答えは全て出ずとも
「単刀直入に言いましょう。この世界は一度滅んでいます」
「・・・え?」
本当に一言だった。その一言で全ての疑問も解決の糸口を迎えた。
「滅ぶ前の世界をそうですね、『前世界』と言いましょう。その前世界では私と影野、それと本田さんと八神さん、それに貴方は知りませんが多くの仲間達がいました。
私達は前世界で敵に敗れ、多くの仲間を失い、その時はどうしようもなかった。生き残ったのは私達だけでした。私は王家に伝わる禁忌の術を使い、世界をもう一度作り直しました。」
そう姉さんはこの戦争の結末を知っている。自分たちが負けることもだ。
「しかしその術の代償として私は私ではいられなかった。前世界の私と今の私は記憶はあっても立場は変わってしまった。」
「前世界の優佳里姉さんはお姫様だった、ということでいいのか」
「そうです。私の代わりに生まれた存在、それが桃花ちゃんです。そして貴方は前世界の仲間達の言わば依代、簡単に言えば魂が集まってできた存在です。」
「ちょっと待ってくれよ?俺にそんな記憶なんてないし力だって・・・
「ありますよ。貴方の力は抑えられているだけですから」
「抑えられてる?誰に?」
「私ですよ。もっとも解除することは出来ませんがね」
次々と真実を伝えられて正直混乱している。俺が前世界の敗れた者達の集まりで姉さんが原因でその力を100パーセント引き出せないってことは分かる。
「解除する方法は無いんですか?」
「・・・ありません。この世界にはね」
「この世界には?」
「今はどうしようもないことですから、もしあると言ったら今の貴方では間違えなく死に行くようなものですから」
「・・・分かりました」
方法がない以上追求しても無駄だと分かったからだ。
「話を戻しましょう、勝利、この世界を守ってくれますか?」
「当たり前ですよ。俺は失いたくない、無くしたくないものが、人がいるんですから」
俺はそう言いつつ桃花の方を見る。
「ふふ、今の光景、前世界の私と影野みたいでしたよ」
「あ、やっぱり付き合ってたんですか?」
「今は違いますね。今は・・・執事とメイド?と言った所ですね」
メイド役がどっちなのかは正直分からなくなっているが。
話が終わり、俺は正喝達と話をした。
「ごめんね、僕はちゃんと記憶はあったけど話す機会が無くてさ」
「いいさ、こんな状況にでもならなければここが一度滅ぶなんて言えないだろ」
「俺の方は記憶はないが懐かしい感覚はあった。ちょうど月村と会うあたりからだ」
つまりは誠治はちゃんと記憶があって正喝は少しだけあったということだ。しかし今の俺には力はあるが記憶はない。この戦いがどう転ぶかなんて一切知らないんだ。
「なあ誠治?前の世界の戦いはどんな風に始まって、どうやって終わったんだ?」
「ゴメン、あれについてはよく覚えてないんだ。けど君の力になっている人たちのことなら教えられるよ」
そこから誠治の説明が始まった。
日本刀を持ったクールな兄がいたことを弱気な弟がいたことを
正反対な能力を持ったな双子がいたことを
双刃剣を使う先輩がいたことを
徒手空拳の使い手がいたことを
短剣使いの不思議ちゃんがいたこと
文字通りの魔法使いがいたこと
占い好きの子がいたことを
負けず嫌いな棍使いがいたこと
「ざっとこんなもんかな〜。勝利の一部になってるかは分からないけどね」
俺には実感こそないがその人達ができなかった無念を晴らしたい。そして大切な人を守りたい。その心に偽りも疑いもない。
その夜・・・
俺は桃花のそばに行った。これから激しい戦いになる。そうなればしばらく会うことも難しくなると思ったからだ。
「桃花、その・・・
何を言うべきか思いつかなかった。真実が分かっても理解出来るわけじゃない。それに俺と桃花は前世界にはいなかった存在だ。これから何があるか分からないし、知る術もない。
「その、色々とあって疲れただろ?今日はゆっくり・・・
その言葉は途中で遮られた。桃花が抱きついてきたからだ。
「桃花?」
微かに震えるその細い腕は不安の表れだった。無理もない。父親を殺されてこれから戦争が始まるんだから。
「本当はね、行って欲しくないんだ。ううん、逃げたい。皆んなで逃げて笑って、遊んで、そんな毎日を過ごしたい」
彼女の本音が出てくる。いやそれは誰もが思っているのかもしれない。
そういう選択肢もどこかにあったはずだ。しかしもう後戻りは出来ない。ここで逃げてもその後はどうする。いったいどうなる?
「けど彼奴らを止めなきゃここの人達はどうなる?それは姫さ・・・
「そんなの分かんないよ!私にとってこの国の人達よりも勝利君達の方がずっと、ずっと大切なんだよ!」
次第に涙が出てくる。呼吸も荒くなり、いつもの明るさは感じられない。それに応じて抱きついてくる力も増してくる。
俺は彼女を少しでも安心させようとゆっくりと抱きしめてやった。
彼女が落ち着くまでどれくらい経っただろう。実はもう夜が明けているのかもしれない。
それかまだ30分程か、どちらにせよおれたちにとっては長い時間だった。
「落ち着いたか?」
「うん・・・よね」
「え?」
「死なないよね?勝利君は」
「ああ、大丈夫。俺はちゃんと生きて帰ってくるよ」
「絶対の絶対だからね」
「絶対の絶対だな」
「じゃあもう少しだけこうさせて」
十分ほど経った後桃花の様子を確認する。なんと抱きついたまま寝ていた。相当疲れが溜まっていたのだろう。俺はベットに彼女を寝させ部屋を後にした。
「お休み、桃花」
まだ夜は長い。月明かりはいつもよりも明るく見えた。月以外に光源が無いのにここは前までいた地上よりも明るい。いや、そもそも月が光っているわけでは無いはずだ。そんな事を考えつつ、俺は自分の部屋に戻ろうとした。
「来たな、待ってたぜ」
しかしキラさんに呼び止められ、俺は足を止める。
「キラさん?」
彼の顔はいつもよりも真剣味があり、まるでこれから死地に行くかのような雰囲気だった。
「少し話がある。ま、ここでいいか」
一呼吸起き、ゆっくりと話し始めた。
「まず、天本優佳里、お前の姉さんだったな。あいつはひとつだけ話していないことがあるぜ」
「話していないこと?それって・・・
「そっから先は彼女に話してもらった方が分かりやすいだろ」
忘れもしない。かつて俺を殺せたかもしれない存在を。夜の月明かりに黒く映る影、そして反射する赤き装飾の数々、姉さんと同じ美しい髪。
「シエル・・・さん」
「ちゃんと覚えてましたか」
「あんなこと忘れられませんよ。この世界に来てからズケズケとトラウマを言われたんですから」
もっとも今はそんな過去を捨てて、新しいスタートを始めようとしている。
「それなら私が貴方に会った時何を言ったか、覚えていますよね」
「確か、この世界が滅びる運命だとか言ってましたね。けど俺はそんな運命なんて認めませんし、諦める気もないですよ」
「・・・死にますよ?」
「死にません。約束しましたから、必ず生きて桃花の元に帰ってくるって」
「いえ、貴方ではありません。むしろ貴方以外です」
「俺・・・以外だと?」
自分がいることで自分以外が死ぬとはとても考えなどつかなかった。
「もっと分かりやすく言えば貴方を庇って誰かが死ぬということです」
それはつまり、庇われる様な状況を作るな、という警告だ。
「俺が庇われるのも、また運命だっていうんですか?」
「それは貴方次第です。しかし運命はそう告げている。そうであろうと突きつける。過去貴方達がした様にね」
貴方達?・・・俺は少しの間考え、一つの答えに結びつけた。
「もしかして俺の力になっている前世界の人達が庇われたったことか」
「正解です。しかし庇った当人は生きてますがね」
「なら今回も庇っても死なないんじゃあ」
「・・・だれが庇うと思います?」
一人しかいなかった。そう思えたのにさほど時間はかからなかった。
「答えは言わなくて結構ですよ。それは貴方が一番よく分かっていると思いますから」
つまりは彼女に庇わせる様な真似をさせなければいい。それだけだ。
「さて、そろそろ本題に入ります。天本優佳里の正体を言います」
「姉さんの正体?それは桃花のお目付役じゃあ?」
「あれは暇つぶしの一環だと思いますよ。だって彼女は・・・ゴフぅ
突然シエルさんが吐血する。
「大丈夫ですか!?」
「ハァ、彼女は・・・」
そこでシエルさんの意識は途絶え消えていく。月が作る影と共に。
「勝利?まだ休みになっていなかったのですか」
背後から姉さんの声がする。姉さんが来たからシエルさんは消えてしまったのだろうか?その答えは分からないままだ。いっそ聞いてみるべきだろうか。
「ああ、ちょっとキラさんと話してて」
「ああ、明日の戦いについての作戦をちょこっとな」
俺は動揺を見せないようキラさんと話を合わせる。
「そうでしたか。しかし根を詰めすぎるのもダメですよ?今は休養を取り明日に備えましょう」
「ええ、・・・あの姉さんは・・・
「終わったら・・・全て話してあげますよ」
その言葉を最後に姉さんはその場を後にした。
「完全に聞かれてたな、ありゃ」
「でも話してくれるって言ってた。確かに姉さんの言う通りですよね。今は目の前の問題を解決しなきゃ」




