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2話 バイト初心者は苦労する

午後六時二十分、フードコートは今日も部活終わりの生徒達で賑わっていた。白の丸テーブルが縦に四列、横に二十列の四人席で計320席。目算でその7割ほどが埋まっていた。

カウンターでまだ注文をしている人数を合わせるともう少し増えるか。

フードコートは午後七時には閉まるので、時間まで例の子を観察してみることにする。しかしただフードコートに来て座っているだけというのも申し訳ない感じがしたので、飲み物だけ買うことにした。

フードコートにはファストフード店、レストラン、うどん屋の三つが営業している。正直うどん屋だけかなり浮いている。聞く所によると理事長がいつでもうどんが食べたいと言ったとか言わないとか。

さてさて偵察を兼ねて炭酸飲料でも頼むとしよう。ファストフード店の右のカウンターに並ぶこと五分、僕の番が回ってきた。

レジに立っていたのはプロフィールで見た、伏路彩花だった。

「いらっしゃいませ!ご一緒にポテトはいかがですか?」

「まだ何も頼んでないからご一緒も何もないんだけど……」

「申し訳ありません!えっと、えっと、あっ!店内でお召し上がりですか?」

「あ、はい。店内で」

「ありがとうございます。えっと次が……。で、ではご注文をどうぞ」

そう言って伏路はメニューを指す。

緊張してるな……このバイト最近始めたのか?

「じゃあメロンソーダ1つください」

「メロンソーダてすね。お客様はSですか?Mですか?」

唐突に性癖を聞いてきた!?いや待て落ち着け。確か先生が相手にも僕が会いに行くことを伝えると言っていた。それでまずは僕のことを色々聞き出そうとしているわけか。きっとそうだ。

「僕はノーマルだからSでもMでもない。Nだ」

「え?」

どうして唖然としているんだこの子は。自分で人の性癖を聞いておいてなぜそんな「この人は何を言っているの???」みたいな顔が出来るんだ。

「ええっと、申し訳ありません、Nサイズはうちには置いてなくてですね。サイズはS、M、Lからお選びいただけますか?」

メロンソーダの話かよ!ややこしい聞き方をするな!

心の中で叫ぶ。しかし態度には出さず落ち着いて対応する。

「ならMをください」

「はい、お客様はMですね」

その言い方はやめろ!!まるで僕がマゾヒストみたいじゃないか!しかも今何人かこっち見たぞ!チラチラ見るのをやめろ!

決壊寸前のダムのように崩れそうな心を必死に抑え、笑顔を作る。かなり引きつっていたが。

「ご一緒にポテトはいかがですか?」

「いや、結構です」

「どうしてですか!私頑張って作ったんですよ!?」

知らないよ!しかも作ったって言っても下ごしらえしてるやつを揚げただけだろ!

「お腹空いてないんで……」

「本当にいらないですか……?」

「い ら な い で す」

いらないという言葉を聞いた彼女は顔を青ざめ、「どうして私のポテトを拒絶するの!?」

みたいな表情を見せる。マジでいらないからだよ。

「本当に……いらないですか?」

「いらないですって」

「今ならおまけで私がついてくると言ってもですか!」

「もっといらないです」

「がーん!」

あまりにショックだったのか伏路は白目を剥いて、口から何か半透明なものを浮かせていた。

「おい、しっかりしろ。おーい」

「はっ!私は一体何を!」

「あのメロンソーダだけでいいんで、会計をしてくれませんかね」

「はい!メロンソーダのサイズはどれにいたしますか?」

「MだよM」

「お客様はMなんですか!」

「いや僕じゃないって!」

その後会計でも、メロンソーダを2個注文していたことになっていたり、代金を落としてしまったり。トラブルはあったが僕は何とかメロンソーダを受け取り、ファストフード店のすぐ前のテーブルに着いた。

遅めの時間だったこともあり、僕の後ろに並ぶ客はおらず僕が彼女の最後の客になった。

カップにストローを刺してメロンソーダを吸い上げる。甘い炭酸が喉を駆け抜ける快感。やはりメロンソーダに限る。

レジの方に目をやると、伏路は俯き、ため息をついていた。きっと初めてのレジ番だったんだろう。失敗は付き物だ。元気を出せ。

時計の針は六時四十五分を差した頃、僕は飲み干したカップを捨てに立ち上がった。

「そろそろ外で待っときますか」

ゴミ箱にカップと氷を分別し、僕はフードコートを後にした。


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