表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

5話 晩御飯のメニュー

「入っていいぞ」

取り込んで置きっぱなしにしていた洗濯物や、放置していた洗い物を片付け、僕は玄関のカギを開ける。

「お邪魔しまーす。なるほど、こういう玄関か」

「寮の部屋はどこも作りは同じだろ?どこかおかしいか?」

「そうじゃなくてね。私男の子の家とか、まぁここは寮だから部屋なんだけど、男の子のプライベート空間?に入るのが初めてだからさ。へーこういう感じなんだなーって思っただけ」

「でも今の感じだと思ってたのと違うって思っただろ」

「まぁね。男の子の部屋は壁一面グラビアアイドルのポスターとかえっちな写真が貼ってあると思ってたから」

ひどい誤解だ。今すぐ全国の男子諸君に謝罪してほしい。

「そんなやついねぇよ、多分。それより上がれよ。玄関で立ち話も疲れるだろ」

「そうだね、ありがと。では改めてお邪魔しまーす」

とたたっと軽い足取りで廊下を渡り、伏路が最初に足を踏み込んだのは僕の部屋だった。なぜその部屋に入ろうとしたかは分からないが、慌てて伏路の首根っこを掴み問いただす。

「何をしてる」

「いやーさすがに玄関にポスターがないなら部屋にはあるのかなーと思って」

「そんなポスターはどこにも貼ってねぇよ」

「残念。楽しみにしてたのに……」

あからさまに肩を落としてガックリとする。

どんだけ期待してたんだよ。

「それより、晩飯作ってくれるんじゃなかったのか?」

「そうだね、うん、そうだった。作ってあげるよ。何かリクエストは?」

「特にない。冷蔵庫の中身で作れるものでいい」

「おっけー。そんじゃ冷蔵庫さん失礼しまーす」

白く輝くボディの中には、何も存在しなかった。三段ある棚にも、野菜室にも、冷凍庫にも。

「あ、こんなところに卵が」

扉に設置されている卵置き場に3つだけ、鶏の卵が置かれていた。

「さすがの私も、食材がないことには何も作れないよ……」

「……すまん、買い物忘れてた」

「お米は?お米もなかったら今日の晩御飯は目玉焼き三つか、極厚卵焼きだけになるけど」

「米はある。今から用意するよ。ちょっとソファに座ってろ」

「はーい」

米櫃から一合分の米をカップで計り、ボウルに入れ水を注ぐ。二、三度米を洗ったら御釜に移して目安線までまた水を注ぐ。炊飯器にセットしたらボタンを押して準備完了。炊き上がりを待つだけだ。

しかしやけに伏路が静かである。僕が米を洗っている間一言も発していない。

何してるんだろ。

「伏路、お前何してーーー」

思わず言葉が詰まる。伏路はソファに座っていた。それだけで言葉が出なくなることはない。問題は伏路が持っていた漫画だった。

「彼方くんはこんな感じの女の子が好きなんだねー。なるほどなぁー」

『ブラコンなお姉ちゃんは嫌いですか?』の1巻。読んで字のごとく、タイトルを読めば9割方の内容が分かるのその漫画は、僕が本棚の奥に隠していたはずのものだった。部屋に誰も来ることはないだろうが、念のためと隠していたその漫画を伏路は読んでいた。

「待ってくれ伏路。そ、それはだな友達に借りてるだけなんだ。読め読めってうるさくて仕方なくなんだよ」

「彼方くん友達いないのに?」

頭に隕石が落ちてきたような衝撃を持つ言葉だった。気を失いかけたのを何とか堪え、伏路に向き直る。

「間違えたよ、それは俺の前にここに住んでた人が置いて行ったんだよ」

「先生とかに言わなかったの?気に入っちゃったの?」

「あ、いや、それはだな……」

「私は別にパートナーがシスコンでも気にしないよ。……まぁ、ドンマイ」

「慰めないでくれ……」

ご飯が炊けたことを知らせる音楽を炊飯器が鳴らし、虚しく部屋の中を木霊した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ