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02 Run

 緑色の外套を着た少年、エイワズは走った。海のような青い目で道を見極めて兎に角、走った。僅かな荷物を背負い、唯一の武器である短剣を握りしめながら、走った。フードを深く被り、草や木々の葉と擬態しながら、エイワズは走り続けた。途中、フードがずれて、その下から鳶色の髪が露になったが、それでもエイワズは走り続けた。

 仲間はいたが、今はエイワズ一人だけだ。

 荷を運ぶための馬もいたが、もういない。

 皆、やられた。


 遡ること一ヶ月ほど前、エイワズは四人の仲間達と共に故郷の村を出た。彼の住んでいた村は不作が続き、生活の苦しさから村の若者達は外の夢を求めて外の世界に出ていくようになったのだ。エイワズと仲間達もそうして村を出た若者達だった。


 村を出た若者達は、外の世界でそれぞれ新しい道を探した。ある者は町に出稼ぎに行き、ある者は実りが豊な村に雇われ、ある者は故郷の助けになりそうな物を探して旅をした。

 エイワズ達五人は夢を求めた。仲間の中に魔法を使える者もいた彼等は旅人となり、様々な依頼を受けながら旅をしていた。

 そして、数日前、宝が眠ると言われる森に挑み、エイワズ以外全滅した。


 狩人として山道が得意なエイワズは一人だけ無我夢中で森を走り、逃げ出した。背後から聞こえてくる仲間の悲鳴や断末魔にすら気を捕られることなく、逃げて、逃げて、逃げ続けた。


 エイワズが気づいたとき、彼は僅かな荷物と装備だけを身に着け、森の外にまで出ていた。彼はそこからまた逃げ出した。

 怖くなったのだ、自分一人だけが生き残ったことに。

 もしも、仲間の誰かが生き残っていたら、もしも同郷の人間に会ったら、もしも旅の途中でこれまでに知り合った人に出会ったら、彼等は自分のことをどう思うか。


 そしてエイワズはフードを深く被り、隠れ潜むかのように一人で旅を続けた。誰も自分のことを知らない、自分を知る人間など来ない所を目指して。


 ところが、彼は追われていた。それもとんでもない物に着け狙われていた。それはエイワズの痕跡を辿り、森を抜け出し、彼の旅路すらも後をつけた。眠ることも休むこともなく。


 それに気付いたのはエイワズが夜、木の枝の上で野営をしていたときだ。

雲一つない、満月の夜だった。月の光のあまりの明るさに、夜にも関わらず昼のように明るかった。

 エイワズは明るい夜の中、なにかをするでもなく、ただ遠くを見つめていたら、夜の街道の上で何かが動いて見えた。すぐに彼は唯一の武器である短剣を構え、注意深くそれを見ると四つの人型が見えた。

 人型がはっきりと見えるようになると、エイワズは凍り付いた。四つの人型はずたぼろの死体になったエイワズの仲間達だったからだ。


 “アンデッド”旅の途中で耳にした単語が彼の脳裏に蘇った。

 死後、死体が放置されると死体が勝手に起き上がり、まるで生きているかのように動く怪現象だ。

 エイワズは瞬時に理解した、仲間達が自分のことを追ってきたのだと。一人だけ逃げ出し、森から生き延びた自分を連れ戻しにきたと。


 すぐさま、エイワズは木から降り、アンデッドとなった仲間達から逃げ出した。

 幸い、アンデッドは足が遅く、エイワズのようには走れない。しかし、アンデッドはエイワズと違って休息を必要としない。昼夜を問わず、休むことなくエイワズの後を追えるのだ。


 それでも、エイワズにはまだ希望があった。

 このまま逃げ続ければいずれ誰かと遭遇する。街道に出たアンデッドを退治してくれるかもしれない強者や助けを求めてきてくれる人がいるかもしれないと。

 しかし、いくら進んでも、エイワズは誰ともすれ違うことはなかった。それどころか村や集落と思しき物も見えず、周囲からは人間の存在を窺える物は何一つなかった。


 無理もない、その先にあったはずの村は二年前に滅び、ほとんど人も通らなくなってしまったのだから。


 エイワズは逃げて、逃げて、逃げ続けた。

 そしてようやく遠目に大きな村が見えた。周囲を城壁で囲まれ、石造りの綺麗な家が立ち並んだ立派な村だ。

「助かったっ!」

 あの村までいければ、助けてもらえる。

 エイワズは最後の力を振り絞って村まで必死に走った。そして、村の城壁を超えた所で彼は倒れ込んだ。

「やった、やっとついた!」

 ここまでずっと山道を走り続けたことで、彼の肉体は限界を迎えていのだ。


「だ、誰か!助けてくだっ さい! あんでっど が そとに」

 エイワズのほとんど枯れかけた声は村の中に響いた。

 しかし、村は鎮まりかえっていた。

 エイワズはそのとき始めて気づいた。いや、もっと早く気付くべきだったのだ。これほど大きな村であるのに、村の外で誰ともすれ違わなかったことに。城壁の周りに見張り一人いないことに。村の雰囲気が閑散としていて、人間が住んでいるようには見えなかったことに。


「・・・ゴーストビレッジ・・・」

 疫病や魔物の襲来によって人間がいなくなったまま放置された辺境の村を指す言葉だ。

 同時に今のエイワズにとってアンデッドと合わせて何とも組み合わせの悪い物でもある。


 来た道を振り返れば、四体のアンデッドがエイワズの後を追いかけてきていた。

 ずっと走り続けていたからかなりの距離があるとエイワズは思っていたが、彼の気づかぬ内に彼のペースはかなり落ちていた。最初の内こそ距離を稼いでいたが、後半から彼はジリジリと距離を縮められていたのだ。


 エイワズは再び立ち上がり、逃げようとしたが、もはや彼には立ち上がる力すら残ってはいなかった。

 疲労と絶望が混じり合い、精魂尽きたエイワズは自らもアンデッドになったかのように、光のない目で仲間達のアンデッドを見始めた。


「みんな・・・」




エイワズ(14歳):仲間達と一緒に故郷の村を出て旅をするも、ある森で仲間達を失ってしまう。素早く、身軽な動きと足の速さで敵を翻弄する短剣使い。ただ、ちょっと自分に自信がない。

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