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フリントの意思 ーもう1人の英雄ー  作者: けんぴ
2章 希望を分かつ者たち
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15話 深い眠り

『サモン!!』


ララは落ちるサモンを受け止め着地した。エンガイムは体を回復させ、水球を炎により消し飛ばした。サモンの体はボロボロで、表面には内部から噴き出した魔力によりできた裂傷がいくつも出来ていた。即座にエンガイムとのリンクスを解いたコミュさんが回復魔法をかけたが、高濃度の魔力によりできた傷は回復魔法による効果が格段に低下する。サモンが回復したのは外部からのダメージのみであった。


『ありがとう…ララ、コミュさん』


傷だらけの身体をおしながらサモンは立ち上がった。


『無理をせずに、サモンさんの身体は限界を超えてます。回復魔法での完璧な治癒は難しい…。』


コミュさんが肩を持ち、ふらふらなサモンを支えていた。


『すいません…竜のところまで運んでもらえませんか?』


『その役目は私が…』


回復を済ませたエンガイムがすぐさま人の姿に代わり、サモンを支えた。コミュはその役目を譲り、負傷兵の治療に取り掛かっていた。エンガイムは優しく、しかし素早くサモンを竜の元へと連れた。


『ふ…なんだ、我を笑いに来たのか…?』


心臓を貫かれ、落ちた竜はまだ生きていた。魔力は尽き、手足も動かせず、あとは死を待つだけとなっていた。サモンは竜の顔の前に座った。


『ハイドロさん…あなたは…』


『もうその名で呼ぶな…我には両親より授かったホーン・エルグという高貴な名がある…エルグと呼べ』


『…わかりました。エルグさん、あなたは…復讐を目論む間、幸せでしたか?』


『っふ…何を喋りに来たかと思えば…、幸せであるはずがないだろう。我は全てを失ったのだ。残ったのは憎しみに燃える毎日であった。』


エルグは盛大に吐血した。


『エルグさん!!』


サモンは咄嗟に回復を掛けたが、超高濃度の槍で貫かれた傷には無意味であった。


『っふ…本当に変な男だよ、貴様は、だが最後にお前のような人間と、死力を尽くして戦えたこと…多少気が晴れたよ。』


『…エルグさんは俺たち人間のせいですべてを失った。でも、何かを手に入れることも出来たはずだ!!復讐以外の道もあったはずだ!』


サモンは涙を流していた。


『青臭い…そして、どこまでも甘いな。』


『俺は…両親を竜に殺された。しかし、今は家族ができた。人ではないが、絆はある。あなただって望めば手に入れられたんだ!』


『…そうかもしれないな。』


竜はサモンから目を離し、空を見上げていた。


『エルグさん!俺に使役されてください!そうすればあなたはまだ生きられるはずだ!ご両親から預かったその命を復讐なんかで終わらせないでください!』


サモンは魔獣使役を使ったが、エルグは拒否した。


『なぜですか!?』


『…我は目の前で両親を失った。人間の放った弓から我を守るように両親は串刺しになったよ。そのとき、言われたのだ。いつか人間に復讐を…とな。サモン…と言ったな。この世界や心はそれ程簡単ではない。今なお我は貴様ら人間を滅ぼしたいと切に願っている。両親の最後の願いであった。我はその言葉に呪われているのだよ。』


『なら、それをこれから俺と…』


『思い上がるな!!貴様と居れば我は救われるとでも!?そんなこと、ありはしない。長い苦しみの時が続くだけよ…。』


エルグ静かに目を閉じた。


『エルグさん…俺は』


『救いようのない甘さだな。だが…本当に守りたいものを守るときは非情を貫け…今日のようにな…。これは我が貴様に託す呪いだ。我が種族のような悲しみを繰り返させるな…』


『…その呪い…確かに受け取りました。』


『最後まで…甘いな…、…生きろよ。』


エルグはゆっくりと眠るように息絶えた。凶悪な風貌は変わることなく、ただ笑顔を残し、ゆっくりと…


―――――――母さん、父さん…ごめんなさい。復讐できませんでした。

―――――――いいのよ、辛い思いをさせたわね。

―――――――エルグよ、これからはずっと一緒だ、また3人で暮らそう。

―――――――うん!!やったーーーー!


甘い、蜜のように甘い夢の中で、ゆっくりと。



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