多分この人は私を好きなんだ
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前世では結婚詐欺をメインに詐欺師を営んでおりました。自営業?私が資本ですうみたいな。いや、こんな莫迦みたいな喋りはしなかったがな。寧ろ清楚系。結婚するまで肌は許さなんぞ系。そのため赤サギなんぞと称されつつも、結構体は清らかさん。いや、流石に処女とまでは云わないけどねえ。
そんな前世では有りましたが、私が詐欺師をしてたのは、結局はお金の為だけど………何だかんだで、抜け出せなくなったからってのが大きいかった。それしか知らなかったってっのもある。
最初は、生きる為の撰択肢の無い子供が、近くに居た悪い大人に『そう』仕込まれたから。犯罪を当然とする人たちに囲まれて育ったから。だから、私もそれを当然とする大人になった。それが『当たり前』では無い事を知らないままでは居られなくても、一度片足を突っ込んだ人間が容易く抜け出せる筈も無い。中にはビックリする程の強運と幸運のもとに、『普通』の倖せを手にする子が存在しない訳でも無かったんだけど。
それは滅多にある事では無いし、少なくとも私には訪れなかった。訪れたのかも知れないけど…………私には、その倖運が差し出す手を、掴む勇気がなかった。
だって、それはよくある罠かも知れない。倖せを求めて、表の世界への切符を渡されて、けれど挫折して舞い戻る女達がいる。そんな敗残者を嗤う男も同様だ。男の方が数が少ないのは、単に世間の有りように拠るのだろう。
女の方が、成る程過去を隠し易い。少なくとも、ボロを出し難い。主婦の仮面を纏い、夫の名を名乗り、付属物として静かに暮らせば、割と簡単に得られる普通の生活がある。
とはいえ。云う程に簡単では無いからこそ、再び堕ちる女達が存在した訳だが。
被った泥を完全に落とすことは出来ない。黒く染まった人間が、洗い流して白くなる訳でも無い。
心が違和感を覚えて、自ら平穏に負けて戻る者は、けれど実は少数派だ。殆んどは、排斥され異物として排除されて逃げ帰って来たと云うのが正しい。
溶け込むのは得意だ。それが仕事なら。そして、短期間なら。長期的な仕事だって、先が見えない年数はない。長期だからこそ計画ありきの、綿密なセッティングが最初に行われる。何もない状態で、『ずっと』だなんて曖昧な未来を見て、自分と相容れない世界で、仕事のプロ意識が支える演技も見据える獲物が無いままグラグラと揺らぐ。
鈍感な筈の集団は、誰からともなく異物を発見し、少しずつ、排除に乗り出していく。
自ら平穏に倦み、自身の異常に気付き戻る者は、割と簡単に、当たり前に、以前の自分を取り戻す。
綺麗な振りをして順調に平和を満喫していれば、気付いた過去の『仲間』が足を引っ張る事さえある。
周囲の視線に敗けて、時には過去を暴かれて、引き裂かれるように排斥された女は、明るい未来を夢見て出ていった日が嘘だったみたいにボロボロになった。
夢見た未来が明るければ明るい程。ズタズタに裂かれた現実が目前に横たわり、彼女たちを以前よりなお苛烈に苦しめた。
簡単に云えば、弱かったと思うし、愚かしくも甘い見通しだったのだろう。
私は寧ろ、冷めた目で彼女たちを見ていたし、彼女たちを嗤う者は居ても、同情を示す者は稀だった。同情されたなら、彼女たちは警戒しなければイケない。
それも出来ないくらい『ダメ』になったのなら、帰って来るべきでは無かったのだ。
どんなに生き辛くとも、少なくとも表の世界より。
こちらの方が苛酷だ。
未来を夢見て出ていく前は、あんな奴に騙される女性では無かったけれど……そんな風に思う事もあったが、助けたりもしなかった。それを当然として罪悪感すら抱かない。
だからこそ。
差し出された手を、握り返した事はなかった。
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生まれ変わった現在、当時を振り返って思う。
差し出された手は、確かに多くは無かったが、唯一人のものでも無かった。しかし、連想するのも、思い出すのも、唯一つの『あの手』で。それは前世でも変わらない事実だった。けれど、あの頃には気付かなかった事を、多分、無意識の内に気付かない振りをして、自分自身を騙していた事を、現在の自分はアッサリと認めた。
詐欺師に、しかも赤サギと称される男女の駆引きに長けていた筈の己が、恥じ入るばかりの誤魔化し様ではあった。あんなにも明白で拙い誤魔化しを可能にしたのは、その『手』が、自身の脳裡に画かれる記憶にしか無いからだ。その『手』は唯一人を指し示し、私が彼に並々ならぬ関心を寄せている証に他ならなかったけれど、ただ『差し出された手』の『象徴』であるとして、その『手』の持ち主とイコールで結ぶ事を拒否したのだ。
ある意味で、それは傷付かない為の保身で、生き残る為の手管のひとつだった。心の何処かで、自分なら大丈夫じゃ無いか、とか。そんな風に誘惑する声を押し退けて。
恋に気付かぬ振りをした。
戯れならば、まだマシだった。少しくらいなら、ごっこ遊びに興じるのも良かった。倖い私はチームプレーが必要な仕事は滅多に参加しないし、数年程度なら……他の皆がそうであった様に、見逃して貰えた筈だった。
それをしなかった。出来なかったのは、数年では済まないと知っていたからだ。
戯れで済まない想いだと、手に入れたなら……喰い尽くさずにおれないだろう自分を恐れた。だから自ら想いに蓋をして。
本気の恋を封印した事で、私は自分が恋を知らなかった事実を知った。
まさに、戯れ。お遊び。おままごと。
私が体験したと信じていた恋は、結局はそんな程度のものでしか無かった。
ホンモノは、味わう事も許されず、ただ封印して見て見ぬ振りをするのが関の山。
前世の私は、そんな臆病な恋しか知らなかった。ただ一方的な、マスターベーションみたいな恋心だ。
問題は。
犯罪者だから避けざるを得なかった慕情を、避ける理由の無い現世では欠片も感じた事が無い点であろうか。
なんだかな。
思い出すのはあの『手』。
私が知る唯一の恋は、あの日から進展する気配すら無かった。
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多分この人は私を好きなんだ。ってワカルと、いつもスッと冷静になる自分が存在した。同時に、多少高揚する部分もあった。獲物を見定め、引き出す額を算段する。それはプロの詐欺師として、誇って良い筈だった。
けれど、『彼』に対してだけは・・・逃げ出したいような衝動に駆られた。値踏みする自分が嫌だった。どうしようもないと・・・思った。
それでも幾度となく。
差し出された手を、思い出す。それは相手の感情に気付いた故の連想だ。
現在は男なんだから、その相手は女性であるのが順当と云うべきだろう。しかし、男女を問わない現実は、男を誑し込む昔の手管を無意識に使っているからだろうか?
むろん、深入りも危険も呼び込まない程度の手加減も同様に。好意を得て、それを厚意と優しさで押し止める卑怯さは、もはや習性とも云えた。
友情より恋情を、ただ私の微笑みひとつを得たいが為に必死に頑張ってくれる男性を、無意識に索敵して撃墜する。
それは最早、私の本能なのだ。
どうやっても堕ちない相手も当然存在するが、年若い少年たちにそんな強固な意志など求めるのは無茶な話である。私は相手の弱点を突き、弱味に寄り添い、時に優しさで、時に厳しさで、其々に合わせた方法で陥落させる。完全に無意識では有り得ないけれど、それでも堕とす最中に我に返る事もある。
ああ、もう。
別に、必要無いんだよね………しかし、ついでなので堕ちるまで続行する。
そんなこんなで。私はキヨラカさんなのは体だけか、まあ中の人詐欺師だし仕方ないよね。って感じのミニハーレムを構築するに至った。
友達?うん実は沢山居ます。男女問わずね。静かな時間が好きだから、大抵いつも一緒に過ごすのは数人だけども。地味っ子な振りをして派手な生徒が沢山居る学校の片隅にコッソリハーレム作成してた。
中でも幼馴染みの二人の男の子は、多分、まともな恋愛出来ないよね・・・ってくらい私に執着している。そして、幼馴染みに負けず劣らずの執着を見せて、私の隣を許された彼らに取って変わりたい子たちも沢山存在する。
まあ。つまりは私の男女問わずのオトモダチな訳だけども。
チョロすぎるわ。
如何に子供だろうが簡単すぎんだろ。たまには手応えがあるのが居ないのか?つうか『前』は全く落ちなかった相手居たよね?友達居たよね?現在の私には友達?取り巻きの事?みたいな感じの子たちしか居ないんだが、どういう事よ。
なら陥落させるなって話だが。
だって習性なんだもん。仕方ないよね。
下手に目立つのもゴメンだから、私のハーレムは密やかに育まれてるけど、どうやら子供時代から手塩にかけて洗脳してしまったっぽい幼馴染みを筆頭にして。
あきらかに。『前』より執着の度合いが強い。温い好意に囲まれてたと思っていたら、いつの間にか結構な粘着視線を向けられていた。
もし箍が外れたらどうしよう。ちょっと怖い。とか・・・少し思ったが、その心配は杞憂だった。
肌に触れる事も無いまま貢がせた『前』は、将来一緒になる「かも」知れない「夢」が餌だった。無論、真面目で清楚な女は男の中では完璧に処女だと思われてたし、それも餌には違いなかったが。
どうやら『現在』はそれも必要としないくらい、簡単に私を優先する集団が存在した。
餌は「友情」。私が気を許して、我が儘を云う事すら、彼らにとっては「ご褒美」なのだ。何それ?何処で刷り込まれたの?貢がれて無いし、友達って早々執着の対象にならないと思ってたら、最近そうでも無かったと気付いたんだけど。
よく解らないが・・・自分が無事なら別に良いか。とは思った。子供は一途で純粋だ。そして、大人になっても関わるならば、子供の純粋さで夢中になった相手には早々逆らえないだろう。
私なら、無邪気で無力な自分を知る相手なんざ疎ましい限りだし、そんな風に感じる人間は少なくは無いだろう。
けど、まあ。それと知っているか否かで対応は変わるし、対応次第でその反発は強烈な好意にすら反転可能なのだ。強い感情は、結局はある種の執着故だからね。
だが、しかし。将来がどうたら云う前にだ。
こんな生活をしていて、私が恋だの友情だのなんてモノを知る日は来るのだろうか?
性別以前に。
私の習性が私の邪魔をしていた。
☆☆☆
前世の女性キャラは相棒作なのでネタを貰わないと続きようが無かったのですが。
「詐欺師のTS続き書かないの?こないだ姉の話書いてたよね。」
「妹だよ。書いても良いけど・・・前世ネタは?」
「・・・・え?」
相棒はそんな事すら忘れておりましたよ。
一応普通の世界っぽく書いてる前世は実はそうでは無かったり・・・そんな裏設定がイキル日が来るのだろうか?イキナイ可能性が高いから現世っぽく書いてるんですがね!
置き場に困った設定メモ
前世世界。裏で書いてるトリップ先の世界。差し伸べられた手の主は坊っちゃんだけど貴族では無い。
主人公前世。トリップした小さな時に彼女を拾った詐欺師のじい様に黒髪を茶髪に染められた。染めを落とせば王族に迎え入れられるのは必至な為、ウッカリしても逃げ道があると云う思いも密かにある。男だったら奴隷コースが定番のトリップ場所だが女だったら王族に迎えられる仕様の世界(お月さまの『誰にも云えない』設定)。女性少ないから地味でもモテるしチヤホヤされるのは当たり前。それを普通とする彼女は貢がれて無い時点で然したる執着を認めてないが、最近漸く気付いてきた部分あり。自覚が薄い彼女(彼)のハーレムは結構な粘着集団と思われ。
(前世書く事になった場合で不突合があったら、01もコレも少しだけ書き直すかもです。)
ほんで次話はお友達が出来る話を既に書いてるんですが、今回の話とズレがあったので、手直ししてから後でUPります。