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第5話

 いきなり吐かれたことでもろにかぶってしまったようだ。

 そして悲鳴と同時に握手をしていた手を振りほどいている。

 そうとう嫌みたいだ。オズもさすがにこれはないだろうと呆れてため息を吐くしかない。

 だが視界の片隅、リーナの手が握り拳になっているのが僅かに見て取れた。

 さすがにここで暴れられるのはまずい。

 また窓でも割ったら何を言われるか。

 なんたって運行に直接響くのだ。これ以上起こせば最悪出禁になってもおかしくない。

 利用出来なくなるのはさすがにまずい。

 急いで止めようと動いたのだがわずかに間に合わなかったようだ。

 次の瞬間にはウォルターに一気に近づいてアッパー気味に拳を振りぬいているところだった。

 当然酔っているウォルターに避けられるはずがない。

 その拳が正確に腹を捉えた。


「ちょっと待てっ‼‼‼」


 いきなりの事に焦ってしまう。

 なぜなら殴り飛ばされたウォルターが綺麗な放物線を描きながらオズの立っている場所に来ているのだ。

 それも吐きながら……。

 このままでは確実にオズも被ってしまうだろう。

 分かっているのだが、まさかこっちに飛ばされてくるとは全く考えていなかったこともあり、反応に一瞬遅れる。

 ここで迎撃?してもいいのだろうがそれを行えばさらに悲惨になりそうだった。

 そう思ってしまうと中々手を出せない。

 そういうこともあってかオズに直撃してしまった。

 派手な音を出しながら。

 そのまま窓際まで一緒に転がる。


「はぁ……」

「いやぁぁぁああああ‼」


 リーナが悲鳴を上げながら荷物を持って備え付けのシャワー室に駆け込んでいく。

 はっきり言って気持ち悪い。

 オズも早く入りたい。

 起き上がり周りを見てみる。

 やはりというべきなのか吹っ飛ばされて転がったりしたために荷物が散乱していた。

 せっかく掃除したのにまたやり直しになってしまった。

 そして元凶ウォルターはさっきの一撃で完全に気を失ってしまっている。

 こういう時に限ってウォルターは気を失っている。そのせいでオズが後片付けをすることになるのだ。注意しても懲りないのでもう諦めてしまったのだ。

 書類仕事も後片付けも出来ない。

 だがこれでも主戦力なのである。

 不思議な事に。


「……もうちょっと考えくれよ」


 小さく呟く。

 依頼を受けたというのに子供のように遊び出すは、物は良く破壊するはで良い所はその戦闘力だけだ。

 だがたまにその行動力が何かを発見したりしている。

 例えば珍しい植物から隠し部屋まで様々だ。

 見つけた珍しい植物は薬草から毒を持っている物の仕分けが出来ている。

 動物を見つけては食べられるか判断している。たまに珍種を発見しているのに見過ごしていることもある。

 隠し部屋を見つけたら中からいろいろと見つかったりしている。

 なんだかんだで貢献はしているのだ。

 以前なんでそんなに簡単に見つけられるのかと聞いたことがある。

 返って来た言葉が


「う~ん……。匂いとか、あと勘?」


 本人は考えて言っていたが匂いなんて普通は分からんだろう。

 あと勘はなんだ。

 聞きたいことはいくらでもあったが聞いてもたいした返答に期待はできない。

 そんなこんなでの付き合いだ。

 文句は言いたいことは山ほどあるのだがまぁ構わないだろう割り切っているのだ。

 だがさすがにこの癖、酒を飲んだら酔うのはどうにかしてほしいところだ。

 別に悪酔いをするわけではないがそれでも飲んだ酒だけを吐くのは止めてほしい。

 下戸のくせに酒を飲むのだ。いつも自分には弱点なんてない!なんて言いながら飲んで酔うのだ。その度に飲んだ分だけ吐き出しているのだ。

 当分の間は禁酒だなと決め込む。たぶん納得がいかないとか言って暴れるだろうがこんな事を引き起こしたのだ。取り押さえてでも行う。

 そうと決まれば早速動き始める。

 まずウォルターをベットに投げ寝かせる。

 少々乱暴かもしれないが罰にはちょうどいいだろう。

 そして散乱してしまった物に埋もれてしまったであろう自分の荷物を探し始める。

 結構下の方にあったらしく上の物をどかしてもなかなか見つからない。

 いつまでも見つからないことに苛立ちを感じてしまう。

 早くこの汚れた服を脱ぎたい。

 苛立ちから上の物を投げ始める。


「ぐぇ……」

「……」


 投げた物にあったったらしく息を吐き出された声が聞こえてくるがそんな事に構わず投げ続ける。

 声も続けて聞こえてくるが全く気にはしない。

 そんな事をしていたからなんとか掘り当てることがなんとか出来た。

 その中から自分の服を取り出してシャワー室に向かう。

 だがこの時失念していた。


「へっ……」

「えっ……」


 扉を開けた先には身体にタオルを巻いた状態でリーナが立っていた。

 思わず呆けた声を出して固まってしまう。

 リーナもまた突然開かれた扉で振り向いてオズを見ていた。

 そしてオズ同様に固まっていた。

 そんな状態のリーナを凝視している事に気がついたのだがすでに遅かった。


「このっ‼変態っ!」


 そんな怒声と同時に振り抜かれた拳はオズのアゴに直撃した。

 そしてオズは意識を失ってしまったのだった。




 意識を取り戻したときにはリーナは椅子に座っていた。

 だがその顔は羞恥心からか真っ赤になっている。

 オズは気がついてその顔を見た瞬間からこれはまだ怒っているのが分かって冷や汗を掻いていた。

ただ無言であったが逆にそれが怖かった。

喋ったら今度は殺される。

何となく察したオズは何も言わずに動き始める。

大人しく空いたシャワーを浴びる。

その時に気がついたのだが身体の数か所に痣が出来ていた。

心辺りがなかったのだがあのリーナの様子を見てなんとなく予想できてしまった。

思わず身体が震える。

当分の間大人しくしていようと決めてシャワー室から出て部屋を後片付け始める。

ただその様子をリーナは眺めていた。



「はぁ……。やっと終わった」

「……」


 ようやく後片づけを終わらせる。

 リーナは本当に見ているだけだった。ただ居すわっているだけだった。

 居座るつもりなら手伝ってくれても構わないだろう。

 そう思いもしたのだが先ほどの件もありなんとも言えなかった。

 リーナはともかく未だにいびきを掻きながら寝ているバカ(ウォルター)が一番腹が立つ。


「ぐがー。がごー」

「……」


 非常に殴りたい衝動に駆られているのだがそこは抑える。

 この気持ちよさそう寝ているウォルターをひとまず意識を外すことにして椅子に座る。


「……」

「……」


 特に話題にする内容がないのでリーナもオズも全く口を開かない。

 この気まずい空気の中話せる自信は全くなかった。

 そんな自分に自虐的になりつつ本を取り出し開いて読みだす。


「……オズ~。そんな子供に手を出すなよ~」

「……」

「あー!それは俺のものだぞー!いくら彼女が作ったものだと言ってもそれは酷いな~」


 無言で立ち上がりベットに近づく。

 そして拳を思いっきり振りかぶる。


「一体どんな夢見てんだよっ‼‼この馬鹿野郎っ!」

「ぐぇっ‼‼」


 怒鳴りながら思いっきり腹に振り下ろされる。

 まるで潰されたような悲鳴が上がっている。

 オズ一人ならともかく客がいるときになんて寝言を言っているんだ!


「なんだ?なんだ⁉」

「何寝ぼけてんだよ⁉」

「いってぇ‼何すんだよ⁉オズ!」

「それはこっちの台詞だっ!」


 オズの一撃で目が覚めたようだがぬけた言葉にもう一度殴る。

 当然だがオズに掴み掛って来る‼


「何の話だよっ‼」

「さっきの寝言だっ‼あれだと俺がまるで彼女とイチャイチャしてたようにしかきこえねじゃねぇか‼」

「事実じゃんっ‼このロリコン!」

「誰がロリコンだっ‼あいつらとはただの友人だろがっ‼飯だったらお前にもあっただろが!」

「本命はオズだったよ⁉」

「違うだろっ‼」


 怒鳴って来るウォルターにオズも負けじと怒鳴り返す。

 この言い合いは徐々に大きくなる。

 だがその内容は……。


「この悪ガキ!」

「エセ紳士‼」


 小学生のような言い合いに変わって行った。

 そんな中小さく噴き出す声が聞こえる。


「ぷっ……」

「……」


 二人そろってその声が聞えた方向に顔を向ける。

 その顔を二人とも興奮しているのが見て取れる。


「ふーっ!ふーっ!」


 ウォルターに関しては獣のような息をしている。

 その姿はもはや現在人よりも自然で生きて来たような野生児そのものだ。

 少なくともオズとリーナはそう感じている。


「……何か可笑しかったか?」


 オズもまた興奮しているからなのか分からないが苛立ちを込めた声になっている。


「……まるで兄弟みたいだなと思って」

『誰と誰が兄弟だっっっ‼‼‼』


 笑おうとしているのを噛み殺して言うリーナ。

 そんな様子に同時に噛みつくオズとウォルター。

 二人の息がピッタリな事がさらに兄弟のように見えて仕方ないのだがそのことに気がつかない。


「否定されても、ねぇ?」

「どこら辺が兄弟のように見えんだよっ‼」

「こっちも願い下げだっ!このじゃじゃ馬が弟だなんてな!」

「それはこっちの台詞だよ!」

「どこからどう見ても仲が良い兄弟にしか見えない」

『絶対に違うっ‼』


 否定はしているのだが何故か息がピッタリで否定になっていない。

 その様子を見てリーナは小さく笑っている。


(……笑っているといよりも微笑んでいるようにも見える)


 オズの感じた通り笑っているわけではないのだろう。

 ウォルターがそれに気がつくわけではない。


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