6話 女性の手料理とドキドキと村長
トントントン―――――
台所から歯切れのいい音が鳴り響いていた。キョウコ村にも女の子はたくさんいたが、サモンはアーサーとばかり遊んでいたために女性に対しての抵抗は無かったのだ。手料理をふるまってくれるまでは騎士として接していたので大丈夫だったが、いざ女性であると意識すると恥ずかしくてダメだった。サモンもイケメンの部類に入る。すらっとした体形。身長も182と高く、帝国であればひっきりなしに女性から声を掛けられ、耐性もできただろうが、そこはしょうがない部分でもある。
「もうちょっと時間かかるので、待っててくださいね!」
ユウカさんは台所から傾いた首をこちらに向けて笑顔で言ってきた。美しい金色のポニーテールがゆらゆらしていてドキドキしてしまう。サモンの内心は揺れていた。
落ち着け!!俺は紳士俺は紳士俺は紳士
意味の分からない紳士コールだった。
「ひゃい!!」
盛大に噛んでいた。イケメンが台無しである。サモンはその恥ずかしさを忘れるためにスキルボードを確認していた。
名前:サモン・フリント 16歳 レベル 12
クラス:魔獣使い スキル:魔獣合成
HP 400
PW 400
DEF 500
INT 5200
SPD 500
SPI 1300
属性:無
エンガイムは今影の中だ。レベルが10を越したので、表示されるようになっていた。なぜスキルボードが存在するのか、レベルとは何なのか、これはこの世界における7大ミステリーの一つだ。たくさんの学者が探求しているらしいが、いまだに仕組みは全くと言っていいほどわからない。とりあえずレベルが上がると数値が上がる。これは一般常識だった。ヘルコンドルの討伐推奨レベルは35だ。それをこんな低レベルで倒したので、一気にレベルが上がったのだろう。スキルも思い浮かべてみた。
魔獣合成 lv25
魔獣使役 lv5
意志疎通 lv5
魔獣合体 lv1
なんていうか合成が上がりすぎていた。ホーリースライムのせいであることは明確だ。そして合成との違いがよく分からない物が増えていた。あとでエンガイムに聞いてみよう。それにしてもスキルのレベルがどのように上がるのかは解明されていない謎の一つだ。
「サモン!できましたよーー」
スキルボードを閉じ、目の前に出てきたおいしそうな料理を眺める。この肉質からしてイノピッグのもも肉だろう。小さいころに一度食べたことがあった。イノピッグがソイショーとオリブオイルでいためられ、周りを羽衣草で巻かれていた。
「このような料理は初めて見ました。鼻にかすかに入るソイショーの香りと羽衣草の柔らかな緑色、そしてイノピッグの厚いもも肉。食べていいですか!?」
「わ、食べてないのにそこまでわかるなんてサモンはすごいですね!どうぞ、食べてください」
キョウコでは両親がいなくなってから生活を一人でしていたので日常生活に関する知識は普通にあった。食事は人生3大楽しみ(今のところ)一位だ。サモンは勢いよくほおばり、味わった。
「------っおいしい!」
本当においしかった。5日間乾燥肉しか食べてないせいもあるが、本当においしくてフォークが止まらなかった。
「うわあ!そんなに喜んでくれるなんて嬉しいな。」
5日ぶりのまともな料理を止まることなく堪能したサモンは食べ終わった直後に手料理だと思い出し、恥ずかしくなってしまった。
「あ…あの、ごめんなさい。フォークが止まらなくて!礼儀のないことを!!」
「ふふ。気になさらないで、ここは帝国王宮ではありませんし、口にあったようでなによりです。」
うーむ。ユウカさん、魅力的な女性だな。
「ところでサモンさん!スキルボードを見せていただけないでしょうか?」
ぐあ!一番危険な行為だ。スキルボードは見せる範囲を指定できるが、名前とスキルは基本的には見せるのだ。
「あ、どの辺まで見たいですか?それによります。」
「じゃあ名前と年齢あとレベルですかね!」
レベルは基本的にはクラスを習得もしくは受け取らないと上がらない。つまり見せれば何らかのクラスを習得していることが露呈するのだ。当然、レベルを見せてクラスを見せないのは不自然ということになる。困ったな…
『サモン様、私はホーリースライムですので魔獣合体をしてください。そうすればスキルボードのクラス、炎聖魔法使いも追記されますので、それを見せればよろしいでしょう。』
エンガイム!!!!!!なんてすばらしい従魔なんだこいつは…
(感謝する。本当にお前を使役してよかった。)
魔獣合体を頭の中で念じ、スキルボードの見せる範囲を指定して見せる。
名前:サモン・フリント 16歳
クラス:炎聖魔法使い lv 15
…なぜレベルが高いのかわからないが。いいだろう。というか魔獣合体は俺と魔獣を合体させるスキルか…合体させなくてもエンガイムのスキルを使えるし、違いがなんなのか今のところ理解できていない。
「えええええええええ!?2属性魔法!?しかも、やはり聖属性を!」
あ…しまった。つい動揺して忘れていた。2属性に適性がある人間なんてそうはいないし、聖属性は神の使徒にのみ適性のある属性だ。そりゃそういう反応になるか、でも魔獣使いよりはましだろう。なにせ騎士は魔獣討伐を仕事としているのだから。
「あまり他言しないでくださいよ。過剰な力は無用な争いを招きかねないので!」
「は…はい、でもそれならあの強さも納得です。そのクラスに加えて騎士も受け取られるならサモンはすぐに騎士百人将まで登ってしましそうです。というかサモン様は神の使徒なのですか?」
また様ついた。俺からしたらユウカさんの方が様つけなきゃいけない存在なんだけどな…。
「いえ、だから、サモンでいいですよ。それに魔法が使えても実戦の経験がないのでユウカさんより未熟です。」
「それは…助けていただいた私からすれば嫌味ですよ!でもとりあえず、私のも見せておきますわ。」
名前:ユウカ・オブリージュ 年齢:18歳
クラス:騎士 スキル:騎士の誓い lv 20
HP 100
PW 50
DEF 300
INT 20
SPD 30
SPI 100
属性:風
「え、そこまで見せますか?なんか申し訳ないんですけど。」
うーん、アーサーや自分のステータスを見ているからかすごく低く感じてしまうが騎士としては恐らく一般的な値なのだろう。クラス的にもDEFが高いのはユウカさんが高い騎士適性を有している証拠だった。
「なら、サモンのステータスも見たいですわ。」
そう笑顔で話しかけてきた。無論見せられない。
「見せません。それに他人の能力値なんて見てもしょうがないでしょう?」
「はー、ですわよね…ではこれから村長のところへ案内します。どのくらい滞在する予定なのですか?」
まだ滞在期間についてはあまり考えていなかったが、一つ目的があった。それはダンジョンに入ることだ。多くの魔物が出現するのはダンジョンからということはすでに有名な事象だ。勿論すべての魔物がそこから出現するわけではないが、世界中に現在だけで大小合わせ500のダンジョンが確認されている。大きいものは20もない、大半は地下に2つほど部屋があるだけだ。エンガイムの話からして魔王は魔獣を自らの手で創りだしている。それでも定期的に全土に魔獣をばらまくのは骨の折れることだろう。だから魔物を自動で作製するコアを置く場所を地下に創ったのだろう。ここドリューにはサイズ中のダンジョンが存在している。帝国近くのダンジョンは騎士や冒険者によるダンジョンコアの破壊工作が進んでいるが、辺境の土地ではダンジョンの出口を塞ぎ魔獣の流出を防ぐのが手一杯だ。だからダンジョンへの立ち入りは村長の許可がいるのだった。
「滞在については決めてません。けれどダンジョンに潜るつもりです。」
「え?それはなぜですか?ドリューのダンジョンは封印が強いので特に危険はありません。わざわざコアを壊すために危険を冒す必要はないと思うのですが…」
「いえ、まあ、端的に言えば自分と向き合うために入るのです。」
「そうなんですね…。ですって、村長さん。」
え?ユウカさんがドアの方向を見て話したので振り向いた。すると
「よろしい、許可しよう!入るがいいこの地のダンジョンに!うはははははっはは!」
なんか、とてもでかいおじさんが立っていた。




