8話 カンナとダンジョン 突入~1階層
翌朝、ダンジョンへと続く北の門にはライトアーマーを装備したサモンの姿があった。腰には鋼の長剣を挿し、右腕にシールドを装備している。村長と打ち合わせをしていた。
「サモンよ、魔獣の素材回収用の転送印だ。中型魔獣の素材までならこの村の回収所に転送させることができる。自由に使用してくれ。そしてこれは餞別だ。この村で一番容量の大きなアイテムボックスだ。」
転送印とは転送の魔力が込められたアイテムで転送印を作製した場所に物を転送することができるアイテムだ。魔獣を討伐した際にごくまれに消滅せずに爪などが落ちることがある。落ちる素材は爪や牙などが多い。そしてアイテムボックス。これにも多くの研究者が謎を探求している。何せなぜ見かけより多くの物が入るのか、そして重量が変わらないのか、理由がわかっていない。遺跡から頻繁に出土するが、容量などはバラバラ。神が創出したものという見解が多い。しかし、貴重なものを…。
「転送印、ありがたくお借りします。しかし、なぜですか?ガイムさん。容量の大きなアイテムボックスは一つで金貨50枚の価値があります。理由もなしに受け取ることはできません。」
「簡単な話だ。ケントの頼みを聞いてくれた。あいつは我が村を起こしたときから付いてきて、村を一緒に盛り上げてきた仲だ。コミュがダンジョンへ向かった日からあいつの時間は止まっている。いくら他人が慰めの言葉をかけようが、今のあいつに届くことはないだろう。これは我が希望の餞別だ。受け取れ、そしてケントとカンナの時間を動かしてやってくれ。」
だいぶ大きな期待を受けてしまったな…でもあの親子を救うのはもう決めたこと。ガイムさんからの餞別はありがたく受け取ろう。
「そういうことであれば、ありがたく使わせていただきます。ありがとうございます。」
その後ダンジョンの現時点で分かっている情報などをもらい、ダンジョン内での計画を立てていた。
カンナが走って来た。ケントは来ていないようだ。
「サモンさん。よろしくお願いできますか?」
カンナの目は腫れていた。ケントと何かあったのだろうか?昨日までの張りつめたような表情は若干穏やかになっていた。喋りかたも違う。そして体にはチトロニウムのプレートを装備していた。
「はい、任せてください。ところでカンナさんは戦闘の経験はありますか?」
「カンナでいいですよ。同い年でしょう?だから私もサモンって呼びますね!戦闘経験はないですが、自分で準備はしてきました。足手まといになるつもりはありません。」
なるほど、決意はうかがえる。でも、経験がない以上は俺も守りに力を入れたほうがいいだろう。もっとも、俺もあまり戦闘経験はないんだけど、それにしても積極的だ。女性の名前を呼び捨て…レベルが高い。
「わかりました。では早速向かいましょうか、カ…カンニャ」
最悪だ。穴があったら入りたい。あ、ダンジョン入るわ。くそ!もう少し余裕なところを見せたかった。目の前でカンナが噴出していた。
「ぷっ…ふふふ、ご、ごめん。サモンもしかして、緊張したの?」
目の前で赤い髪をした美しい少女が笑っていた。まあ、緊張がほぐれたようで何よりか。向かおう。
ガイムさんの案内で村の北門から10分ほど歩いたところにあるダンジョンの入り口に来た。ダンジョンにはとんでもない量の防護術が張り巡らされている。なるほどこれなら魔獣も外には出ないが、その分内部にはすさまじい量の魔獣が存在しているだろう。
「さて、今から魔力を注ぐ、人1人分の小さな穴があくからそこから侵入するのだ。くれぐれも気を付けるのだぞ。」
ガイムさんが魔力を注ぎ、できた結界の穴から侵入した。
――――――――1F――――――――
内部には魔獣が大量に発生していた。入り口で内部の様子をうかがっていた。
「流石に多いな。狭い道に所狭しにいる。基本は4足歩行型の…ウルフ種か、スライムも見受けられるな。」
「っく!こんなに、サモンどうしますか?私は多数相手には相性が悪い。」
…範囲の広い魔法が必要だな。しかし、大規模な炎ではそのあと通れなくなる。
(エンガイム、案はあるか?)
『ッハ!サモン様ホーリーランスを道と同様の幅で発射されるのがよろしいかと、サモン様なら太さと威力はイメージで調節ができるかと思います。すべてを討伐とはいかないでしょうが。』
(なるほど、それでいこうか。流石はエンガイムだな。)
『お褒めに預かり光栄です。サモン様ほかの属性を持つスライムが生き残っていたらぜひ魔獣合成を、より戦いの幅が広がります。』
(難しいな、カンナにスキルを見せるわけにはいかない。)
『サモン様、合体状態であれば、スキルを念じながら対象を剣で切れば合成は完了します。』
(え、そうなのか?それなら大丈夫か、やってみよう。)
『ッハ!ありがたき幸せ!』
「よし、カレン、俺が最初に突入して魔法を放つ!付いてきてくれ。」
「わ…わかった。」
入り口から突入し、一直線の通路に向けて魔法を使用する。
「ホーリーランス!!!!」
強くイメージする通路一杯に放つ。魔法はイメージ通りに放たれた。ただし、放った後が違った。通路一本分に満ちていた魔獣がすべて光に飲まれて内部から爆発した。放ったのは自分だけど、震えた。…ふと後ろをみるとカレンが震えていた。
「サ…サモンは一体!?」
「ご…ごめんな、無事にダンジョンを破壊できたら話すよ…。」
『サモン様。本来は光で突き刺すホーリーランスが内部に聖なる気を注入し、内部から破壊する魔法になったようです。…すさまじい。』
…シャレになんないよ。しかし、ダンジョンは複雑に分岐している。横道から近寄る魔獣の気配を感じた。
「カレン!魔獣が来る!構えろ。ホーリーライフ!」
カレンにホーリーライフで耐性を付与し、カレンを背にするように立った。魔獣はすべて討伐しなければならない。奥の横道からウルフ種が出てきた。こちらに向かってくる。魔法を唱えようとした瞬間。
ッドカン!!!! 後ろから破裂音が聞こえ、魔獣は倒れ、消滅した。振り返るとカレンが何かを手に持っていた。
「サモン、私の武器は自ら作りし機工。クラスは機工師。足手まといにはならない!私のリボルバーで魔獣を駆逐する!」
カレンは母親のために、この日のために、努力をしたのだろう。そしてそれは実力となって今、発揮されていた。




