1話 神の選定
うーむ。そろそろヒト族が減ってきたなーーー。
この世界の神は考えていた。増えすぎたヒト族を減らすために100年前、魔王を生み出した。神の思惑通り、魔王の虐殺により人類はその数を10分の1にまで減らしていた。
その日、神は魔王を消し飛ばそうとした。魔王はそれを耐えた。神の鉄槌を何のダメージも受けることなく耐えたのだ。
え。なんで?
魔王は100年の間に神を超える力を身に着けていた。神の鉄槌の出所を魔王は察知し、神の領域、天空領域にワープした。
おいおいおい、冗談じゃあないぞ?
神は目の前に現れたそれを本気の鉄槌で裁こうとした。
魔王はその隙を与えずに神に封印の剣を刺したのだ。
神は思った。失敗したと、神に死の概念などない。しかし封印となれば世界に干渉することが出来なくなる。ヒト族は滅亡するだろう。封印される間際、神は世界で最も勇者になる資質を持つ人間に力を与えた。
あ、やべ!神はまた失敗した。封印の剣から流れ込む魔王の魔力を間違えて神の力と共に送ってしまったのだ。
魔王の魔力は勇者には入らなかった。隣にいた少年に入ったのだ。
良かったーーー。まああとは勇者がなんとかしてくれるでしょ!安心。
じゃあ封印ついでに寝よ!
神は封印された。神の封印されし剣は魔王の手中に入ったのだ。
魔王は笑った。
「ふはははははははははは!神め!忌まわしい創造主め!私は私のやりたいようにやる!」
魔王は気づいていなかった。封印の間際神が勇者を選定していたことに。
―――――――選定された少年――――――――
サモンとアーサーはキョウコという田舎で育ち、森の中で成長してきた。サモンは動物に好かれ。森の中に入れば、サモンの近くには多くの生き物が寄ってきた。アーサーは森の中でひたすら体を鍛えていた。将来は騎士として帝都に赴き、名を上げ、キョウコを豊かにするという夢があった。
「なあ、サモン!お前も一緒に帝都に来いよ!」
木刀での素振りをしながらアーサーがサモンにいつもの勧誘をする。
「俺はアーサーみたいに強くないから騎士にはなれないよ。そりゃ帝都に行きたいのはやまやまだけどさ。」
サモンは動物たちとスキンシップを取りながら答えた。
「俺はその頭脳を使えばいいと思うぞ?お前は俺よりも頭がいい!回転がはやい!」
サモンがアーサーに勝る点は唯一そこだけだった。しかし、アーサーもかなり頭の回転ははやい。常人と比べれば、比較にならないほどだ。この2人は15歳にして両名ともに一般人を遥かに凌駕していた。だからこそ二人は親友になれたのだろうが。
「頭ねえ~でも俺は帝都に行くならやっぱり騎士にならないと、アーサーについていけるような男にならないとな!」
「お、そういうならほら!木刀での素振りを毎日続ければお前も強くなれるさ!」
「ふうー・・・そうだな!」
サモンが木刀を受け取った瞬間、アーサーに光が降りそそいだ。
「うおおお!?なんだ、これは!!」
サモンは急いでアーサーに駆け寄った。
「大丈夫か!?」
光はすべてアーサーの中へと吸収された。アーサーは何故か即座に理解した。
「俺は今…勇者になった。」
「は??え、本当に?」
「ああ、はっきりと分かる。体の中が聖なる気で満ちている!」
サモンも感じていた。そして納得した。アーサーならば勇者の資質は完璧だなと。
その直後、アーサーに黒い光が降り注いで来ているのを見た。直感でサモンは理解した。あれはやばい!
「アーサー!!!!!」
サモンはアーサーを突き飛ばして背中に闇の力、魔王の魔力を受けたのだ。瞬間サモンの身体は黒く変化し、土の上に落ちた。命の火は消えかけていた。
「シモン!!!!クソ!なぜだ!なんだあの黒い炎は!!シモン!起きろ!」
シモンは体をビクつかせ目を覚まさない。
「クソおおおおおおおおおおおおおおお」
親友を死なせない。アーサーはその一心で聖なる気を解放した。シモンの中で魔王の魔力と神の魔力が混ざった。瞬間、それは闇でも聖でもない。火・木・土・水・風・雷・闇・聖のどれにも当てはまらない。虚無の魔力がこの世に生まれた。
「う…お、俺は?」
サモンは目を覚ました。そして自身に宿る力を理解できずにいた。
「よ、よかった。サモン、お前が死んだらどうしようかと思った。」
アーサーもサモンに宿る力に疑問を持ったが、それ以上に親友の命を守れたことに誇りを感じていた。これが歴史に名を遺す2人の始まりの日であった。




