プロローグ
ここ2ヶ月忙しく、投稿中の作品が投稿出来ていませんでしたが、この機会にネット小説大賞応募作品を投稿させて頂きます。
出来る限りほぼ毎日投稿できればと思います。
「まだ走れるよね、彼方」
「だ、大丈夫……」
電灯が点滅する薄暗いトンネルをある姉弟が駆けていく。凍てつくような冷たい空気が辺りを覆い尽くし、指先の感覚は既になくなっていた。
「もうすぐ、もうすぐだからね……」
言い聞かせるようなその言葉は、自分自身へか、それとも懸命に走り続ける弟へのものか……。
「いたぞ!」「逃すな!」
「追いつかれた!?こうなったら……」
姉が弟の手を離す。突然のことに驚いた弟は立ち止まり振り返る。
「お姉ちゃん何してるの!早く逃げないと追いつかれるよ!」
「彼方は先に行ってて!お姉ちゃんは後から行くから!」
「わ、わかった!」
弟を見送ってから姉は追手たちへと向き直る。
「やっと追いついたぜ。諦めるなら最初から逃げないでほしいよな」
「おとなしく俺たちについてきてもらうぜ」
暗がりから現れたのは四人の男達。手には物騒な刃物や鈍器を携えていた。よくそんな物を持って走れる、そう素直に思うが今はそんなことを言っている場合ではない。
「誰が諦めるって言ったのよ。途中で諦めるくらいなら最初から諦めてるわ!」
「威勢がいいのはいいことだけどよ、肩で息して、無理してんじゃない?」
「そりゃ何キロもぶっ通しで走ればそんなもんだろ」
「まぁ俺たちには関係ないけどな」
わはは、と男達が腹を抱えて笑う。
少しでも彼方を逃すんだ……。
「悪いけどこっちには時間がないの。邪魔しないで!」
右手を振りかざし男達に突進する。その手にはいつの間にかハルバートが握られていた。
「おいおいそれも持っていってたのか?困っちまうなぁ」
「さっさと返せよ!」
男達も各々の武器を構えて走り出す。しかしその表情に焦りはなく、むしろ楽しんでいるようだった。
「うるさい!これは父さんの物だ!あんた達の物じゃない!」
「はいはい早く返してねーっと!」
「おらぁ!」
ドゴッ、と鈍い音がトンネルをこだまする。
動きが……見えなかった……?
その音が消える間もなく、少女の体に次々と痛みが増していく。
「あれあれ〜?勢いだけで手応えないじゃん!」
「つまんねーなぁ。もっと抵抗してくれると思ったのにさ」
少女の意識はそんな侮蔑さえ聞こえないくらいに沈みかけていた。しかし新たな声が少女の意識を取り戻させる。
「お姉ちゃん!」
「か……なた……。何で……戻って……」
「ぼ、僕はお姉ちゃんがいないと嫌だ!一緒に逃げるんだ!」
「あちゃー弟君帰って来ちゃったよ。折角命がけで逃がしてあげたのに、無駄になっちゃったねえ」
「でもかっこよく帰って来た割には足震えちゃってるよ、はは」
男の言う通り、彼方は恐怖で足が震えていた。それでも姉と共にいたいという思いが何とか彼方を立ち上がらせていた。
「あんたは……本当にあたしの言うこと聞かないんだから……。」
おかげで最後の力が出せそうになっちゃったじゃない。
「元気に、生きなさいよ……」
「お姉ちゃ---」
彼方の姿が一瞬にして消えた。そして同時に少女の手元のハルバートもなくなっていた。
「こいつ能力を使いやがった!」
「おいハルバートまで消えてるぞ!どうすんだよ俺たち罰ゲームだぜこれ!」
「とりあえずこいつ連れて撤収だ。弟の手とハルバートもすぐに見つかるだろ」
ぶつぶつと文句を言いながら男達は暗闇の中へ消えていく。---意識を失った少女を引きずりながら。