10話 新たな仲間とカンナへの告白
6階層まで進んでいた。大量に魔獣がいるのでそこそこ素材も手に入れていた。魔獣の素材は残ることが少なく、どこの村や都市でも武器や防具の素材として、重宝されている。村長へのお土産にと考えていた。
「カンナ体調は大丈夫か?違和感があるようなら言ってくれ。」
「大丈夫よ。というかたぶんレベルが上がって進むのがどんどん楽になっているわね。」
それもそのはずだ。こんなに大量の魔獣を討伐することなんて滅多にない。今のところ強い魔獣やランクの高い魔獣が出てきていないおかげもあるが、進むのは楽になっていた。
6階層を進むまでに300体以上は魔獣を討伐していた。ほとんどは4足歩行で稀にスライム。スライムは最初の3匹しか確認できていない。
「いつ強力な魔獣が出てくるかわからない。油断はするなよ?」
すでに侵入から半日ほどは経っているだろう。サモンは時間感覚に非常に長けていた。次の安全部屋では睡眠が必要になるだろう。睡眠をしなければ集中力が落ちる。注意力が散漫になり、弱い魔獣相手でも後れを取りかねない。
6階層を進むと、広い部屋にでた。通路にはあれ程魔獣が徘徊していたのに、この部屋には姿が確認できない。…いや、一体いた。銀色の鎧が動いている。他の魔獣にはなかったオーラを感じた。身構える。
「カンナ!気を付けろ!!こいつのオーラでほかの魔獣が近づいてこないほどだ。やばいぞ!」
「わかったわ!」
カンナがリボルバーを構える。そして射撃した。しかし、余程硬度の高い鎧なのだろう。弾ははじかれた。
「カンナ!俺が相手をする!外側の鎧に弾を当てても効果は薄い。足元を狙って動きをとめてくれると助かる!」
「う…うん!任せて!」
カンナにサポートを頼む。嬉しそうな声が聞こえたが、たぶん気のせいだろう。
サモンは鎧型の魔獣に突進し、魔獣の剣による鋭い突きを剣で滑らし、そのまま剣を魔獣の肩に入れた。魔獣の肩がダメージで砕ける。
『サ…モ…ン…た…す…け…て』
!?な…なんだ。この、魔物からか!?…助けて?
サモンは魔獣からの剣戟を躱し、バク天しながら後ろへと下がる。
『こ…ろ…し…て…サ…モ…ン…と…た…た…か…い…た…く…な…い…』
(だ…誰なんだ、お前は?何故俺を知っている!!!)
『ラ…ラ…』
サモンはキョウコの森で仲のいい動物に名前を付けていた。ララは…キョウコの森で出会った馬だった。初めて会った日に仲良くなり、よく森の中をララに乗りながら走ったのだ。ララは4年前姿を現さなくなった。サモンは家族でもできて引っ越したのかと考えていた。ララが姿を見せなくなりしばらくは悲しんでいたが、ララが幸せになっているなら、と気持ちを切り替えていたのだ。
(本当に、ララなのか?な…なぜだ!!なぜ魔獣に!?)
『サ…モ…ン…こ…ろ…し…て…こ…う…げ…き…し…た…く…な…い』
ッツ!…殺せない。俺にはララは殺せない。サモンは先ほどから魔獣に攻撃できないでいた。相手の攻撃を躱すばかりだった。
「サモン!どうしたの!…っく!」
カンナもまた、銃を打てないでいた。サモンと魔獣の斬り合いが近距離で凄まじい速さで行われ、サモンにあてないように魔獣を射撃するのは現在のカンナでは不可能だった。
『…サモン様、魔獣使役を。』
エンガイムが冷静に言ってきた。カンナの前でそれがばれようと、今のサモンにはそれをするしかなかった。一緒に過ごした大切な仲間を殺すなど…。
剣を躱し、鎧に手を当てた。
「魔獣使役!!」
スキルを使用し、ララが空中で分解し、サモンの影から白銀の鎧が現れた。
『サモン…ありがとう。助けてくれたんだね。』
(ララ!…よかった。なぜ…魔獣に?)
『魔王が仕掛けた魔獣捕獲用の罠にかかって、ンジョンに転送させられ、ダンジョン内で魔獣に作り替えられてしまったの。』
そうか。ダンジョン内への動物捕獲には何らかの設備があると考えていたが、おそらくはダンジョンで作製した転移装置を各地にばらまき回収してたのだろう。
「サモン…あなたは…」
カンナが聞いてきた。当然の質問だ。
「カンナ、次の安全地帯までだ。そこまで待ってくれ、頼む。」
「…わかったわ。」
そしてダンジョンを進んだ。ララにはとりあえず影に入ってもらった。使役が複数可能なのか、検討項目が多いしエンガイムだけでも十分すぎる程の戦力だった。
8階層の中盤に入りやっと安全部屋にたどり着いた。
エンガイムが合体を解き、懐から出てきた。
『サモン様、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか。』
(構わないけど、どうした?)
『ふふ…それは秘密でございます。』
そういうとエンガイムは安全部屋から出て行った。俺はカンナの前に座った。そしてスキルボードを見せる
名前:サモン・フリント 16歳 lv 32
クラス:魔獣使い スキル:魔獣合成
称号:救う者
HP 610
PW 650
DEF 830
INT 6000
SPD 750
SPI 1510
属性:無
…称号がついている。エンガイムもそうだが、称号は何かを成し遂げた人物に付与されるものらしい。まあ、その確認は後でいい。
「見ての通り、俺は人類の敵。魔獣を使役するものだ。カンナも俺に異質なオーラを感じていたと思う。…隠していたことについてはすまない。あとは…今までを説明させてほしい。」
そうして俺はカンナにすべてを打ち明けた。アーサーとの始まりの日からのすべてを。
「そうなの。そうだったのね。」
カンナは考え込んでいた。それはそうだろう。カンナの両親を殺したのも恐らくは魔獣なのだから。魔獣を憎んでいる。俺はこの場で拒絶されても仕方がない。
「カンナ、俺はケントさんに誓ってカンナを危険な目に合わせない。だからこのダンジョンの中にいる間でいい。信じてくれ。」
「?何を言ってるの?サモンはサモンでしょう。まあ、魔獣を使役するなんて聞いたことないからビックリしたけど。」
「…俺が嫌にならないか?」
「なんでよ、別にサモンが魔獣ってわけじゃないでしょ?それに魔獣だって被害者なんでしょ。さっきサモンが言ったんじゃない。…なら、ママのことがあっても多少は目をつぶるわよ。サモンの辺境地に平和をって誓いは人類の敵じゃ語れないし。」
カンナは強い。俺がスキルを得た直後なんて盛大な自己嫌悪に陥っていた。とにかくよかった。覚悟はあったとはいえ、拒絶されるのはつらいだろうしな。
「そ…そうか。いや、なら安心した。ララ。」
『どうしたの?サモン。』
ララが影から出てくる。白銀の鎧には似合わないしゃべり方だったけど。
(カンナに意志を伝えることはできるか?)
『ええ。できるわよ。』
『カンナさん。こんにちは、ララよ。サモンとは小さいころからよく遊んでたわ。』
『この状態は…意識の共有か?』
『え…な…何??』
『カンナこれはいつも俺がエンガイムやララと喋るときに使う脳内会話だ。便利だぞ、伝えたいと思った意志を自由に相手に伝えることが出来る。』
『それってうっかり私がサモンのこと気になってることとか伝わっちゃうんじゃ…あれ!?』
ええええええええええええええええええええええええ!?なんだとおおおおおおおおおおお!!!!
『…サモンの嘘つき!制御できないわよ!そんなのできるのサモンだけよ!伝える意志と伝えない意志わけるなんて無理!もう、やだ!!サモン嫌い!』
嘘だろおおおおおおおおおおおおおおお!?
カンナはほほを真っ赤に染めていた。対してサモンはダンジョン内に入って一番のダメージを受け、床に倒れていた。
「あ…違うのよ?本当に嫌いとかそういう意味じゃなくて…えっと、その、」
「だ…大丈夫だ。問題ない。」
『ふふふ。二人とも仲がいいのね。でも、サモンのパートナーは私よ!あ、でも奥さんはカンナに譲ってもいいわ!』
ララが元気よく言ってきた。やめてくれ、これ以上俺にダメージを与えないでくれ。
『ラ…ララさん!やめてください!というかサモンを知っていたの?』
『ええ…昔サモンはキョウコの森にいたのは聞いたでしょ?私はサモンとそのころからずっと一緒に森の中を走ってきたの!』
『そうなんだ…!へぇ…それが捕らえられ魔獣になってしまったのね?』
『その通り!でもサモンがスキルを持っていたおかげで、サモンとおしゃべりできるようになったから、その点は魔獣になってよかったかも!』
『よくはないだろ!?まあ、でもララを討伐することにならなくてよかった。』
『皆さま、お食事の準備が出来ました。』
『エンガイム!食事?』
『はい、サモン様の知識より食事については理解していました。先ほどサモン様が手に入れた素材をいくつか拝借し、焼いてみました。調味料はウルフ種の爪を削ることでスパイスに近いものになりましたし、ユウカ様の台所から少々お借りした塩を絶妙な加減で振りましたので味は中々のものかと、干し肉ばかりではなんとも寂しい食事でしょう?魔獣の肉とは言っても肉はヒトに無害です。分析しております。』
な、なんてできる奴なのだ!食べてみるとおいしい肉だった。
『うわ!おいしいよ、エンガイムさん!』
『カンナ様のお口にも合ったようで、張り切ったかいがありました。』
エンガイムはやはり礼儀正しい。
食事を楽しみ、談笑しながら、安全室内で仮眠することにした。




