待ち伏せが専門だ、正面から戦いは苦手なんだ。悪いがこのまま成仏してくれ。向こうでは神様が面倒を見てくださる」

 再び詠唱し、今度は剣に魔力を込めた。


「我らが主たる神様、どうかこの者達を貴方の御手によりお導きください」

 両手で剣を持ち、金髪のアンデッドに切りつけたが、アンデッドは当然のようにこれをガードした。だが、そんなことは気にしていない。どうせこれで詰みだ。

 俺の剣を受けたアンデッドのサーベルは、受けた所から白くなり、それは広がっていった。すぐに白はサーベルを飲み込み、アンデッドの手を固め、体幹に広がり、そして全身を覆い尽くした。先ほどまで動いていた死体は今度こそ本当にうごかなくなった。そしてすぐに残りの三体も金髪のアンデッドと運命を共にした。


「お前たち、そのパーティー、フルメンバーじゃなかっただろう。実戦じゃあ防御を固めるだけの剣士なんてただの鴨だ。もう一人か二人、敵を翻弄する役が必要だろうな。例えば、すばしっこい斥候か弓を扱う狩人とかな」

 おそらく、その足りないメンバーというのがあの少年なのかもしれない。損傷が激しくて判断は難しいが、死体と少年の歳は近かったのではないかと思われる。


 死後、強い思いが人をアンデッドにすると聞いたことがあるが、もしかしたら、“仲間”こそが彼等のアンデッド化の一因なのかもしれない。

 おそらく、五人は長い間すっと一緒だったのだろう。実力こそ未熟であったが、四体の連携だけは悪くなかった。これがもし、五体であれば、俺も少し本気を出さなければいけなかっただろう。


「おっと、早くあのこの手当てをしてやらないとな」

 少年にはまだ息があった。今はアンデッドから逃げ続けたことで溜まった疲労が原因で眠ってしまったようだ。

 まずは湯で身体を拭いて、着替えさせてからベッドで寝かせよう。後、薬と食事の支度だな。


「これは久々に忙しくなる」

 神様は人々に絶対的な信仰ではなく、世への奉仕を望まれた。今こそ神様の教えを守り、実行する時だ。



騎士の装束:村の騎士達専用の制服。霜蜥蜴という巨大な魔物の皮を使って作った白いレザーアーマー。金属の使用を最小限にしているため動いてもあまり音が立たない。フードがついていて着ていると、とても暖かく、雪の中では目立たない。

 一着一着、神様が自らの手で縫った特注品。神様の愛情が籠っている。

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