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第3話

 オズは真っ直ぐに部屋に向かったわけではない。

 食事をした事もあり眠気も覚めてしまった。

部屋に戻っても本を読むぐらいしかない。

 ようするに退屈なのだ。

 少しでもと思い、適当な店に入ったりするのだ。

 それでも入る店というのは決まっていたりする。


「へい!らっしゃい‼」


 他にあまり客が入らないためかオズを見るなり期待と気合を込めた挨拶をしてくる。

 オズは特に何かを求めているわけではない。

 掘り出し物でもあればなという程度だ。

 別に弾丸の補充が必要でもないのだ。


「何か探し物で⁉」

「いや、軽く見に来ただけだよ」

「ちっ、冷やかしなら帰んな」

「掘り出し物でもあれば買うつもりだが」

「そういうことなら早く言ってくださいよ!旦那っ!」


 ここまで態度をころころ変えていてよく商売が続くよなとオズはわずかに感心していた。

 こういうところでの商売はその腕にかかっていると言っても良い。


「うちの店に良い物は…」

「掘り出し物だから金額が高くないものだ」


 店員が良い物をと進めようとしてきたのだがオズは高いと判断して断りを入れる。

 あらかさまにがっかりした様子だがこればかりは仕方ない。

 ウォルターにそれなりの金額を渡しているのだ。

 手元に残っている金では高額には確実に手を出せない。

 だからこそ掘り出し物と言ったのだ。


「でもよ~」

「仕方ないと思ってくれ。こっちは金欠なんだ」

「はぁ~」


 あらかさまに落胆した様子だ。

 この時代に銃はあまり売れない。

 というのも魔法が普及しているかだ。

 こういう武器が必要な生業のほとんどが銃を必要としていないのだ。


「その様子だとあまり売れていないようだな」

「そりゃな。ここ最近の連中は魔法に頼っているからな。廃れて当然だろう」

「……何でこんな店を?」


 オズは棚にある商品を見つつ素朴な疑問を聞く。

 儲からないと分かっている店を起こすのもおかしな話だと思う。


「……そういうアンタは何で銃なんか使ってんだよ?」

「俺は銃が持ち運びしやすい。それに手入れさえ怠らなければ何年も使えるだろ?」

「暴発がするかもしれないだろ?」

「それを言ったら魔法もだろ?」


 オズが言う通り魔法も暴走する。

 それも周りを巻き込むことの方が多い。

 それ故に暴走は恐れられている。

 起こる事自体が稀であってほとんどない事なのだが


「それに魔法が効かない、使えない事態に陥った時の事を考えておくべきだろう?それにもしかしたらこれを持っていたからこそ助かることもあるだろうしな」


 元々オズは魔法を使わない。

 いや使えないと言った方が正しい。

 そういう事情からオズは様々な道具を使うことにしている。

 銃もその一つだが、そのほとんどが狙撃銃になっていたりする。

 使っている弾丸が少し特殊なのだ。使える銃も限られている。


「くっくっくっ。そうか」

「ん?なんかおかしな事を言ったか?」


 そんなにもおかしい事を言ったつもりはなかった。

 思わず店員の方を向いてしまう。


「いや、そういうことじゃないんだ」


 店員は少し落ち着いたみたいだ。


「こんな時代でそんな考え方をしているとは思わなかったのでな。つい……」

「言いたいことは分かる。けど、他人の考えと自分の考えとは違っていて当然だろう?だからこそ銃を使っている奴もまだいるんだろ?」

「そりゃまぁそうだがな。だからこそだ。」


 そう言って店長がこっちを真っ直ぐに見る。


「銃ってのは何かと金がかかる。それ加えて魔法が主流となってしまった今ではミドル、ロングレンジといえば魔法になってしまっている世の中だ。まぁ、中には例外的な考えを持っている奴はいるがそういう連中のほとんどがトップの連中なんだ。大抵の奴は銃より魔法を選ぶだろうよ」


 それは確かな話である。

 常に最前線が活躍する連中の中には銃を使っている奴がいる。

 銃をメインに持ってきている理由もそれぞれだが、その誰もが特性を理解した上で戦い方を組み立てている。

 そのほとんどがギルドに所属していてかなりの実力者だ。

 オズがその部類に入るかと聞かれた違うと言える。


「それでも魔法は使う。身体強化なんかは必須のことだ。それが出来なければ何もできないからな。」


 店員がそう言いつつ窓の外に目線を向ける。

 オズも釣られて外に目を向ける。

 外は湖が広がっていて、水面から廃墟の一部が顔を出しているのが見える。

 旧文明の後に造られたであろう遺跡。

 繁栄していたであろうと分かる。


「俺はな。昔、ギルドに所属していてな。仲間と共にいろいろととやったんだ。だがな、ある時、怪物に襲われたんだ。それなりに魔法に自信はあった。だが効かない魔物に会ったんだ。その時に銃を俺だけが持っていたんだ。それでなんとか命が助かったんだ」

「…」


 何かを懐かしむように言う。

 それなりの思い出があるようにも感じる。

 その一緒だったという仲間がどうなったかは聞かない方が良さそうだ。


「だから俺はこの店をやっているのさ。いろいろとあったがこれが在ったからな」

「そうか。その気持ちはなんとなく分かる」


 それが持っていたから助かったのだ。

 その武器に愛着がわいても仕方ないだろう。


「こんな武器を作れた旧文明ってのはすげぇと思っているよ。なんでまた滅んだんだろうな?」

「……さぁな。それこそ様々な仮説が存在するからな。どれが正しいかは分からないが、一番有力なのは大規模な自然災害だそうだ」

「そう言われているな。だが、俺は滅んで欲しくなかったな」

「なんで?」


 オズには分からなかった。

 元々この銃は人が生み出した武器だ。

 滅ぶべきではなかった。

 どうしてもそのように思えなかった。


「いや、なに。俺を救ってくれたのはこの銃だった。だったら生み出してくれた連中に感謝してもおかしくないだろう?」


 店員の手には一丁の銃が握られている。

 相当使われていたのだろうか、古ぼけている。


「……それでもこれらは人をも殺せる武器だ。昔もこれらで戦争はしていたと思う。滅んでいなくても戦争は起きていただろうな」

「あの魔大戦のような、か」


 魔大戦

 文明が崩壊した後に起きたとされる戦争だ。

一説には魔法が生まれた事により争いになったと言われている。

 他にもいろいろと仮説が存在するがどれも定かではない。

 ただ確実に言えるのは世界規模の戦争が起きたという事だ。

 それを魔大戦と呼んでいるのだ。


「かもしれねぇな。だが現実は滅んだ。今の武器は発掘された物を見て作られたものだ。今の技術では新たな武器というのはあまり作れないからな」

「魔法が生まれた事によっていろいろと発見はされたが、そのほとんどが発掘された物と混ぜられたからな。新たな武器は中々作れん」


 銃を見定めながらオズは言う。

 旧文明にもいくつかの時代が存在するが滅んだとされる時代の主流はおそらく銃だろう。

 だが魔法が生まれてからは剣や槍、杖といった物に魔力を流して使われている。

 現物はかなり少ないのでほとんどが遺跡から発掘された文献を元に製作されている。

 旧文明では時代遅れといわれた物でも現在では時代遅れとはいえないのだ。


「それに伝承で言われているじゃねぇか。古き時代の人間はかなりの魔導士であふれかえっていたって」

「……」


 オズは思わず手を止める。

 店員はそんな様子に気がつかないのか続ける。


「もしかしたら旧人類が優れた魔導士になれたのに、こんな武器じゅうを生み出したのはあまりにも魔法が使えなかったからかも知れないっていう説もあるんだ‼」

「……あくまで伝承だろ?本当に魔法が存在したかなんて分からない」

「ロマンが無い奴だな。少なくとも俺はそう信じたいんだよ」


 店員は苦笑いで言って来る。

 その時代を生きた人間を今では旧人類と呼ばれている。

 その原因はそのほとんどが歴史に名を遺したとされる者ばかりだからだ。

 もはや伝説として語り継がれて残っているぐらいでしかない。

 そんな話をしていた時だった。

 オズの目にある銃が止まる。


「……これ、本当に四十万ゼニーか?」

「ああ、そうだ。どうした?」


 店員が笑いながら言って来る。

 オズの目が正しければこれはこの値段ではすまないはずだ。

 状態を確かめるべく手に取り確認を始める。


「おい、それがどうかしたのか?」

「……」


 その様子に店員も驚いたのか聞いてくるがオズは全く答えず淡々と確認をしていく。

 答えないからか大人しく終わるまで待つことにしたようだ。

 一通り見終わったらしく、銃を会った場所に両手で大事そうに戻す。


「……これを買おう」

「別に構わねぇが、なんでそれを買おうと思った?」


 まだ気になる様子だ。

 もし、ここで答えて高値に変えられたらどうしようか?

 一度悩んだがその時は大人しく買わずに戻ることにした。

 別に武器に困っているわけでもない。


「この銃を見てみたが、これは一品物である奴に作られたモデルなんだ」

「ある奴?」

「おそらくルーナだ」

「っ‼‼」


 その名を聞いた店員も驚きを隠せないようだ。

 ルーナと言われれば昔活躍した冒険者だ。

 彼女はそれだけでもなく鍛冶を得意としていた。

 その作品は百年経った今でも使われる耐久性と性能を秘めている物だ。

 滅多に目にすることがないような代物なのだがまさかここで見れるとは思ってはいなかった。


「見た所保存状態も良い。これなら倍の値段がついてもおかしくないだろうな」

 本当にちゃんと鑑定士に見てもらったのか?と呆れた様子で目を向ける。

 店員もまさかそんな代物を取り扱っているとは夢にも思っていなかったらしく言葉も出てこない様子だ。

 そんな時に店の扉が開いて誰かが入って来た。


「うっす!ちゃんと店番していたか⁉」


 いきなりの大きな声にオズは少し顔をしかめた。

 また豪気な人が入って来ていた。

 なんとなくこの人なら気がつかずに店に並べそうな気がする。


「ん?どうした?客をまたしていて固まっている場合じゃねえぞ‼」

「て、て、店長⁉なんでこんな物を置いているんですか⁉」


 一括入れられて正気に戻ったらしく、店員が詰め寄りながら今入って来た店長に聞いていた。

 やはりこの人が店長のようだ。


「こんな物?」

「これです。俺が見た所リーナの作品です」


 オズが指を指しながら店長にこれまでの経緯を話す。


「がっはっはっはっ‼まさか気がつく奴がいるとはな‼」

「店長⁉知っていたんですか‼?」

「それよりもなんでリーナの作品、それもこんな銃を持っているのですか?彼女はあまり銃を作らなかったはずです」


 誰でも聞いたことのあるはずの人物、その中でも作ったのがたったの二、三品とされる武器だ。そう簡単には手に入らないはずだ。

 それにこの人は知っていて置いていたことになる。

 だからこそ気になった。

 どういうつもりでこのような品を置いていたのか。


「そりゃ、価値の分かってねぇ連中より分かっている奴に売りたいだろうが!」

「どういうことっすか⁉」


 もはや分からないという様子で店員が聞いている。

 オズはこういう変わった人に今までに何回か会ったことがあるので慣れている。

 この大きな声には慣れそうにないが


「いいか、金さえ積めばなんでも買えるって思っている連中が大半を占めているんだ‼そんな当たり前の考えを持っている連中に売るぐらいなら本当の価値を知っている奴に売るってもんよ‼」

「それでもこの値段はおかしいでしょ⁉」

「値段の問題じゃねえ!分かるか⁉」

「…つまり、高い値段で売っていればその値段に釣られてやってくる馬鹿な連中、この場合は実力は持っている武器で決まるとでも思っている連中の事でしょう。そんな奴より確かな知識を持っていて、尚且つ武器の力を最大限に引き出せる自信を持っている人に売りたかった。と言う事でしょうか?」

「おっ!分かっているじゃねか!坊主っ!」


 思いっきり頭をくしゃくしゃに撫でまわしながら耳元で大きな声を出して来る。

 なんとか逃れようとするのだが、腕力もあるらしくなかなか逃れられない。


「それとこの値段とどういう理由で繋がっているですか⁉」


 どうも店員はまだ納得がいかないらしく怒鳴っている。


「値段が高ければどうなる?」

「?そりゃ、かなりの価値があると思うけど?」

「そういうこった」


 店長が豪快に笑う。

 店員はまだ分からないらしく首を傾げている。

 そんな様子に見かねたオズはため息をだしつつ答える。


「それでは値段だけで判断してくる連中に目を付けられてしまう。だったら値段を低くしてやればいずれは……」

「ああっ‼そういうことですか‼」


 ようやく納得がいったみたいだ。

 だがオズとしては問題はこの後の事だった。


「……で、どうするんですか?」

「えっと、どうしましょう?」


 なんで聞き返して来るのか分からない。

 もし値段が高くなるのであればオズは引くしかない。

 それ以前、他にも理由があるのであれば引き下がるつもりだ。


「そうだな。気がついたのは坊主が初めてなんだ。だったら坊主に売ってやる」

「良いんですか⁉」

「おう、それに実はなこの店も次の駅で降りることになったんだ」

「えっ⁉最近片づけていたのはそれが理由なんですか⁉」


 店員は驚いた様子だった。


「ああ、一応お前に以前聞いたんだ。そしたら街で店を開いてもいてくれるって言ってくれただろ?あの時は嬉しかった。こんな俺について来てくれるなんてな」

「店長……」


 オズは大人しく見ていたのだがこの話を聞いてこれについては引き下がることにした。

 その前にこれ以上暑苦しいこの2人から離れたいところだ。


「最後の客として坊主はピッタリだ!なによりその年でこれを見分けるとはな」

「そういう理由ならこの銃はあなた方に預けましょう」

「なにっ‼!」


 当然の反応だろう。

 買うと思っていた客がいきなり断ったようなものだ。


「この銃が気に入らねぇのか⁉」

「そういうわけではありません」


 顔を真っ赤にして店長が怒鳴って来たが落ち着かせるようにオズは言いながら続ける。


「買わないのではなく買って預けるのです」

「どう意味だ⁉」

「あなた方の商売繁盛を願った必勝祈願ですよ」


 そこまで言って理解したようだ。


「別に俺は武器に困っていません」


 そう言いつつ腰につけたポーチから1丁の銃を取り出し見せる。


「それは?」

「……‼そんな物を持っていたのか」


 店員は気がつかなかった見たいだが店長は気がついたみたいだ。

 オズは笑顔で続ける。


「ちょっと特殊になりますけど俺の切り札の1つです」

「ははは。坊主、確かにそうだな。しかし良いのか?」

「そのうち取りに行かせて頂きますので」

「そうか。それじゃ預かっておく」


 店長も納得したようだった。

 オズは金を払い、店を出て行く。


「坊主!ちゃんと俺たちの店に来いよ‼」

「オズっ!そん時はいろいろと教えてくれよな!」

「ああ!」


 こんな所でも出会いはある。

 店の名前も覚えた。

 次に行くときはお土産でも持っていこうかな。

 未来に楽しみを残しつつ、オズは自分の部屋に戻って行った。


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