4話 先生からの贈り物は
「じゃあパートナー結成記念にパーティーしよ!パーティー!」
「仮結成なんだからそういうのはやらなくていいだろ」
「いいじゃん、やろーよー!」
「急に話し方も砕けてきたな……」
「さっきまでは表向きの私。真の私が表に出来たのだ」
ちょっとかっこよさげにポーズを取りつつ、伏路はドヤ顔で言う。
中二病かよ。
「はいはい、んじゃ僕は帰るから」
「それは彼方くんの部屋でパーティーをするってこと!?」
ずいっと近寄ってきた伏路の目は、夕焼けよりも輝いていた。
プレゼントを心待ちにする子供のような、というよりは餌をねだるペットか。
「……別に僕の部屋に来ても何もないぞ」
「大丈夫大丈夫。今夜はお互いのことを語り尽くそう!」
おー!と伏路が右腕を挙げる。この勢いをどうにかして削がないと……。
「話すだけなら今日じゃなくてもいいだろ」
「今日じゃないとダメだよ。だって今日は今日しかない。それに今日はパートナー記念日なんだから」
女の子というのはやたらと記念日を大事にしたがると聞いたことがある。厄介なものだと毎日が記念日になるとか……。
「パートナー記念日は本当のパートナーになってからにしろ。今日のは仮だって言っただろ」
「やけに強情じゃない。何か部屋にマズイものでもあるのかな?」
「い、いやそんなものない。あるわけがない」
「……今動揺したよね?ねぇ?気になるなー。私とっても気になるなー」
背中に感じたことがないくらいの速さで悪寒が走る。
「仕方ない。そこまで断るなら彼方くんの部屋に入れてもらうことは諦めるよ」
「ああ、それはよかった。また別の日にしよう」
「彼方くんの部屋に『入れてもらう』ことは、ね」
「はい?」
何を言っているのかさっぱりだった。どうして同じ言葉を繰り返したんだ?
「私ね、衣笠先生からいいものもらったんだよね。何だか分かる?」
プレゼント?よりにもよってあの人が?全く予想できない。まず衣笠先生が人に何かをタダであげるということが想像できないのだ。
女の子が言う「いいもの」とは。
「洋服とか、アクセサリーとか?」
「ぶっぶー。ハズレでーす。」
伏路はやけに嬉しそうな顔をしてハズレの宣言をする。そんなにもらって嬉しい物なのか。
「じゃあ正解は何だ?」
「ふふっ。正解は、じゃじゃーん!」
「何だそれ」
伏路がハンドバッグから取り出したのは銀色の鍵だった。どこにでもあるような、何の変哲もない鍵。
「どこの鍵だ?どこかの金庫か?」
「彼方くん、私が何で同じことをわざんざ二回も言ったと思う?」
わざわざという部分を強調して伏路はニヤリとほくそ笑む。
「『彼方くんの部屋にいれてもらうことは。』って言ったよね。部屋に『入れてもらうことは』」
そこで僕は気がついた。彼女は入れてもらうことは諦めると言った。入れて『もらう』ことは。つまり、
「その鍵は僕の部屋の鍵ってことか。入れてもらうことを諦めて、自分で入るってか!」
「大正解!でもでもちょっと頭の回転が鈍いかな?」
「うるさい、さっさとその鍵を渡せ」
「やだよー。でも彼方くんが私を部屋に連れ込んでくれるならやぶさかじゃないかな」
「連れ込むとか変な言い方はやめろ。分かった。部屋に入れてやるから鍵を渡してくれ」
仕方ない。部屋を少し片付ける間くらいは待ってもらおう。隙があれば絶対に鍵を奪う。絶対だ。
「交渉成立ね。そうだ、晩御飯まだでしょ?メロンソーダしか注文してなかったし」
「確かにまだ食べてない。でもそんなに腹も減ってない」
「まぁまぁ、今日は私が作ってあげるよ。料理は得意なんだよね」
意外だ。正直接客の時の印象だと不器用で何も出来なさそうに見えたから。
「部屋に入れる前にちょっと部屋の中片付けるから、外で待ってろよ」
「了解であります!」
伏路はビシッと右手で敬礼する。なぜかその行動に僕は笑っていた。
どうしてこの時笑ったんだろう。どうして、自分の部屋に入れようと思ったんだろう。