第八十七話『イクラ』
話しながら歩いていると、市場について、カニが見えてきた。
「おお、これがカニかのぉ!!」
と目を輝かせる、ハーデスちゃんだった。
「まあ、それエビだよね」
と、見紛うことのできないほどの立派なエビを指差して言うハーデスちゃん。すがすがしいほど、まったくもって、ぜんぜんわかっていなかった。
「やっぱり、わかってなかったわね!」
とカナデが笑う。流れをみてだいたい推測していたらしい。ハーデスちゃんわかりやすいもんね。
「わかってるもん!!わざとだもん!!」
と尊大口調をすっかり忘れて、反論するハーデスちゃん。
わざととのことだった。絶対違うけど。
「わざとっていう言い訳すごいな」
と僕は笑う。
ハーデスちゃんの謎のプライドの高さが、なかなか可愛いなと思う。知らないことを知らないといえるようになったら、大人になっちゃうしね、と微笑む。
「で、どれが、カニなのじゃ?」
と、降参して、ハーデスちゃんが素直に聞いてきた。
これ、とイクラを指差す僕。
「ああ、これじゃ、これじゃ!知っておったわい!!これがカニじゃ!!」
と堂々という、ハーデスちゃん、まったく知っておらなかった。気持ち良いくらいに引っかかるハーデスちゃんだった。
「もう!やめなさいよ!!コータ!!ごめんね、ハーデスちゃん、それはイクラよ!!」
と、カナデがすこし笑いつつ僕を叱る、ついつい、ハーデスちゃんが可愛かったので・・・すいません。
「なぬ!!はかったな!!コータ!!」とハーデスちゃん。
「うん、はかった!」と笑う。ちなみに謀ったは、謀る。という漢字だが、これも絶対わかってない。
「ちなみにイクラもおいしいよ!」
と、僕が笑う。
「お子様が大好きな、食べ物上位ランカーだよ。仕方がないから、お子様のハーデスちゃんのためにこれも買ってあげよう!」と僕は笑う。
「すいません、イクラお願いします!」
あいよっ!と気のいい店員さんが、タッパー的なものに包んでくれた。
「ああ、この値段でこんなに買えるんだ。これはまた別でイクラ丼とかできるなぁ」と僕はブツブツと言う。
「イクラ丼!!それは素敵ね!!」とカナデも微笑む。
「え、イクラ丼??なにそれ!!私にも教えて!!教えて!教えて!!」ジャンプしながら二人の会話に入ってくるハーデスちゃん。親の会話に入りたい子どものようなハーデスちゃんだった。
カナデが丁寧に教えている。ほうほう、それはすごいのぉ。と言ってる。たぶん何にも分かってないな、あれは・・・。これは後で食べてみるまでわからないだろうなぁ。イクラの味って想像できないよなぁ。
「あ、このカニください」
と一番ズワイガニに似ているカニを選んでお願いした。
ちょっと自信がなかったので、「これ美味しいですか?」と聞いた「もちろん!!この店いちばん人気だよ!!」と店員さんが教えてくれた。これで正解ぽかった。
「よし、一番美味しいカニをたくさん買ったし、ホテルにもどろう!!」
と僕は言って、ホテルに向かった。




