2話 民兵騎将スワン・ウォーネル
帝国帝都以外の大都市には都市の私設武装集団が配備されていることが多い。しかし、辺境地では費用や人員が足りず、そういった組織は門兵で手一杯なのが現状だ。そのような中で水の村ハイドロは数少ないハイドロ自衛民兵団を運営していた。
サモンが壕の中に入ると一直線の道が続いていた。途中小さな部屋があり、住民が数名その中で休んでいるのを見かけた。更に進むと広い部屋に出た。中には民兵団が会議をしているようであった。
「君が…サモン・フリントかな?」
入るとすぐに銀髪の青年が話しかけてきた。恐らく年上だろう。
「はい、サモン・フリントです。あなたは?」
「これは失礼を、私はスワン・ウォーネル。ここハイドロの民営騎士団騎将をしている者だ。民兵たちの救助、感謝する。」
スワンさんは頭を下げてきた。礼儀の正しい人だ。将としての器も感じる。
「いえ、お礼はこのことを伝えてくれた男の子に。もうすぐ俺の仲間がここに保護した村の男の子を連れてきますから。」
サモンは意思伝達でコミュに連絡を取っていた。
『コミュさん、あとどれくらいですか?』
『あら、お急ぎですか?なら、あと30分で。』
ちょっとよくわからないけどその30分後にはカンナとも意思伝達可能な距離に入ったらしく
『いやあああああああああああああああお母さんんんんんんん』
という意思が入ってきた。まあ、楽しそうだということにして深くは考えないでおこう。
「スワンさん、現状を教えていただいても?」
「もうスワンで構わないよ。こちらは助けてもらった側だし、堅苦しい話し方が合う場でもないからね。ではまず先ほど兵士が君に伝えた情報は省いて重要なことを伝える。魔獣が現れた直後、観測班が上空に一体の竜型の魔獣と小竜の大群を確認している。しかし、襲撃をしたのはコンドル型の一部のみだ。今後更なる大規模な襲撃を掛けてくるつもりかもしれない。」
…つまり、集団内に明確な上下関係があり、統率のとれた集団である魔獣である可能性が高いということだ。
「統率がとれた魔獣の群か、そのような集団聞いたことがないな、しかし、結界に攻撃の反応がないから次の襲撃はまだ来ていない。スワン、こちらの戦力は?」
「民兵が100名だ。傷ついている者が多数いたはずなんだが、たぶんサモン、君の魔法なのだろう?私もそうだが皆体調がよくなり、壕の中の不味い空気も外の空気のように新鮮だ。全員士気が十分。コンドル程度なら応戦できる。しかし、問題は小竜と竜だな。私なら小竜はたやすいが、竜を退けるのは恐らく無理だ。」
「…いい状況ではないのは確かだな。スワン、俺は統率を取る竜を討伐しに向かう。竜の実力はわからないが、敵わない相手ではないと思うしな。スワンには引き続き防衛を任せたい。ホーリーフィールドは内部にも張っていくから、入り口が破られても傷ついたら内部へ戻れば回復は出来る。大丈夫か?」
「逆に大丈夫かと問いたくなるな。こちらは無論、そのフィールドを張ってくれるなら被害ゼロで持ちこたえられる。本当に色々とすまないな。サモンは聖魔騎士なのか?」
「違うさ。俺はただの旅人だ。」
「なるほどね…まあ、今は猫の手も借りたい状況だ。詮索は無しとしよう。よろしく頼む。」
「ああ。」
そこにちょうどコミュ・カンナ親子と男の子が入ってきた。カンナが半泣きだ。
「サモン~~~~お母さんったらひどいのよ~~~」
抱き着いてきた。胸当たる。やめて。押し付けないで、あ…これダメだ。
「あらら、サモンさん、娘をよろしくね。ふふ。」
コミュさん!?いや、とめて!?
「ジール!!!」
スワンが男の子へ駆け寄った。そして強く抱きしめた。
「お兄ちゃん、騎士様は呼べなかったけど、助けは呼べたよ!!」
「お前なんて無茶を…ああ、よかった、無事でよかった…」
なるほど、スワンの弟だったのか…道中魔獣が出なかったのが幸いだったな。サモンはひとまずカンナを撫でて離して精神を落ち着かせた。
スワンはコミュの方に向き、頭を下げていた。
「ドリューの騎士コミュ様、ダンジョン内で行方不明と聞いておりましたが無事でいらしたのですね。我が尊敬する騎士よ、村を守るために何卒お力添えを!」
「久しぶりね、スワン君。無論、協力するわよ。」
なるほど、コミュさんもやはり辺境地では自己を顧みずに辺境地の守護をしていた。スワンはその高尚な意志に充てられた一人ということか。
「スワン、竜の討伐は俺とコミュさんに任せてくれ、やり遂げる。あと地下壕内に鍛冶や作業のできる場所はないか?」
「サモン…よろしく頼む!勿論備えてあるが、何に使うのだ?」
「カンナ…お前は今回は留守番だ。」
「えーーーーーなんでよ!?」
「カンナの目標はケントさん越えだろ?力を入れるべきは戦闘じゃなくて、機構の創出だ。だから、内部で機構を作り民兵に武器を供給してあげてくれ。」
「…まあ、そうね、悔しいけどわかったわ。」
頬を膨らませてムッとするカンナは可愛かった。美少女で胸が大きいのは本当に犯罪的だ。周りにいる民兵もだらしない顔でカンナを見ていた。
「ところでここにいる皆さん、娘に手を出したら…わかりますね?」
コミュさんが強大な殺気を出しながら兵士たちににっこり微笑んだ。十何人か倒れた。やめたげて!彼らは普通の民兵。コミュさんのオーラじゃ耐えられるわけないから。倒れてもすぐに結界の力で治癒されて起きたけど…兵士たちはカンナを見るのをやめていた。
「コ…コミュ様…」
スワンからドン引きを感じる。まあ、普段表に出さないけどコミュさんは娘への重度の愛を発生させているからしょうがない。
取りあえずは合流も果たしたところでサモンたちは一室を借り、休みを取っていた。
「私は少々スワンと話してきます。」
そういってコミュさんは出て行った。
「ね、ねえサモン…」
「どうした?」
「あの…その…疲れたから…」
「ああ、ゆっくり休めよ。ホーリーライフいる?」
「ち…ちがうの!!その、ひ…膝枕…」
え?何?なんて?膝枕?ん?
「は…早く!!!!」
カンナに引っ張られてサモンは室内のソファーに座らされた。そして膝にカンナの頭が乗った。
「…サモンの膝あったかい。…サモン?」
サモンは完璧に意識を飛ばしていた。




