16話 小さな村の英雄
「サモン…ねえ、どうなの?」
カンナが近づいて見つめてきた。それは男殺しだ。サモンはしっかり喋れるつもりでいたが動悸が止まらない。正直サタン・スプレッドよりきつい。
「カ…カンナ、そんにゅんずやまともに喋れない。」
論より証拠を見せたサモン。冷汗を噴き出していた。
「っぷ!あはははは。サモン本当に女の子が苦手なのね?そんなにかっこよくて、強いのに…じゃあこれは今日のご褒美」
カンナがほっぺに口づけをしてきた。サモン無事ノックダウン。完封負けだ。顔は300発程平手打ちされたのではないかというほどに赤い。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
最早ことばにすらなっていなかった。そうしてサモンをノックダウンした上でカンナがサモンに告げてきた。
「別に、お母さんがいくからだとかそんな理由じゃないわ。私は、サモンを見ていて、サモンがダンジョンから帰ってきたときの住民の笑顔を見ていて、私もこんな風になりたいって思った。それに、もう一つお父さんの機構技術を更に飛躍させたいの。」
サモンはすでに頭を立て直していた。そしてゆっくりと答える。
「こんな風に…か、そうだな。俺も両親のように成りたくて、旅に出た。俺に少しでも憧れを抱いてくれたのなら、ありがたいことだ。そしてカンナのリボルバー…鍛冶士のケントさんの娘がそこまでの機構を創造していることに疑問を感じていた。ケントさんは…一級の機構士だったんだね?しかし、なぜ、鍛冶士に?」
サモンはカンナの答えから読み取れるだけ読み取って言葉を返した。
「パパの機構は帝国内部の貴族紛争に利用されたの。パパの機構で多くのヒトが殺された。パパの創造するものには10キロ離れていても条件次第で私のリボルバーを遥かに凌ぐ威力を発揮するものもあったのよ。もとは魔獣を人類から退けるための武器だったのに。騙され、利用され、パパは帝国から出たのよ。お母さんから聞いたわ。」
なるほど、酷な話だった。ヒトの世界も汚いものだとサモンは理解している。上に立つものが下のものを支配する。下の苦しみなどは考えず、とにかく自分の地位を上げるために目を光らせている。父が帝国を嫌っていた理由だった。
「そうか、ケントさんにそんな過去が…そしてカンナは…」
その先はカンナが言うべきことだろう。
「ええ、私はもう一度パパの機構を魔獣撃退のために使いたい。まだまだ私自身は未熟だけど、サモンの足手まといになるつもりはないわ!私も連れて行って。」
…連れて行こう。サモンは決めた。旅立つ意志は誰にも邪魔できない。
「言っとくけど、途中でやめたはなしだぞ?」
カンナの顔が笑顔でいっぱいになる。
「サモン!!!」
大声で抱き着いてきた。柔らかい胸部の感触にサモン無事終了。16歳(男)はクラクラしすぎて意識を失う寸前だった。
「さもおおおおおおおおおおおおん!」
ケントさんが大声を発しながら駆け下りてくるのがわかる。ああ、もう最悪。俺なんも悪いことしてない。
「きっさまあああああああああああああああ」
「パパやめてえええ!サモンは悪くない!」
また戦争だ。サモンは平和を祈りながら喧騒の中、眠りについた。
――――――パーティ―――――――
翌日、村長主催で村の真ん中には式典の準備がされていた。
「サモン!こちらに来い!がはははははは!」
ガイムさんは今日も元気だ。サモンは前のステージに上らされた。
「我らが英雄サモン・フリントだ。皆、盛大な拍手を!」
ほぼすべての住民が集まっていた。盛大な拍手で会場が埋め尽くされる。
「さあ、サモン。皆にスピーチだ!」
予期していたことだが、こんな冒頭に披露するとは思ってもいなかった。しかし、伝えるしかない、ダンジョンを制覇したのは魔獣使役士であるサモンだということを。
「皆さん…どうも、キョウコの騎士であった、フリントの息子サモンです。今回運よくダンジョンを攻略することが出来ました。村長とケントさんのご協力には感謝しています。…まず、俺は皆さんに伝えなければいけないことがある。」
住民たちは静まり返っていた。反応が怖かったが、サモンは影から魔獣を、エンガイムとララを召喚した。そして何故かコミュさんもすでにいた。天使モードで。
「俺は人類の敵である魔獣を使役するものです。」
サモンは多くを語らず、そこだけを伝えた。何を語ろうが、真実は一つ、サモンは魔獣を使役していることだけだった。住民からの返事はない。後ろの方では少しざわついているのが聞こえた。覚悟だけはしていた。この後、住民から石を投げられたとしてもしょうがないと、その時はカンナとコミュを連れて村をすぐに出ようと。
「…サモンは我らの英雄だ!!」
ガイムさんが右手を高く振り上げ、俺の前に立った。
「我々はサモンに救われた!結界が破壊され、村中が魔獣に蹂躙されるかもしれない事態に怯えながら過ごす生活はもうせずともよいのだ。サモンはドリューの英雄だ!我が意見に賛同できるものは手を上げよ!」
サモンは驚いていた。ガイムさんの振る舞いに。
「…英雄、ばんざーーーーい!」
1人の男が手を高く上げていた。その瞬間次々と手は掲げられ。集会場はサモンをたたえる声で埋め尽くされた。サモンの胸は熱くなっていた。父と母の騎士道に一歩近づけたかもしれない。充実感を胸に。住民に伝える。
「皆さん。感謝を。そして俺は誓います。すべての辺境の地に平和を!ここドリューはその始まりの日です!サモン・フリント名に置いて、ドリューの平和をここに宣言する!!!」
更に大きく歓声が上がった。この日、帝都で活躍する勇者アーサー・キングスの裏で小さな村に一人の英雄が誕生した。名をサモン・フリント、勇者の親友で魔獣使い。
そして彼は次の辺境地へと向かい、旅立った。
ここから、話題はそれます。2章の開始は少し後、お楽しみに!
けんぴ




