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フリントの意思 ーもう1人の英雄ー  作者: けんぴ
1章 ドリュー解放 1つ目の英雄譚
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5話 魔獣の討伐と初めの村

保護地域をでて5日目、魔獣にあまり会わないのでテンポよく旅は進んでいた。普通は魔獣に襲われる時間も含め、次の村まで7日はかかるが大幅な短縮だ。


(エンガイム、このあたり何か気配はするか?)


『…北に複数の気配があります。一つは魔獣ですね。それ以外はご主人様と同じ人類でしょうか。』


(騎士が討伐に出ているのか、ならここは門の近く、村まで近い距離に来たのだな。エンガイム人に見られるとまずい、小さくなって服の中に入ってくれ。)


『ッハ!すぐに!』


エンガイムは自身の温度も人肌から超高温まで調節でき、大きさも調節ができる。山の中で若干寒い夜には服に入ってもらうと体調を崩さずに寝れるのだ。それにホーリースライムを合成して以降、気配を察知できるようになったらしく、安全確認のため、外にいてもらうことが増えた。とにもかくにも北へ向かってみる。


10分ほど走ると声が聞こえた。魔獣の叫び声、討伐したのだろうか。サモンは速度を速めて声のする方向へ向かった。そこには数名の門兵が倒れていた。


「おい!大丈夫か!」


すぐさま駆け寄る。幸い息はあるし致命傷も負っていない。気を失っていない者に事情を聴いた。


「ぐ…うううう、へ…ヘルコンドルがいきなり…」


ヘルコンドル…北には滅多にいない種類の魔獣だ。


「騎士はまだ応戦しているんだな?」


「は…はい、ユウカ様が、おひとりで…村へコンドルを侵入させまいと、おとりになり…」


「方角は!?」


「あ…あちらに走って行かれました。」


「わかった!」


示された方角へ全力でダッシュする。武器など持っていないからこそ、走りながらエンガイムに話しかけた。


(エンガイム、魔法は何が打てる!?)


『ッハ!サモン様、聖属性はホーリーランス、ホーリーアロー 炎属性はマグマスプレッド、バーニングショットがヘルコンドルに対し有効です。守備面ではホーリーシールド、回復にはホーリーライフを。サモン様が頭で思い浮かべ発動をイメージすれば使用できます。』


(100%以上の答えだ、礼を言う!)


『ありがたきお言葉!!』


魔獣の声が聞こえた。全力を超えたダッシュをする。茂みを抜けると目の前に膝をついた騎士と襲い掛かろうとしているヘルコンドルが見えた。


「やめろ!ホーリーシールド!!!」


唱えると目の前に巨大な光の壁が生じた。そして触れたコンドルは何故かくちばしが大破し、吹き飛ばされた。…割と衝撃の映像だった。ヘルコンドルは上位一歩手前に入るほど強力な魔獣だし、一般騎士には荷が重い。それがシールドに突っ込んだだけで吹き飛んだのだ。後ろの木に打ち付けられ、大樹が折れた。


(エ…エンガイム!?この魔法はなんだ!!)


『ッハ!私が使うとただの物理・魔法を防ぐ障壁なのですが、サモン様はINTが高すぎるので、魔法に新たな効果が付与されたようですね。』


(ど…どんな効果かわかるか?)


『それは流石にわかりかねますね。鑑定士であればわかると思いますが…』


動揺している先でヘルコンドルが立ち上がっていた。そして奇声を上げた。いや、くちばしが大破していてまともな声が出ないのだろう。襲ってくる前に攻撃魔法を唱えた。


「バーニングショット」


小さな火球がヘルコンドルに向けて飛んで行った。よかった普通の魔法らしい…

その小さな火の球はヘルコンドルに当たると急激に膨らみ、ヘルコンドルを丸のみにした。


「へっ?」


自分で放っておいて唖然とした。火の玉はコンドルと共に空中で分解し、消えた。


(あの、エンガイム、バーニングショットとはどんな技だ?)


『はい、火の玉を相手にぶつける技です。いやはや、やはりサモン様は素晴らしいお方だ。あのような凄まじい魔法に変貌をとげるとは…』


なぜだ!?こんなの人間が出せる技じゃないだろう!?頭の中で人間らしく生きたいと願う自分の願いが暴れていた。しかし、ふと後ろからの気配を感じた。振り向くと、うつくしい顔をした女性騎士が唖然としながらこちらを見ていた。…最悪だ。


「あ…あの、こ…高名な騎士様なのでしょうか?」


この辺りは帝都からかなり離れた辺境の地だ。当然、帝国騎士から騎士は派遣されるが、実力者の多くは帝国に配備される形になる。両親は優秀な騎士であったが、辺境の民にも安らぎをと志願し、キョウコに派遣された。本当に誇れる両親だったと思う。


「いえ、まだ騎士ではございません。名はサモン・フリントと申します。」


騎士の前で膝をつき、頭を下げた。


「や、やめてください!助けられたのは私です。それに、フリントということはフリントご夫妻の息子様ですのね?私はユウカ・オブリージュ、フリントご夫妻の騎士道に感銘を受け、ドリューの騎士を志願した者です。改めて、あなたの助けに感謝を…」


…この人とは仲良くなれそうだ。一瞬でそう感じた。なにせ、両親の騎士道に感銘を受けてくれたのだ。


「その言葉、両親もきっと喜んでいるでしょう。無事でよかった。しかし、だいぶ怪我をしておられる。右腕は骨が折れてしまっていますね…気休めにしかならないかもしれませんが、ホーリーライフ。」


エンガイムから教えられた回復魔法を使った。表面の傷だけでも治癒してくれればありがた…あー、またこのタイプか…。みるみるうちにユウカさんの傷はふさがり、骨折も治っていた。そのうえで体を聖属性の気が覆っている。ユウカさんはまた唖然とした。


「え…え…私、骨が…あれ?さ…サモンさ…様、魔法も治癒も…もしかして大賢者様なのですか…?」


美しい顔が歪んでいた。それはそうだろう。魔獣を火の玉で灰も残らず消し飛ばし、受けたダメージの完治まで行ったのだ。


(エンガイム…これは?)


『ッハ!ホーリーライフはHPの完全回復、状態異常の完全治癒、ですね。サモン様はそれに加えて、受けた者に聖気を纏わせ、一定時間ダメージや状態異常に耐性のある体にするようですな。』


最早チートだろう。父の部屋にあった魔法大全にのっていた上級魔法と同じ程度の威力だ。やはり、あまりヒトに見せたり、多用するのは不味いかもしれない。


「ユウカさん、サモンでいいですよ。あなたは騎士で私は騎士を目指すもの。先輩ですから。あと大賢者ではありません。たまたま魔法適性が高いので魔術に長けているだけです。」


「そ…そんな、適性が高いとかそういうレベルじゃ…でもとりあえず助けていただいて本当にありがとうございます。できれば村へ来ていただき、お礼をしたいのですが」


ありがたい申し出だった。ユウカさんの案内で村へと戻ったのだ。倒れていた門兵にもホーリーライフはかけておいた。見られてあまりよくない者ではあるだろうが、村を守るために戦った勇敢な戦士を放っておけなかった。


村はキョウコとあまり変わりはない様相だ。帝国近辺は機械仕掛けになっているが、辺境の地では自然が豊かであまり機械はない。村の道路は左右を出店に囲まれていた。売っているのは食料が大半。できれば武器を仕入れたかった。帝国からの保証金で金銭的な困難はない。キョウコには武器屋がなかったので、ドリューにあればいいなと思っていたのだ。


『…これが村という場所ですが、人がたくさんおりますな。いやはや、このように集団を作って特定の場所で暮らすなんて、魔獣には考えられないですね。』


(そうなのか?魔獣が集団で人類を襲うのはよくあることだけど)


『それは魔王よりある時期に特定の場所で人類を襲うことを本能に刻まれた個体がそのタイミングに沿って同時に集落や集団を襲うためになります。襲った後は生き残った魔獣が群れることはありません。』


初耳というか、なるほど、それだと魔獣は集団として機能することがなく、完全にただの生物が兵器に改造されたような存在になる。なんというか…哀れだ。


(…動物は魔王によって形を歪められ、利用され、人間に討伐されて命を終える。俺はそれを哀れに思う。やはり魔王は赦せない。俺は動物が好きだった。)


『サモン様はお優しい方です。私たち魔獣はいびつな生き物。繁殖をはじめとする生物的な機能は失われ、大半は意志もなく、人類を見れば襲い掛かる。この世の理から外れた存在です。どうか、敵対したときには容赦なく戦ってください。その方が動物であった時の魂は救われるでしょう。』


エンガイムから聞く話は全て今まで知らなかった魔獣という存在の話だ。その話を聞いて誰が魔獣を責められるだろうか。罪ない生き物だったのだ。


「サモン!聞いてますか!?」


エンガイムとの話に集中していたので返事をしていなかったらしい。


「うわ!すいません。少々考え事をしておりました。」


「とても難しい顔をしていましたよ。何か悩み事でも?」


「自分を見つめなおしていました。すぐには解消できそうもない問題です。」


「なるほど、あれ程お強いのに…あ、そういえばお腹は空きませんか?村長の家までは少し歩くので、途中の私の家によってお昼にしましょう!」


…ん?それはもしかして…


「あの、それはユウカさんの手料理ということですか?」


「嫌ですか?」


「い、いえ!大変うれしいです。お腹空いていたので!よろしくお願いします。」


「はい!」


そうして10分程度歩き、ユウカさんの家に到着した。


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