16話 美しき水の村
竜との最後の対話の後、サモンは深い眠りに落ちた。3日間眠り続けた。目覚めてからも傷を癒すために療養していた。魔力による裂傷はだんだんと塞がりつつあったが、まだ完全ではなく、サモンたちは竜討伐により美しき水を取り戻したこの村を散策していた。
竜の襲撃によりダメージを受けた村もこの数日で活気を取り戻し、復興が進んでいた。コミュとカンナは復興の手伝いに努めていた。
この村には常に山からの清廉な水が流れ続け、村全体を心地よい空気が包み込んでいた。水を中心とした生活。水路には船が渡り、子供たちの遊びといえば水辺での遊び。
ある子どもは水路で生き物を採取し、ある子どもは橋から飛び込み…幸せが村を包み込んでいた。
村を流れる穏やかな風を感じながら、サモンは村で一番高い塔の上で空を仰いでいた。
『なあ、エンガイム…幸せって何だろうな。』
サモンは人の業から生まれた災いと呼べるあのエルグという竜を思っていた。復讐の竜、人に絶望し、自らに絶望し、最後まで戦い抜いたあの竜を。
『…難しい質問ですね。私にとってはこうしてサモン様と過ごす毎日が幸せです。』
ボルが影から飛び出してサモンの顔の上に着地する。
『僕はサモンの頭が幸せのばしょ~~~~』
重い。ララも出てきた。
『少なくとも私たち3体とカンナにコミュは今、幸せだと思うわ。』
『そうか…』
心地よい風に吹かれ、ゆっくりと過ごす。何にも縛られることなく。
『俺は幸せなんだろうな…家族と呼ばれる存在に囲まれ、こんな風にゆっくり過ごせる。』
サモンにはまだ本当の幸せについての答えが出せない。いや、人がこの答えにたどり着くことは出来ないのかもしれない。
「サモン!寝てろって言ったでしょ!?」
カンナがコミュさんにつかまって飛んできた。
「ここで寝てるだろ?」
「もう!ただでさえ、傷だらけなんだから!!ちゃんと治るまで戦い禁止!!わかった?」
「わかってるよ。カンナ、復興の手伝いお疲れさま。」
『ふふふ、カンナの婿はやっぱりサモンさんね、孫はいつ?』
コミュさんのキラーシュート
『コ…コミュさん!?』
『ちょ!!ママ!!やめてよ!私たちまだ…』
『あら、まだ…ね。大丈夫よ、いざというときは私たちは遠く離れてあげるから。』
サモンはその瞬間顔を伏せ沈黙した。カンナはコミュさんとの戦闘に入った。
そんな喧騒の中、サモンはこんな安らぎの時を全ての生命が過ごしていければな。そう思いながら立ち上がり、村を見渡した。村の人たちが大変ながらも充実した顔をして復興する姿はサモンに充実感を与えていた。
「ならば壊してやろう。」
突如サモンの隣に男が現れた。不気味な姿と悪辣な笑みを浮かべながら。
『魔王うううううううううううううううううううう!』
瞬間、コミュさんが恐ろしい形相で聖なる魔力によるエネルギーを飛ばし、サモンは剣で切りかかった。エンガイムは全員に能力強化をかけ、ララとボルはサモンに合体するための形態変化をしていた。
しかし、すべてその男の前で無力化された。
「折角だからお前らは生かしててやる。最近暇なのだよ。もう少し困難でも与えればまだ成長できるであろう?まあ、お前がハイドロから必死に守ったこの村は消し飛ばしてやるよ。ふふふ…っはははははははは!!!!!」
目の前で笑いながらしゃべり続ける魔王にサモンたちは幾度も攻撃を仕掛けていた。
「あ――――せめて攻撃が通るくらいには成長して欲しいがなー。そこにいるあの洞窟の騎士女はもう自前で成長できないから。しょうがない、更に力を与えといてやろう。あとは自ら頑張りなさい。」
そう言った魔王はコミュさんの顔面を掴み力を流し込んだ。
『ああああああああああああああああああああ、やめろおおおおおおおおおおお』
コミュさんが叫ぶ。サモンもカンナも必死に攻撃を続けた。しかし、すべてが無力化され、無駄なあがきだった。
「どれ、とりあえず、3倍にしといてやったから。どうだー?憎しみの相手に力を与えられる気分は?おお!いい顔だなー、いい、その憎しみがこもった顔!いいぞ!ふははははははははははは!!」
体を気持ち悪いほどにくねらせたその男はコミュさんを叩きつけ、瞬時に村の中心地上空に移動していた。サモンは咄嗟にその男に向かって飛んだが、直後障壁に激突した。
「大丈夫だ心配するなア!お前らは我が守ってやる。ふふふふ…」
気持ち悪い笑いを止めず、魔王はこぶしに力を溜める。
「ふふふふ…いいなあ、希望に満ち溢れている。竜の討伐が成されたからか。いい顔だ。全てを消し飛ばすでは興が乗らんなあ。…お、地下に兵隊らしきもの達がいるな。あいつらは生かしておこう。ふふふ…決まったぞ。」
サモンたちは全員で障壁を打ち破ろうとしていた。
「あっはははははははははは!!抵抗虚しくお前らの守ったものは消えるのだよ!!!いいぞ!もっと憎め!もっと我を憎むがいい!!!!!力は0.002%くらいに抑えねば地下のやつらも吹っ飛んでしまうな…。調節とは難しいことだ。これも経験だな。」
『やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
サモンは叫んだ。必死に目の前の障壁に攻撃を重ね。魔力変換を試みた。全ての試みは無駄だった。魔力濃度が濃すぎるのだ。今のサモンでは変換しても無駄だった。
「さて、力の調節は終えた。ふふふ…くらうがいいよ!!サタン・ブロー。」
闇の拳が村に落ちた。地上のすべての命が消えていく。子供たちの笑顔も、復興に尽力する人たちも、何もかもすべてが、無に帰していく。
その日、美しき水の村ハイドロは地上から姿を消した。
―――――――――ふははははははははははは!!!
魔王の笑い声と共に。
2章完結。
次はサイドストーリーの予定です。
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けんぴ




