12話 20階層。そこにいた者
―――――ケント一家のカンナ生誕祭―――――
「お母さん!見て、この花!」
「あら、本当にきれいな赤いお花!どこで見つけたの?」
「私が町で拾った種から育てたの!」
カンナが大胆な笑顔で母親に話しかけている。
「本当に!?まあ、カンナはお花屋さんの才能があるわね。」
コミュは優しく娘の頭を撫でていた。今日はカンナ10歳の誕生日だった。
「今日はお母さん、腕によりをかけて、カンナの好きなものばっかり作るわよ!」
コミュが白いシャツの袖をまくり力こぶを出す。騎士だけあってその肉体は良質な筋肉で包まれていた。
「わーい!!!お母さん今日は魔獣のお仕事いいの?」
「ふふ。今日はホウルさんがドリュー近辺まできて私の仕事の代わりをしてくれるから、カンナとずっと一緒にいるわ!」
嬉しそうにカンナがコミュの腕に飛びつく。コミュはそのままカンナを肩車して部屋の中を走り回った。そこへ工房からケントが戻ってくる。
「うおおおおおおおおおおおおい!うらやましい!カンナ!パパのところにもおいで!」
ケントが腕を大に広げてカンナを待ち受ける。が、
「やだあ!パパ、汗臭い!お母さんがいい!」
「ぐああああああああああああ!今すぐ体を洗ってくるからな!待ってろよカンナああああああああああああ」
どたどたとケントが駆けていく、素晴らしいダッシュだ。
「ふふっ、騒がしいパパですねえ。」
「さわがしーパパァ」
「さぁ!一緒に料理を作りましょう。」
「うん!」
そこには、幸せに満ち溢れ、順風満帆に暮らす家庭の姿があった。
「カンナ!シャワー浴びたぞおおお!おいでええええええ」
ケントは普段の職人である姿とは程遠い娘を溺愛しすぎてしょうがないダメおやじを発揮していた。
「パパァ!ふふ、いい匂いーーー」
カンナが台所からケントヘと飛びつく。
「っはっはっは!そうだろう!コミュが大事にしてる洗剤を使ったからなぁ!」
「あなた!また勝手に使ったのね!?もーーーどうしてカンナに臭いって言われると使うのかしらー。あれ、高いのにー」
「っはっはっは!その分働くからな!心配するな、愛しているぞコミュ!」
「パパとお母さんラブラブ~~」
「カンナ!そういうこと言わないの!」
「えへへへ~~~」
準備は順調。食卓にはカンナの好物が山ほど盛られていた。
「うわあ~~~~~」
カンナは幸せそうな顔をしてウキウキしながらテーブルに座っていた。
「お母さん!早く早くう!」
「コミュ~早く早く!」
「あなたまで!もおーーわかったわ」
3人とも食卓に着き、誕生日を祝う歌をコミュとケントが歌い。
パーティは賑やかに進んだ。
「コミュ―!これは俺からのプレゼントだ!チタニドロン製のプレートだ!これでお前の命はいつでも守られる。もう常につけていなさい!」
ケントは自身の持つ最大の技術でチタニドロンの最高硬度を引き出したプレートを作り出していた。金貨100枚はくだらないものだった。
「?パパありがとおーーー」
カンナは使用法が分からずとりあえずブンブン振り回していた。コミュは横でこめかみを抑えていた。
「はぁーーー。カンナ、これはお母さんからよ。ふふっ。私が作ったお守りのペンダント。コミュをいつまでも守ってくれるわよ。」
コミュはミスリル製の祈りが込められたペンダントを送った。カンナにつける。
「うわあーーーーきれい!大切にする!」
カンナは本当にうれしそうに2人からのプレゼントを抱え、部屋を走り回った。
「ふふっ。こーーら、カンナ、危ないわよ!」
「そおおーれこっちにおいで!!」
「わぁ!パパァ!」
ケントがカンナを肩車し、部屋を走る。コミュは幸せそうにその光景を見つめていた。
――――――制御部屋の守護者―――――――
サモンたちは20階層に降りると今までのように通路がなく、一つの部屋と大きな扉があるのが見えた。
「これは、制御装置のある部屋だろうな。」
「…みたいね。」
カンナはここまで母の姿を見ていないことに安心と落胆を繰り返していた。ヒトが魔獣に殺された場合、アンデットになることが多い。ここまで結果的にほぼすべての通路を通ってきたがアンデットにも人骨にも出会っていなかった。
「…このダンジョンを壊そう!コミュさんの騎士道に掛けて、俺は絶対に成し遂げるさ!」
カンナもサモンの言葉に力を込めて目の前の門に向かいリボルバーを構えた。制御装置の部屋には強力な魔獣がいるのが通例だ。サモンも出来る限りの状況を用意する。ララとエンガイム両方に合体し、大剣を構えた。そして侵入した。
部屋の中央には魔獣が直立していた。とてつもないオーラを身にまといながら。こちらにゆっくりと顔を向けた。
『っつ!サモン様撤退を!あれは…デーモン。上級下位の魔獣です!』
『あいつ、やばい!サモン、逃げよう!』
サモンも十分に感じていた。あれは軍隊を用意しなければならない魔獣だ。カンナも足が震えていた。サモンは冷静に分析し、撤退を頭の中で選んでいた。カンナの命を守るためだ。
『っく!カンナ!行くぞ!』
『え、ええ!』
カンナを抱き寄せ、ララが部屋から出ようと加速し始めた。しかし、魔獣は瞬間移動によりこちらの前に出た。
「ダークネスボム」
「ホーリーシールドおおおおおおおおおお」
反射的にサモンは目の前に強力なシールドを張った。しかし、聖属性は闇により浸食されやすい。逆もまたしかりだが、今回は魔獣に分があった。シールドでほぼダメージは吸収したが、破壊され、衝撃サモンはララの上から吹き飛ぶ。サモンは空中でバク天、カンナを掴みゆっくりと着地し、ホーリーライフを唱えた。
『ララ!』
ララが一瞬でサモンの元にたどり着き、サモンは再びララに乗った。
『サモン様、私に魔法使用の許可を!合体は継続できます!』
『もちろんだ!頼む』
退路を防がれた以上、戦うしかなかった。サモンはカンナにホーリーシールドを、エンガイムは味方全体に強化魔法を撃っていた。
『ライジング!アークシールド!パワーエリュシオン!』
「ホーリーシールド!」
魔獣が再びサモンの後ろに瞬間移動し、爪で心臓を狙ってきた。サモンがライジングにより上昇した自身のスピードを生かし、瞬間で大剣を合わせ、空いた右手で鋼の剣を胴体目掛けて振った。ララと合体した力のある状態だからこそできる荒業だった。
デーモンに剣が入るが、ダメージを負った部位は回復していく。デーモンは瞬間移動により姿を消した。
サモンは咄嗟にカンナの元へララを走らせ、ララを騎士モードにし、カンナを中心に陣形を形成した。騎士モードにしてもララとの合体は続いている。便利だった。ララは地中よりもう一振り大剣を取り出していた。
デーモンが上空に現れる。
「ダークネス…レイン」
「っく!ホーリーシールド!!!!」
巨大な魔法陣が天井に展開。闇の魔法陣から黒い剣が降り注いだ。サモンは上空に強力なシールドを張った。
しかし、次の瞬間にサモンは横に出現したデーモンにより腹部に蹴りをくらい、吹き飛んだ。壁に激突し、落ちる。
『サモン!っく!お前えええええええええ』
ララが瞬間切りかかり、カンナもリボルバーを撃つが、デーモンはララを吹き飛ばした。
サモンはすぐに起き上がり、自身のダメージを考えずに突っ込んだ。しかし、デーモンに軽く往なされていた。
『ホーリーライフ!』
エンガイムがサモンのダメージを回復する。しかし、デーモンはカンナの目の前に瞬間移動していた。
「カンナああああああああああああああああああああああ」
デーモンが爪をカンナに刺そうとした。が、その手は止まった。
「カンナ…逃げて…」
「え…お…おかあ…さん…?」
絶望の始まりだった。そのデーモンは魔獣に作り替えられた騎士コミュだった。




