7話 村長と武器屋
「まあ、お主が熱心にユウカと喋っている内容は聞いていた!ダンジョンにはヒトが入れる入口を用意してある。入ることは構わん!が、命は保証しないぞ?」
(…エンガイム、この家に他の人の気配感じてたのか?)
『申し訳ございません。ヒト族の気配は読みにくいので、察知しておりませんでした。まだまだ未熟ですな。』
(まあしょうがないさ。それに同じことを2度説明する手間が省けたと考えればいい。)
「止まっている余裕がないもので、命に関しては自分で責任を持ちます。」
俺がこうしている間にもアーサーは止まらずに魔王討伐を目指しているだろう。俺も止まるわけにはいかないのだ。
「ほう?魔獣の巣窟に行くのに大した度胸だ。いいだろう。我が名はここドリューの村長 ガイム・ハイムだ!ガイムと呼ぶがいい!」
なんだか帝王のような人だな。ヒトの上に立つヒトの性格をしている。豪胆だ。
「ところで、ドリューに武器屋はありませんか?できれば装備を整えたいのですが…」
「なんだ!?ダンジョンに入ろうとしてるのにまだ装備は整えていないのか!?まあ、よ
かろう。一軒だけある。この家の近くだ、ダンジョンへの案内は明日の昼でよいかな?」
「はい。それでよろしくお願いします。」
「サモン、宿はとってないのでしょう?なら家に泊まるといいわ。この家私には大きすぎるから部屋が余ってるのよ!」
「ふぁ!?い…いえ、そんな訳には、オ…俺も年頃の男ですし…」
何ということだ。ユウカさんからとんでもない発言が…
それは無理、たぶん寝れない。絶対無理、明日に響く。宿屋で寝たい!
「ふはははは!なんだ!お主、力はあるくせに女に弱いのか!?なんともまぁ滑稽だ!
よし、村長命令だ。ユウカの家に泊まれ!宿屋にはお主が来ても泊まらせないように伝えておく!ではまた明日な!」
こ…この野郎!この村長、楽しんでやがる!ああ。悪夢だ…いや、嬉しいといえば嬉しいのかも知れない。まあ、しょうがないか、とりあえず武器屋に行こう…。
「ハァ…では武器屋に行ってきますね…」
エンガイムとの合体をとき、エンガイムを影に入れた。ユウカさんの家から徒歩で5分程度だということで武器屋へすぐに向かった。そしてサモンはここで歩みを共にする人物と出会うのだった。
――――――――武器屋 ドリュッケン――――――――――
武器屋はデカい釜戸のような形をしていた。中に入ると左側に武器、右側に防具が並んでいた。奥にはいろいろな工具や釜戸が見えた。何というか想像していた武器屋とほぼ一致していてうれしくなった。防具もおいていたことは嬉しい誤算だ。店内を見まわしていると髭を生やしたおじさんが出てきた。
「よう、兄ちゃん!買い物かい?欲しい武器や防具の種類を言ってくれればなんでもそろえるぜ!?俺はドリュッケン店主のケント・ドリュムントだ!よろしくな。」
おお、なんとも頼もしい人だ!
「ありがとうございます。俺はサモン・フリントといいます。明日ダンジョンに入るので装備をすぐに整えたくて、片手剣とラウンドシールド、あとは聖楯騎士用の防具があると嬉しいのですが」
「ダンジョンに…それなら数はあるぞ!よし、まずはお前のPWを見せてくれ!」
装備は基本的に使用者の体格とPWを考えて選ぶ、PW400となると勿論一般人より遥かに高い。騎士の中でもPWに高い適性をもつ者と同程度はあると思う。取りあえずPWを見せた。
「4…400か、中々やるじゃねえか!お前の体格でそのPWは凄まじい値だ。…そうだなちょいと準備するから待ってな、高くつくが大丈夫か?」
「お金は大丈夫です。よろしくお願いします。」
店内を見回りながら時間をつぶしていると、後ろから声を掛けられた。
「おい、あんた!ダンジョンに入るって言ってたな!?あたしも連れてってくれ。」
振り返るとサモンより少し小さい赤髪の女性が立っていた。ダンジョンは一人で行く。他のヒトを連れていく訳にはいかなかった。
「いえ、それは出来ません。僕は一人でいきます。それに中は危険です。」
「た…頼むあたしにはどうしてもダンジョンに入らなきゃいけない訳があるんだ!!」
…かなり真剣な感情が伝わってきた。よほどの事情があるのだろうか。ここまでの感情を当てられて訳も聞かないのは流石にか…。
「訳を…教えてくれませんか?それが納得できるものであるなら、検討しましょう。」
「…それは、その、」
「こらあああああああああああああ、カンナ!お客様を困らすんじゃねえ!それに俺はダンジョンに入るなんて認めるこたぁできねえ!」
すごい声量でケントさんが叫んだ。手には武器と防具が準備されている。
「すまんなぁ、この馬鹿娘が、気にしないでくれやあ!ほれ!商売の邪魔だ!部屋に戻りな。」
赤髪の女性―――カンナはすごく怒りを込めた瞳で父親を見つめながら奥へ下がったのだ。
「ほれ、兄ちゃん、これがお前専用に選んだ長剣、鋼製だ。そしてこれが、俺考案のラウンドシールドの進化形、ロングランドシールドだ!防具はすべてこちらも鋼で鍛えている。しかしフルアーマーじゃ体力消耗は激しいからな。ダンジョンへ行くんであればライトアーマーのがいいだろう。ただし、お前さんのPWが異常に高いおかげで安物のフルアーマーよりも10倍は頑丈だ。安心しな!」
どれも想像していたよりも数倍いい品物だった。なるほど、ケントさんは素晴らしい職人のようだ。帝国でも通用すると思う。
「素晴らしい品物です。すべていただきたいと思います。おいくらですか?」
「金貨10枚だな。」
「わかりました!これでよろし…」
「払うのが早えよ!兄ちゃん。もうちょっと値切るとか、高いのではとかあるだろう!金貨10枚あればこんな田舎では2年はまともに暮らせるんだぞ?いいか?金は全てじゃねえ、けどな、大切なもんだ。次どっかで買い物をするときはな、ちゃんと考えな!今回は金貨5枚でいいぞ。」
…ケントさんは本当にいい人だ。しかし、
「ケントさん、僕は適正な価格だと考えたので支払ったのです。この長剣は純度が高い、きっと精製法に独自の技術があるのでしょう。そして、ここまでの純度を誇る長剣を鍛えるにはそれこそ熟練の技術が必要になる。このロングランドシールドもミスリルの質感を裏側に感じます。鋼も純度が高い。魔力を通すことが出来ればミスリルは硬度を上げれますから、これはマジックシールドであると考えていいでしょう。ならばこれだけでも価値は金貨3枚分あります。加えてこの防具。やはりどの防具も鋼鉄の純度が高く、命を守るために非常に助かる作りだと思います。なので、金貨10枚払わせてください。」
ケントさんがじっと見つめてくる。
「なあ、サモンさん。一つ、聞いていいか?あんたダンジョンに入る目的はなんだ?そこまでの見識眼とその雰囲気を持っているなら、あんたの実力が理解できる。相当だ。それなら帝都で大きいダンジョンの討伐隊に入るべきだろうよ。」
いきなりサモンさんと呼ばれると違和感があるな。…勿論そうしないのは俺が魔獣使役者で魔獣合成スキルを持っているからということもあるけれど、それ以上に十分な安全が確保されていない辺境の地のダンジョンを全て壊すことを考えたからだ。出発する前夜、俺は両親の騎士道を思い出していた。「辺境地にも安らぎと安息を」「住民すべてに笑顔を」これは二人がよくお互いに掛け合っていた言葉だった。だからこそ、帝国帝都がある南ではなく辺境の地が集う北を目指して旅に出たのだ。そしてエンガイムからの話を聞き、これ以上の魔物創出を防ぐ必要があると考えた。勿論、魔王が創出できることは理解している。それでもダンジョンをつぶせばその対象になる動物は恐らく減少するだろう。魔獣の数の減少は保護地域拡大に直結する。そうすることで両親の騎士道に沿いたかった。
「俺の両親は辺境の地に平和を願い、騎士道を貫きました。最北のマグマ地帯でボルケーノドラゴンと対峙し、命をとして撃退したのです。両親は誇りです。だからこそ俺自身も辺境の地に平和をもたらすことを我が道とし、辺境の地に存在するダンジョンは全てつぶすつもりです。」
「…サモンさん、装備の代金はいらねえ、だから一つ頼みをきいてくれねえかい?」
「…何でしょうか?」
「カンナをダンジョンへ連れてってくれやぁ。頼む。」
予想外の頼みだった。
「…理由を聞いても?」
「…ああ、ここじゃあなんだ。場所を変えるか。」
ケントさんの後に続き、武器屋を後にし、20分ほどかけて墓場にたどり着いた。
「こいつぁな、カンナの母さん、俺の嫁さんの墓だ。コミュっていうんだがよ…」
ケントさんの話が始まった。
「コミュはなあ、今の騎士、ユウカ様の前にこの町で騎士をしていた。俺はコミュと出会って惚れちまってなあ、すぐに猛烈アタックしたんだよ。最初こそ逃げられたが、あいつの誕生日に俺は剣をプレゼントしたんだ。ミスリルの剣を、そしたらあいつ、女性にはアクセサリーでしょ!?って初めて笑ってくれたよ。まあ、長くなるといけねぇ、とにかく俺は超美人で正確も最高なコミュと結婚したんだ。」
ケントさんは少し胸を張った。自慢げに。
「で、1年後には子供が生まれた。カンナだ。すくすくと育ったよ。元気のいい、最愛の娘だ。5歳の誕生日には俺はあまりにも愛しすぎて、子供のあいつに純チタニドロン製のアーマーをプレゼントしちまったよ。コミュから怒られたもんだ。…カンナが10歳のとき、つまり6年前、ドリューの近辺にダンジョンが発生した。お前さんがこれから行こうとする場所だ。発生した瞬間、コミュはすぐに行動を起こしたよ。ダンジョンが出来て間もなければそれだけ魔獣の数は少なく、破壊しやすいからな。俺も賛同した。コミュに一番いい防具を渡して、いってこいとな。カンナは泣き喚いたよ。魔獣の巣窟なんかに母親を行かせたくなかったんだろう。あるいは何か予感をしていたのかもしれん。」
ケントさんの瞳には涙がたまっていた。
「…まだ、コミュは帰って来とらん。」
涙があふれた。
「あの…あのダンジョンに!!!いったまま、俺は…!!!」
ケントさんは声を出して泣いていた。この人もまた、魔獣に家族を奪われたのだ。遺体すら帰ってこないのだ。ケントさんはまだ、受け入れられていないのだろう。いや、信じていたいのだろう、奥さんの生存を、だからこそ帝国が建てた騎士の墓を受け入れられずもがいているのだろう。しばらくするとケントさんは泣き止んだ。
「コミュもカンナも…俺を恨んでいるだろうよ、送り出した本人としてな、そしてあいつは母親を…コミュを迎えに行きたいんだろう。あのダンジョンに…サモンさん、決してカンナを危険な目に合わせたくない。しかし、カンナの苦しむ姿をこれ以上見ていられないんだ。俺では無理だった。ダンジョンでは…進むことすら出来なかった!!!情けない親だというのはわかっている!人間の片隅にも置けない!!…頼む!娘を・・・」
ケントさんが土下座した。もうすでに断る理由など何もなかった。あの少女もまたもがき、苦しんで、前に進めずにいる。この親子を助けよう。決めていた。だからこそ、一言で応じた。
「任せてください。」
武器屋に戻りケントさんの作った装備をもらい、俺は武器屋を後にした。
「ケントさん、明日の朝出発です。」
「伝えておく。感謝する。」
サモンは決意のオーラを纏い、ユウカの家へ戻った。そして、緊張など何もなく、一室で明日に備え武器を調整し、睡眠をとったのだった。




