第2話
オズ達はあの魔物、猿狼と戦った遺跡の最寄りの町から少し離れた都市ランバオスに数日かけて来ていた。
実は言うとあの後最寄りの町で結構絞られた。
受けた依頼は確実にこなしたのだが倒壊してしまった建物の件でかなり言われたのだ。
被害者からは感謝されたが、倒壊はこの町に影響するだろう。
次の予定、北へ向かうために夜間列車に乗り遅れるわけにも行かなかった。
その夜間列車も大陸を横断するように作られているためなのか数日に一本、もしかしたら月に一本でしか走っていない。
そんな事情もあり、夜通しで事後処理をこなさざるをえなかった。
乗り遅れないために朝早くからオズは列車に乗り込んでいた。
ついでに少しでも仮眠を取ろうか考えていたりする。
客室でゆっくりしているとジリリリッ‼と発車する音が聞こえてくる。
(もうそんな時間か……)
のん気に考えながら窓を開けて少し眠ろうかというときに外から声が聞えて来た。
「ちょっと待て~!」
「さっさと乗れよ~。これに乗り遅れたら次はおそらく来月になるぞ~」
オズは列車の窓から顔を出すが眠いのか欠伸をしている。
その様子は外で必死に追いかけて来ているウォルターにもはっきりと見えていた。
「ちょっと起きてよ‼」
「ふぁ~」
必死の叫びもオズには届かなかった。
こっくり、こっくりと転寝をしそうだ。
「おいっ!」
その様子にウォルターは手を貸してくれないと判断したのかそのまま走り続ける。
だが列車は速度を上げ始める。
このままでは確実に列車に乗り遅れてしまうだろう。
どんどん離されていく。
そしてウォルターの目の前に最後尾の乗車口が見えていた。
これに乗れなければ確実に遅れてしまうだろう。
そしたら次が一か月後、それも今回の席を取ったお金も無駄になってしまうだろう。
手を伸ばすが取っ手に上手く届かない。
これ以上は走れないし、速度も上げれない。
もう乗れないと諦めかけたのだが、不意に扉が開かれウォルターの手と取り車内に引き入れらた。
たまらずウォルターは転がってしまう。
「貸し一つな」
オズは欠伸を噛み殺しながらウォルターを見下ろした。
どこまでも世話のかかるようだ。
「助けるだったら、もっと速くにしてよ‼」
「乗り遅れかける方が悪い」
すぐさま起き上がり食って掛かるウォルターにオズは普段通りに言う。
その様子にウォルターはさらに怒鳴る。
「そうだけどさ!なんで起こしてくれなかった⁉」
「…腹いせ?」
ウォルターの怒鳴り声にも全く動じず、今にも眠りそうだった。
ここで言い合うのも他の乗客に迷惑がかかるという事で自分たちの客室に向かって歩き出した。
その後をなんだかんだ言いつつウォルターはついて来ている。
「一体なんで疑問形なんだっ‼理由位はっきりさせろよ‼腹いせってなんのだよ!」
「お前が全く手伝ってくれなかったから」
オズの言葉にウォルターは立ち止まり固まってしまった。
心辺りがあって当然だろう。
なんたってウォルターが倒壊させた遺跡の始末書の件なのだから。
「いやだってあれは…」
「人がせっせと書いていたのにお前は宿屋でグーグーと寝ていたよな?」
その声には怒気が含まれている。
ウォルターに向けた顔は笑っているがその視線は鋭かった。
その様子にウォルターは冷や汗を流している。
「いやだってアレは…」
「いくら書類関係は苦手と言ってもな~」
「そもそも壊したのは…」
「とどめをさしたのはお前だったよな?建物にも、な」
「アイツが結構強かったから…」
「それほど苦戦していなかったよな?横から思いっきり蹴っ飛ばしていたし。いや~すごかった、すごかった」
ウォルターの言葉に被せるようにオズが答える。
全身から滝のように冷や汗が流れているのが見て分かる。
「…必死だな」
「ははは」
乾いた笑い声を上げるウォルターを半眼で睨む。
普段から言っているのだ。書類仕事がある程度行って慣れておけと。
だというのにウォルターは全く行わなかった。
こういう時のためなのに一体何をやっているのか分からない。
オズはため息を吐きつつ歩き出す。
「部屋に着いたら俺は一度寝る。昼になったら起こしてくれ」
「…はい」
ウォルターにしては大人しく頷いている。
さすがに悪いと思っているのかもしれない。
ともかく眠たいので部屋に向かって歩き出し、着いたらベッドに入った。
「あ!それ俺のんだぞ‼」
「いいじゃねか。別に」
場所が変わって二人は食堂車のレストランに来ていた。
あの後部屋に戻ったオズは昼頃まで寝ていた。
二人とも人ごみを嫌って早い目に昼飯を取ることにしていたので、起こしてもらいここに来ていた。そういうこと事もあってなのか人は疎らにしか人がいない。
列車に乗っているという事もあって規則的に揺れている中の食事になる。慣れなければ気になるのだが二人はほとんど気にせずに普段通りの食事をしていた。
ウォルターの大きな声がこの部屋全体に声が響き視線が集まる。
別に高級な店ではないがそれなりに注目を集めていた。
「だったらもう1つ頼むなりとすればいいと思うが、その前に全部食べろよ」
「ええっ!先に頼んでもいいじゃん‼」
「駄目だ。食べ終わった後だ」
呆れた様子で高く積まれた皿をちらっと見る。
まだ食うのかよ。
自分が食べた分よりはるかに多く食べている。
それなのにまだ食べるつもりなのだ。
一体どういう胃袋をしているのか知りたいところだ。
「はぁ」
「ん、一体どうした?」
「別に」
料金が先払いで良かったのかもしれない。
もし食べた後、払えませんでは話にならない。
それどころかここで働くことにまでなりかねない。
ただでさえ高い料金を出してこの列車に乗っているのだ。
もう少し考えて食事をとってもらいたいところだが、目の前にいるウォルターに言っても変わらないという事をこれまでの付き合いで分かっていることだ。
なんにせよ毎日のようにこれだけの量を食べられることは避けなければならない。
幸いにもウォルターはこれだけ食べるのは一ヶ月に一回ぐらいだ。
今日食べたら一ヶ月は大丈夫だろうと思いたいところだ。
ともかく食べた。
客室に戻ろうと席を立つ。
「あれ?オズ?」
「あほ。俺はもうお腹が良いんだよ。ウォルター、お前と違ってそんなにも入らん。あとこの分だけだぞ」
オズと呼ばれた青年は机に財布を置く。
その財布にはかなりの金額が入っている。後2、3品は頼めるだろう。
「そんなに食べていいの?」
「まだ食べるつもりだろう?だったら多いに越したことはないだろう?」
「まぁ、そうだけど」
ウォルターは会話を続けるが食べる手を止めない。
やはり食べるつもりなのだろう。
ここまで来たら呆れるしかない。
「俺は先に部屋に戻っているからな」
「おう」
返事を返して来るがその視線はメニューへと向かっている。
一体どれだけの食費になるのか考えると今から頭が痛くなってきたのだった。