1話 ケントの出発と次の村
サモン一行が村を出発する直前、ケントさんは門へ見送りに来ていた。
「サモン…カンナを頼むぞ!そして俺もこれから旅に出る。いつか、お前らを助けてやれるようにな。俺も前に進む時が来た。」
ケントさんたち家族は最後抱き合いながら別れを惜しんでいた。長い時を経てようやく再会した家族の別れはサモンの心に来るものがあった。絶対にこの家族に幸せで平和な時間をと改めて決意を固めた。
ケントさんはこれから帝国を過ぎ更に南の土地に存在する機構の村バルドフェルトに向かうと言っていた。封印した機構をもう一度創造する気になったらしい。カンナは目標をケントさん越えに設定しなおし、より意気込んでいた。
そうして4人は再会を約束し、ドリューを後にした。
サモン一行は更に北へと歩を進める。北には清廉な水により栄えた村ハイドロがある。しかし、現在は水源である北の山ナダルに魔獣が住み着き、ハイドロで有名なナダルの湖エグゼスの水は採取出来なくなっていた。それでもハイドロには多数の地下水源があり、未だ水の村として栄えている。
ドリューからハイドロまでは徒歩でおよそ10日間の距離だ。サモンたちはララに乗ってゆっくりと移動していたがララのスピードはゆっくりでも相当な速度だ。下手をすれば1日でついてしまう。しかし、サモンと違いカンナは速度や重力などの影響を受けるので、サモンは細目に休憩を取りながら進んでいた。
「はーっ!ララ早すぎよ、でもようやく慣れてきたわ。」
勿論カンナに後ろから抱きしめられているサモンは未だに全然慣れていなくて、細目な休憩はサモンの精神衛生上のためでもあった。
『ふふ!そのうち辛くなくなるよ!』
カンナは横たわる馬モードのララに体重を預けながら会話していた。前のように柔らかい体ではなく、白銀の鎧に身を包むララだ。しかし、サモンが悲しそうにつぶやくとララは鎧の硬度を調節できるらしく感触を以前のようないい枕のようにしてくれた。カンナがいなければそこで半日はゆっくりしながら本でも読んでいたいとサモンは思ったが、旅の途中だし、それは全て終わってからにしようと我慢した。
今サモンたちがいる地点はハイドロとドリューのちょうど中間点ぐらいの地点であった。サモンたちは1時間程休憩をとり、またハイドロへ向かおうとしていた。ここまで全く魔獣の気配を感じず、平和な旅だったがサモンにはそれが逆に引っかかっていた。ドリューとハイドロの間には比較的魔獣が多い。下級の魔獣がほとんどなので問題になることはほぼないが、ここまで出会わないのは不自然でもあった。
サモンがララにまたがり、出発してから1時間程進んだところで男の子が倒れていた。サモンはすぐさま飛び降り駆け寄る。
「おい!君!どうした?大丈夫か!?」
このままでは命を落とすことが確実であるほどに傷だらけだった。サモンはすぐにエンガイムと合体し、ホーリーライフを唱えた。
「う…」
男の子は目を開けた。こちらを見ると必死に懇願してきた。
「む…村が…ハイドロが魔獣の群に!ど…どうかドリューの騎士様を僕たちの村に!」
サモンは瞬時に状況を理解し、コミュさんをカンナにつかせ頼んだ。
『カンナ、コミュさん、この子を守りながら村へ!俺はすぐに村に向かう!』
『わかりました。』
『わかったわ!』
『ララ、全速力だ!』
サモンはララに跨り、全速力を出した。先ほどの10倍のスピードだ。1時間程度で村まで着くほどのスピードで村を目指す。男の子の歩幅とスピードから考えて、村は少なくとも4日以上魔獣に襲われ続けているということだ。早馬とすれ違わなかったことからも人員が不足しており、危機的状況であることがうかがえる。
―――――1時間後
サモンは複数たち昇る煙を見た。ハイドロであることは間違えない。エンガイムとも合体し、更に速度を上げて村を目指した。
村の門は破壊されており、門兵の姿がなかった。魔獣の姿もない。村の内部での交戦が続いているのだろう、サモンは魔獣騎士の誓いによりエンガイムとララを装備する。そして村の内部へと入った。
『サモン様、ここから北へ1キロほど離れた地点に魔獣の集団が、他にもありますが一番近い地点です。』
『わかった。全速力で向かう!』
進むと数十体のコンドルが兵士と戦闘をしていた。サモンはコンドルの群へと跳躍し、一閃で10以上を両断し、兵士たちの前に着地した。そして間をおかずに空へと魔法を放つ、
「ハイボルト・ニードル!」
エンガイムが新たに習得した細かい雷の針を一定方向に無数に飛ばす魔法、のはずだったが、コンドルたちに刺さった雷の針は瞬間的に連鎖し、巨大な雷の剣へと変化。コンドルの丸ごと焼き鳥串刺し(こんがり焼けてるよ!)状態になっていた。
『エンガイムさん、話が違うじゃん。』
『サモン様、私のせいではございません。』
冷静に返された。雷の剣は次の瞬間鳥を爆発四散させた。爆発落ちなんてサイテーである。
そしてまた驚きの視線を後ろの兵士から感じる。
「あ…あの、聖魔騎士殿ですか?」
辺境地に聖魔騎士様が来ることなどあまりないだろうに…サモンは思いながら兵士たちに名乗った。
「俺はキョウコの騎士フリントの息子サモン・フリントです。皆さん戦況を教えてくれませんか?」
兵士たちはフリントと聞いただけで目を輝かせていた。あのフリントご夫妻のと歓声を上げていた。両親を誇りに思いつつ。兵士からの状況報告に耳を傾ける。
「4日前、先ほどのコンドルが大群をなして急に村の外側に現れました。上空からの襲撃であったため、村の騎士様に助けを求めましたが…その、逃亡されまして…以後我らハイドロ村所属の民兵で住民の避難を最優先にハイドロ村地下壕へと住民と共に退避しました。地下壕への入り口は10か所。そこを民兵が6人ごとになり、守っております。死傷者は現在、民兵 10人、住民 0人、住民を守り名誉の死を遂げました。しかし、男児が一人が行方不明。現在民兵で村の中を探しております。騎士様の逃亡より先は民兵騎将 スワン殿が防衛の指揮をなさっています。」
その騎士様とやらを今すぐに畑の肥やしにしてしまいたかったが…
「その男児は助けを呼びにドリューへと向かう途中、こちらで保護しました。無事です。取りあえず、今からその10か所に向かい、コンドルを排除します。地図はありますか?」
「それはなんと…勇敢な少年だ…。保護していただきありがとうございます。地図はありませんが、ここから北に直線で進めば5か所、東、西方向に2か所ずつございます。仲間の救援をよろしくお願いします。私はスワン殿にサモン様の救援を伝えに。お前ら再度コンドルが来ても決して通すな!」
兵士たちはすでにボロボロだった。それはそうだろう。サモンは兵士たちにホーリーライフを掛ける。
「サ…サモン様は神の使徒であられますか??」
兵士たちが頭を下げてきた。
「違います。あと様はつけなくていい。命がけで村を守ったあなた方こそが様を付けられるべき人物ですよ。情報感謝します。結界的なものを張っていきますのでひとまず中で休息を、休んでから集中力を高めて再度防衛を頼みます。ホーリーフィールド!」
こちらもエンガイムが進化したことで得た能力であった。基本的には範囲内に魔獣が侵入出来ないフィールドを発生させる魔法のようだが、今まで経験上どんなサブ効果が付与されるかわかったもんじゃない。怖かったから確認しないでとりあえず騎士を壕の中に戻した後入り口を覆うように張った。そして残りの入り口へ向かった。
ハイドロの村はドリューの2倍ほど保護地域が広く、時間がかかるかと考えたが、壕の入り口はある程度集約されており、かつ敵は同じくコンドルであったため、排除は楽に済んだ。他の入り口にも同様にフィールドを張って最後はサモンも中に入った。
フィールドを潜ると瞬間浄化と癒しを含む風がサモンを包んだ。ダメージなど受けてないが浄化により汗なども完璧に取り除かれ、すっきりした。
『流石はサモン様、これは結界内部に完全浄化と高回復の風を流すフィールドになったようです。敵を防ぎながら回復も済ますので最高の防御魔法と言えますね。』
『…もう、俺、こわい』
そんな結界は本にだって書いてない。なんで人間離れしなきゃいけないのか、サモンは頭を悩ませながら豪へと入っていった。




