なぜそこで愛!?
「敵は既に展開中の様ですね」
ナナシマで指揮をする天本由佳里が地図を見ながら言う。
「全く、我が軍勢は何をしていたのだ?押されっぱなしじゃないか」
そこにナナシマの大将、袁士が来た。
「辛い状況なのは承知です。今彼らが止めています」
彼ら、つまりは勝利達のことだ。守りには正喝を攻撃には勝利と月村が参戦している。誠治はある策を行うため戦線をいったん離脱している。
「とにかくだ、まずは前線を押し上げるぞ、一個中隊、私に続け!」
袁士が本陣から突撃する、それを見た天本は
「(この戦い、イリナと勝利達が鍵を握りますね)」
前線にて・・・
『紅蓮の炎よ、その輝きで悪を滅っせ! ミネルヴィ!』
刃に炎を載せ、渦状になり敵を巻き込んで行く。
「ぐあああ!」
「行きます!」
『真・月集蒼波!」
今までよりさらに大きい青いエネルギー弾が敵を飲み込む。
「ぐわああ!」
吸い込まれるように敵を払っていき、煙を舞い、辺りは何も見えなくなったがすぐに晴れた。
「だいたい片付きましたか?」
「そうだな、防衛線の敵はいない」
勝利は小休止を取れると思い水を飲んだ。
「俺たちは最前線を上げて敵を誘導するのが任務だ。後は誠治が・・・
「何かしらの策はあるとはいっていましたが、あれは?」
「さあ?本部には言っていたみたいだけど俺が聞かされたのは策が成功するまで敵陣に突入するなぐらいだな」
「包囲はしておいた方がいいですね、先に行きます、一個小隊、私に続け!」
歓声が上がり、月村は俺と別行動となる。
キラさんは勝手に突っ走り何処かへ行ってしまった。なので臨時として俺たちが部隊長となっている
イリナさんはもう少し準備をしてからくる模様だ。
俺は一人で西の方へ向かい索敵を開始した。
すると、弓矢を持った伏兵部隊を見つけた。幸い気づかれてはおらず、先制攻撃の為に、ライフルで狙い、トリガーを引く。だが銃弾が発射されなかった。トリガーを引くそのカシャという音だけが響く。
その音に気づかれ、奇襲を仕掛けるつもりが仕掛けられる形となった。
「撃てぇ!撃てぇ!」
流石に状況が悪すぎる、なんとかこの場を離れようとした時、どこからともなく棒が飛んできた。棒は敵に一直線に向かい、その後ブーメランの様に回転を続け薙ぎ倒していった。その動きは棒というよりは棍といった方がいい。
俺はこれを逃げるチャンスではなく、倒すチャンスと考え、敵に突っ込んだ。
武器を刀に持ち替え、突撃する。上手、逆手と刀を持ち替えながら伏兵を倒して行った。
俺の手助けをしてくれたのは棍だけではなかった。
背後からの敵の攻撃にどこからともなく短剣が飛んできてフォローをしてくれたり、氷の魔術で敵を凍らし、バラバラに砕くなどの攻撃が行われた
側から見れば俺一人でやっているようにも見えるだろう。事実この不思議な現象はある程度は俺の意志で制御できている。何故こんなことが起こるのか・・・
前の世界での人達の力だろう。魔術は知らないが、棍と短剣は姉さんから俺の力の一部になっていると聞いたことがある。
そのうちその辺りにいた伏兵は全員倒した。
一方誠治は・・・
「しかし、良かったのですか?我ら二百人程度で策は成功するんですか?」
「大丈夫だよ〜、大人数の策は発見されやすいからね、できるだけ少ない方が策はしやすいんだよ〜」
「は、はぁ、具体的に私たちは何をすれば?」
「策のポイントについたら、矢を敵陣に放ってくれればいいよ、後は僕がやるから」
「分かりました」
「イリナさん、来ましたか、」
「ええ、遅れてすいませんねぇ」
イリナは輝く聖剣を手に持っていた。剣の名はレヴィテイン。まるで宝石のような美しさに俺も少し見とれてしまった。
一方、防衛に回っている正喝は・・・
「邪魔だ!」
「うわああー」
槍を振り回し防衛に回っていた。
「ここを通すわけにはいかない!」
敵は正喝の気迫に士気を下がらせていた。
「どうした?ここを突破したくはないのか!」
その時、敵の後方から気迫が漂う。
「どけ!貴様ら雑兵がかなう相手ではない」
敵の幹部らしき者が来た。槍を持っているが槍、と言うのには長すぎて太い。槍自体が螺旋を巻き殺傷力を高めている。
「私は于禁。さあ通させてもらうぞ」
・・・二人とも武器を構える。
「(コイツ、まるで隙がない)」
正喝は悟った。コイツは強い。先に仕掛けたほうがやられる。そして我慢比べの戦いである。正喝は終始すぐ動ける様準備した。
本陣にて・・・
「正喝さんは交戦中、勝利、袁士殿、イリナは最前線に向かう途中、月村さんは最前線で遊撃ですか。・・・キラさんは?」
「未だ行方不明です」
天本から溜息がでる。少なくとも敵前逃亡はしてないと思うが、把握はしておきたかった。
正喝さんに援軍をまわしたいですが、私はまだ動けない。なら・・・
「フェンリル、援軍として行きなさい」
「ようやく出番か、ちょうど腹が減ってたんだ、暴れるぜえ」
フェンリルが突撃する。
この戦、まだまだ分かりませんね
最前線にて・・・
「はあああ!」
月村が太刀を振り回し敵を一掃する。それに乗じ兵達の士気も高い。軍として必要なのは数と士気。いくら猛者でも何十人もの相手をいっぺんには相手にできない。
「この戦い、何かおかしい」
敵があっけなくやられているのだ。伏兵の可能性も考えつつ、月村は敵を倒す。
「月村!来たぞ!」
「勝利、キラさんは見つかったか?」
「それはない。あの人は戦いが始まると他のこと忘れちまうからな」
やはり自分の師匠だと確信をもった。本人は頑なに否定するだろうが。
「月村、大丈夫か?最前線で疲れているだろうから一度下がったほうが」
「ん、問題ないですよ、それにこの戦い休んでなどいられませんから」
「それにしても、敵の本陣以外の敵は倒した様だな。よし、この袁士が指揮を取ろう。私と勝利は正面から月村は西、イリナは東から攻めて包囲するのだ」
伏兵なら既に倒したし、実際戦ってみると数だけの浅い戦略・・・これなら勝てる。
各自包囲戦に取り掛かる。だが・・・
「勝利、いったん本陣に下がれ」
月村が不安そうな表情を浮かべる。
「なっ月村!?何を考えて言っているんだ?」
「この戦いは何かおかしくないですか?包囲戦にまで来ているのに幹部級の敵が出てこない。これはつまり・・・
「まさかまだ伏兵?だったらどこに?」
「決まってますよ、本陣です」
「!袁士殿、月村、イリナさん、一旦俺は戻る!」
『マルチプルブレイブ タイプアサルト』
ブレイブをして本陣へと一人で戻った。
一方正喝は・・・
「いつの間に!?」
正喝は于禁の気迫が正面だと感じていた。しかし、それは幻であり本体は正喝の後ろをとった。
「迂闊すぎるぜ!」
だが、フェンリルが間に入り于禁の腕を斬り裂いた。
「ぬぉぉ!」
于禁は腕を痛めながらも後退した。
「者ども、あの狼もどきを狙え!私は奴を狙う!」
正喝は于禁に焦りがあると見た。だからもう睨み合いはやめた。こちらから行く。正喝は突撃した。今は雑兵にはフェンリルが対抗してくれている。
「確かにいい攻撃だ。だが、私を倒すには及ばんよ」
「っ!?」
全力の薙が片手で止められた。
「ガラ空きだぞ」
左手で持った螺旋槍で攻撃され多少の傷は受けたが致命傷は避けた。そして・・・
「避けろよ!正喝!」
上から声が聞こえた。勝利の声だ。その声を聞いて正喝は後退した。
『ブレイクインパルス!』
後ろからの奇襲のため于禁はよけられず、モロに食らった。上空から急降下しつつ斬り、叩きつけられた相手をイブテロスを放った。
「ぐああああ!!!」
于禁は声をあげ絶命した。それを見ていた于禁の配下はパニックになり、全速力で逃げていった。
「利、助かったぞ」
「礼はいい。すぐに本陣へ戻るぞ」
「?補給か?」
「それなら、どれほど楽かね」
勝利は嫌な何かを感じていた。もし、ここまで攻めさせること自体が敵の作戦なら既に本陣に危機が迫っていると思ったからである。
本陣にて
「ここまでの隠密行動、流石と言っておきましょう。しかし、私を倒すことができればの話ですがね」
「御託はいい。貴様を殺す」
本陣は既に奇襲を受けていた。今本陣の守りは天本優佳里と数名の兵士である。
奇襲はわずか一人である。しかしその気迫は軍勢数千にも劣らなかった。命を刈り取る形をしているだろう?などとは言わずただ一歩ずつ向かっていく。
その大鎌に誰しも見覚えがあった。しかしいてはいけない存在。
「統治・・・なんでお前が・・・いや、違うな、お前は本物じゃない。お前は死んだんだ」
「何故そう言い切れ・・・
「お前ならそれくらい避けれるだろ?」
統治が言い終える前に、俺は一歩も動かずに短剣だけを統治(?)に飛ばす。正確には飛ばさせたと言う方が正しいのだろうか 。
首を正確に跳ねた短剣は青い血を返り血として浴び、そのまま消失した。
「ニセモノか?いや、そもそも人ですらない。これは一体・・・」
色々と推測を立てようとした時、首なしの体だけが襲いかかってきた。
「まだ動けるのか!?」
俺はとっさの判断で鎌をかわし両腕を切り裂いた。鎌は腕と共に地面に落ちた。
それでもまだ動く。体全体が青い血に染まり、もはやゾンビなどと言う言葉では言い表せない不気味な存在へと変わって行く。
一度距離を取り姉さんの方へ向かった。
「姉さん、何か奴を倒す方法は・・・
「あの血・・・まさかパーティクルの一部?」
「え?」
聞きなれない言葉を聞き、素で聞き返した。
「いえ、それはないでしょう。勝利、私が動きを封じます。その間に火系統の魔術で焼きなさい」
「・・了解」
今は聞いている暇はない。目の前の問題を解決する方が先である。
『光よ、その輝きで汝を止めよ!グレンツェン・シャッテン』
奴の影が次第に消えていく。まるで影自体が光源となっていくようだ。
本来あるはずのない光に本能から怯えているのか膝をついた。
『煙火の火、バーンスパーク』
ここが自分たちの本陣であるためあまり大技は出せない。なので火の粉を放ち少しづつ燃やすことにした。
「生温いです。徹底的にやりなさい」
「・・・『イグニション』」
焼け石に水・・・ではなくこの場合は火か、火力を一気に上げた。跡形もなく焼けたのち消化した。残ったのは地面に染み込んだ青い血だけだった。
正体を確かめようと青い血の部分に触れようとした時
「触るな!」
姉さんからの強い警告にビビり、体の態勢を崩し少しだけ触れてしまった。
「なんてことを・・・それは・・それは」
「?別になんともないけど」
「・・・本当ですか?」
「冗談でこんなこと言わないですよ」
「念のため下がりなさい。それは私の記憶ではその血は猛毒のものです」
「毒か、さっさと解毒できないのか?」
「私では無理です。専用の設備なら可能ですが・・・」
「さっさと行きますよ」
俺は翼を広げ、飛ぶ準備をした。毒が回っている気はないが、急ぐことにした。
その頃八神たちは・・・
敵本陣はまるでコロッセオのような形になっており観客席の部分は無造作に雑草が生えており高さが腰くらいまで伸びていた。
そこに隠れるように態勢を比較して弓を構えた。
「全員、配置についたね。僕たちはここの敵を一掃し、敵に本陣を開けさせるのが目的だよ」
兵士達は無言で頷き、矢を構える。しかし矢の先には鏃ではなく黒い箱が付けられていた。大きさ自体は鏃とほぼ変わらないが本当にこんな物が役に立つのかと思う兵もいた。
「じゃ、始めちゃって」
矢を放つと同時に
「敵襲だぁ!と叫ぶ声がいくつも聞こえた。
「うるさいなぁ、少し早いけど黙らそうかな」
『ブレイブ』
大型キャノン砲、イブテロスを構え、矢には当たらないようにビームを照射した。
矢が地面についた瞬間、矢自体が形を変え、ひとつひとつがイブテロスになった。
「よかった、成功だね・・・照射!」
多量のイブテロスが複数の方向に展開されている。これほどの物量作戦を警戒してなかったのか、情けない声で倒されていった。
「や・やられちまう!」
「これじゃ持たない・・う、うわぁぁぁ!」
「どういう仕掛けなんだあのマシーンは!?」
「ま、待て!?話せば分か・・・うわぁぁぁ!」
何故かどいつこいつも同じような声だった。
「さて、これで敵本陣の兵は倒したかな」
大将の顔を確認しよようとしたが、これでは巻き込んでそのまま倒してしまったかと思い、少し悩んだが、その悩みはすぐに打ち砕かれた。
大将らしき人・・・いや黒い翼を持った堕天使と言ったところか。武器らしいものは特に持ってはいないが、ものすごい気迫を感じた。
「あまり調子にのるなよ人間」
「きみがラスボスかな?倒させてもらうよ?」
八神は観客席から闘技場の部分に降り、まっすぐと堕天使の方を見た。体は黒い布の様なものを纏いコートの様な形になっている。顔つきは人間で言えば三十代と言ったところか、八神が想像していたのは老骨だったので、目の前にいるのは前線指揮官クラスだと考えた。
「私はラスボスではない。私は神だ」
自称神が指をパッチんと鳴らすと観客席にいた兵達が突然八神に対して矢を放ってきた。
「皆!?何を」
「神の意向の前ではあの程度の雑兵、軽く操れる」
矢を躱すのに精一杯で八神はなにも反撃できずにいた。その時あの男が草むらから現れた。
「ヒャッハァァ!」
キラだ。操られた兵には遠慮なしに切り掛かり、全滅した後、闘技場に降りた。
「お前がここの親玉か!?」
「私は神だと言ったはずだか?」
「どうだっていいさ。お前を倒せば全て終わる!・・・おまえ、どこかで見たようなツラだな・・・いや、気のせいか」
剣を構え、突撃する。戦うことしかできない者達の戦いは苛烈を極める。
その頃・・・本陣付近では・・・
「これで逃げ出した于禁の兵は仕留めた」
援軍にきたフェンリルも逃亡兵の討伐に参加し、時間は思ったよりかからなかった。
「・・槍使い、主人から伝言だ、貴様も攻めに参加しろとのことだ。この戦い、ほぼ勝ったようなものだ」
圧倒的な数の差はあったが軍略は浅く、敵の敗因は勝利達がいたことだろう。
「敵の攻勢が散漫になったようだな。この戦、もらったぞ!」
袁士が自信満々に声を上げた。
遊撃部隊は敵本陣へ駆けた。
実際、月村とイリナも策がうまくいったと確信している。
「こちらの勝利も時間の問題・・・?何か引っかかりますね」
月村は嫌な予感をした。敵陣の急襲も成功して殲滅も完了。仮に生き残りがいても虫の息だろう。しかし何故か安心できない。前の世界の名残なのか、記憶がほぼない月村には感じることしかできなかった。
「どうしたの、つっくん?難しそうな顔して」
「何か嫌な予感がしますね。・・・ところでつっくんとは誰のことですか?」
イリナは無言で月村の方を指差す。
「私?できればつっくんはやめて下さい。私のことは月村と呼び捨てで構いませんから」
「つっくんはつっくんだよ。堅苦しっこなしだよ?」
「・・・もう好きに呼んで下さい」
イリナの勝利への扱いを見ていた月村は、それ以上なにを言っても無駄だと思い諦めた。
「でも嫌な予感は私もしてるよ?でもいい予感もあるんだよね」
「いい予感?何ですか?」
「頼もしい味方がやっと参戦したこと。悪い方は・・・
言い終える前に敵本陣から赤黒いビームが発射された。
方向自体はこの遊撃部隊を掠めるものだったので、部隊を狙ってきたものではない。しかし、運悪く袁士がいたところを掠め、断末魔も上げられずに消し飛んだ。
兵達は圧倒的威力の前に逃げることしかできなかった。月村達には当たらなかったものの、形だけでも総大将がやられた時点で引き分けに持ち込まれたわけだ。
「悪い予感は敵の大将さんが強すぎるかもってこと・・・かな」
「今のは危なかったぜ?俺じゃなきゃ躱しきれなかったかもな」
「けど、これで4vs1だよ」
「俺を忘れるな?」
遅れて正喝も来た。
「ごめん5vs1だったね?自称神さん。流石に部が悪いんじゃないの?」
「5vs1?あと一人はどこへ行ったのだ?」
あと一人とは勝利のことだろう。
「あのバカ弟子が来るまでもねぇよ。俺らだけで十分さ!」
5vs1という状況でも堕天使の顔には余裕が見えた。まるで勝利以外は眼中にないといったようだ。
その頃・・・肝心の勝利は・・・
「信じられない、あの血に触れて何ともないなんて・・・」
医者が頭を抱えながら頭痛を痛くしている。
「事実そうなんだからいい加減認めて下さいよ」
全身を大型の魔法陣で覆われ、色々と調べられたが、毒など全く効いていないことが確認された。魔法陣は四人がかりで貼っていて一人が詳しく調べている。
正直モルモットの気分だ。
「過去に青い血を受けた覚えはありますか?」
「いや、ないな」
本当になかったのか。疑問にすら思わなかった。むしろあれを毒と受け入れるどころか、気分が良くなっている。
「とにかく、何の問題もないと分かったんだから行かせてもらいますよ」
俺が部屋から出ようとすると誰かが来る足音が聞こえた。まあ、この状況で来る人は一人しか考えつかなかった。足音でも判断できる。
「勝利君!大丈夫!?」
そう、桃花である。おおかた俺が毒でやられた何て情報をどこからか耳にしたのだろう。
だから俺は少しでも安心させようと少し大げさに振る舞った。
「ああ、俺は何ともない!むしろ気分がいい。誠治や正喝からもう勝利は目の前だって感じ取れるからな」
そう、離れていてもブレイブゼロを通じて戦場の戦況は大体把握している。
だが肝心な事を俺は分かっていなかった。
その異変はここにいる誰でも気がついた。
戦場の部分だけ激しい雷撃に見舞われた。その後すぐに晴れた・・・と思ったら津波のような音が聞こえてきた。
実際には濁流となり戦場からこちら側に向かっている。
俺は桃花をお姫様抱っこの形で抱え、すぐに上空に避難した。
医者達はパニックになって逃げ遅れてしまった。
「一体何が・・・」
先ほどまで圧倒的優勢だったはずなのに一気に逆転されてしまった。幸い姉さんや正喝達はやられていないようだか、この戦は今の所双方痛み分けになってしまった。
状況を色々と確認したいが頭が回らない。そんな時白い球体がいくつか飛んで来るのを見つけた。姉さんの魔術でこちらに皆来ているのが分かった。
「姉さん!無事でしたか」
「無事とは言えませんね。兵達は全滅。前線で戦っていた彼らもかなり消耗しています。
事実五人は打撃跡がいくつかあり、とても戦闘できる状態ではなかった。特にキラさんはひどく意識はなかった。
「利、奴はお前でも勝てない・・・逃げろ」
「逃げるって、何処にだよ。ここまでやられて引き下がるわけには行かない」
逃げ道なんてない。逃げてもきっと追いかけて来る。なら倒すしかないじゃないか。
「本当に強いですよ?あの堕天使さん」
イリナさんもいつもの余裕はなく真剣な目をしていた。
「それでもやり遂げなければなりません。私達はもう下がれないのですから」
「水のないところでこれほどの濁流を起こせるなんて、正直信じられないよね〜、ま、死ぬつもりもないけど」
そう言い終えると、何と水の中から炎の竜巻がこちらに放たれた。
「退避ぃ!」
姉さんの号令で難なく躱し、放った本人の姿が現れた。
「そこにいたか、殺戮よ」
「お前は・・・」
死んだはずの奴にまた会ってしまった。
「知っているのか?利?」
羽がある等の違いはあるがあの顔に覚えはあった。
「ラグナロクのボス、俺を殺戮マシーンに育てた張本人、黒崎だ」
「おや?反抗期か、昔は父さん、父さんと可愛かったものなのになぁ?」
「あんたを親だなんて思いたくはないね。あんたの罪、この俺が断罪する!姉さん、桃花を頼みます」
俺は桃花を姉さんに預け、月村から受け継いだ太刀を振るう。しかし片手で簡単に止めらてしまった。
「どうした?おまえの力はその程度ではないはずだろう?」
「当然だ!」
一度距離を取り、太刀を投げた。躱されるがそれも計算の内。本命は後ろから短剣の暗殺、更に左右から棍を二本突撃させ、上からは氷柱降らせ、俺はやや下から槍を持ち、突っ込んだ。
「つまらん」
黒崎はバリアを貼り、全てをはじき返した。
「これもダメか!?」
「さて、そろそろ本気を出そう。お前も本気を出すといい」
黒崎が懐からスイッチを取り出し押した。
すると俺の左腕、つまり青い血が触れた方の腕が黒ずんでいく。
「うっ、腕が!?」
意識が遠のいていく。体の中の血液が逆流するような感覚が最初にきて、心臓が破裂するかもしれない痛みに襲われ、意識は消えていく。
「何が起こってるの?」
桃花が怯えつつもまっすぐに勝利のほうを見る。
「冥土の土産に教えてやろう。勝利の本性は生粋の殺人者だ。しかし私のいない間に自分でリミッターをかけたようだな。それを解除しただけにすぎんよ」
事実彼の目は焦点も合わず、もはや精工に作られた人形と言ったほうがいいだろう。
「・・・父さん、次は何をすればいい?誰を殺せばいい?」
「目の前の奴らを潰せ」
「了解」
何のためらいもなかった。その剣を槍を、銃を引くことに何の抵抗もなかった。
まず狙いを定めたのはアウトレンジをしてくる誠治だ。ブレイブゼロという強力な力、敵にまわれば恐ろしいことは明白だった。圧倒的なスピードで翻弄し、誠治をしたに蹴り飛ばし、一発銃弾を撃ち込んだ。
「八神さん!」
由佳里は八神を追いかけて、濁流に巻き込まれそうになった誠治を魔術で何とか浮かせた。
そのせいで桃花を守る人はいなくなった。
「次」
その次は守りが堅そうな正喝だ。こちらは盾をも貫くパワーで槍で盾ごと正喝を貫いた。
「利、くっ・・・」
その後盾を蹴り、反動で強引に槍を引きぬいた。ここまでわずか5秒だった。正喝はゆっくりと落ちていき、由佳里に助けられた。
「勝利、倒せる者から倒していけ」
勝利は無言で頷き、標的を定める。浮いてるだけのキラを狙いに定め太刀を構え、突貫する。
「させません!」
「させないよ!」
月村とイリナが二人がかりで止めに入るが、
「邪魔」
軽くあしらわれ、飛ばされる。そしてキラへと袈裟斬りする。しかしギリギリのタイミングでキラが手で
止めた。
意識はほとんど戻っていないはずなのにどこから自分を止められるほどの力があるのか驚いたが、すぐには倒せそうにないと判断してまともに戦闘態勢を整えていない桃花に狙いを変えた。武器を刀に変えすぐに次の標的も狙うつもりだ。
「勝利!やめなさい!」
「やめろ!勝利!」
「勝利さん!」
「勝利君!やめて!」
皆の静止も届かず刀は抜かれた。しかし刃は桃花には届かなった。
「あれ?手が・・・動かない?」
止めたのは誰でもない、勝利自身だ。それはまだ勝利のなかにも良心が残っているなによりの証拠だった。
「一度戻れ、勝利」
「はい」
「・・・まだ調整が甘いのか?」
黒崎が小声で言う。その後下から大きな声が聞こえてきた。
「教えてあげましょうか?貴方が桃花ちゃんを斬れなかった理由を」
勝利は狙いを由佳里に変えようとするが、
「興味深いな、聞かせてもらおうか」
黒崎が話を聞くようなので一時中断した。
「それは・・・
「愛だよ!」
「愛!?」
「・・・愛?I・・・自分?」
操られていてもボケはしっかりしている。
「ちょ、イリナ!私のセリフを!」
「だって恋愛事は私の方が上ですもん。私が言うのは当然です」
「愛とはなんだ?」
「えっ?」
全員が意外そうな顔をする。反応が意外とかそうゆうレベルではなく、誰しもが持っているものをしらないという事実が困惑させる。
「あれ~?もしかして愛をご存知ないのですか?」
イリナが煽り風に言う。
「ああ!?うるさいぞ!いいから教えろ!さっさと教えろ!」
「愛、それはトキメキ、キュンキュンする心!」
イリナがノリノリで語りだした。
「私が勝利や桃花ちゃんを思う気持ち、それもまた愛なんでしょうね」
「友情、絆・・・」
「人だけじゃない。物にだって愛はある」
正喝や誠治も少しだけ回復し喋れる程度にはなった。
「私たちがいがみ合って、憎しみあうのも歪んでいたとしても愛にはかわりありません」
「私は・・・勝利君が好き、ううん。大好き」
「よく・・・言ったな、嬢ちゃん。勝利!お前が愛を!嬢ちゃんを愛しているならさっさと戻ってこい!」
キラも十分に意識は回復したようだ。
「愛?俺が愛?うっうう・・・」
「わからない・・・お前たちの愛が分からない」
黒崎も勝利も頭を抱えている。
意識が微かに戻ってくる。俺は誰と戦っている?そうだ俺は・・・俺が倒すべき相手は・・・
「ここだぁ!」
刀を黒崎に向けて斬りかかった。不意を突かれた黒崎は対応が間に合わず左腕を失う結果になった。
「ぐぅ・・・殺戮ぅ」
その後反撃されそうになったので一度身をひいた。しかし今の攻撃でかなりのダメージをあたえたはずだ。
「勝利君!元に戻ったんだね」
「ああ、心配かけてごめんな」
「うん、うん!」
抱きしめられるこの感覚、抱きしめ返す優しさ、温もり、柔らかさ、どうして忘れかけていたのだろうか?忘れちゃいけないのに、忘れたくないのに。
「おやおや~、随分と見せつけてくれますねぇ」
「全くです、少しは緊張感というものを持ってください」
イリナさんと姉さんが冷やかしに来た。
「まあ利ならしかたない」
「そうだね~」
「勝利・・・」
なぜ月村だけ何もいってくれないんだ・・・。あきれてものも言えないのか。
「じゃあそろそろ終わりにしようか、勝利、いやバカ弟子よ!」
「ええ、・・・黒崎!こっからが本当の勝負だ!」
元ネタをごぞんじないのですか!?




