半月
月の力というのは偉大なもので、この地球上の潮の満ち干きの7割は月の引力によるものだったりする。
だから俺がこの日、あんな奇妙な出来事に会ったのはやっぱり月のせいだったのだろう。
今日の午後10時頃、月が通常よりも、いくばかりか大きく見えるそうで、特に何もすることも無かった俺は10時頃、意図的に飯を食いに、それもこの日に限ってわざわざ歩きで外に出たのだった。
外に出て、大きくなった月を一瞥。 そして落胆。
普段から月を見る習慣のない俺には全く月が大きくなっているという実感が出来なかった。
仕方なくとりあえず月をスマホのカメラで撮り、Twitterにアップする。
微塵も待ってはいないけれど「待ちに待った」何も感じなかったけれど「ちょー興奮した」何もおかしくないけれど「www」
なんてことはない、これが俺のキャラなのだ。
高校三年の受験シーズン、頭のレベルはこの追い込みの時期に月を見てTwitterで呟いている時点でお察しだ。
しかし中学校の時に頑張ってそこそこ上の高校に入ったおかげで自然に学力は人並みには付いており、まあ贅沢に選ばなければ大学にも行けるだろう。
両親もそれで納得している。
いや、正しくは諦めていると言った方が正しいのか。
中学の時はこんなんじゃなかった、勉強も学年トップクラスだったし、部活でもキャプテンを任されているぐらいには精力的に活動していた、そしてその事もあって、クラスでも学校でも中心的存在だった。
そう、その頃の俺は言うならば「太陽」だった、クラスの、学校の光だったのだ。
しかし高校に入ってから俺の立場は変わった、無理して上の高校に入ったため、当然勉強も俺より上手い奴がいた、しかし努力すればなんとかなると思った、あの頃の俺は努力すれば何とかなると思っていた。
しかしどんなに頑張ってもどうしても上位10位以内に入ることが出来なかった。
それならばと、今度は運動に力を入れた、部活動に意欲的に取り組み、県選抜に選ばれるほどになった。
そこからは、俺には運動が向いているんだと思うようになった。
必死で練習して、練習しまくって……でもそれでも届かなかった、二年の秋、個人戦全国大会の初戦敗退。
普通なら褒めてしかられるべき全国大会出場という栄光。
しかし、運の悪いことにその男のいた場所は勉強優先の進学校、誰一人として男を褒めるものはいなかった、むしろ疎かになっていた勉強によって順位が落ちた男を下に見ているものばかり。
仕方ないから男はコミュニケーションに力を入れた、クラスのみんなに媚を売り、下に出ておべっかを繕い、頭の悪いキャラとして皆に弄ってもらった。
だがそれでもクラスの中心的存在は、成績学年トップの人だった。
色んな人から見下され、いろんな人から嘲笑われた。
男は「太陽」からその光を受け反射光でしか光れない「月」となった。
光から、光を受けるものとなった。
自ら光らなくていい月は太陽と比べ格段に楽なものだった、だがその楽さと引換えに月は影を落とした。
それからはずっと月として過ごしてきた。
光を受け、その光を反射する月として。
だが光を受けるという事は影を落とすということだ。
男の体を夜道の街頭が、他人の家の灯が、月の光が照らし、幾つもの自分が地に這い蹲る。
こちらの動きに合わせて愉快に自分の回る影たちが酷く不気味に映って、影さへも自分の「太陽」になってしまう気がして足を早める。
光から見た時、影は見えない。
その対象の影の部分を見たと思ったならばそれは他の者からの影に過ぎなく、自分によって生み出されたものではないと知るべきだ。
「ニャー」
そしてそんな下らないことを、影らしい事を考えていたスーパームーンの夜に、俺は片目の欠けた黒猫、「半月」と出会ったのだ。
あと2、3話で終わる予定ですので、宜しければ読んで行ってください




