騎士団って大変なんだな
やれやれ、仕事が始まってなかなか書けなかった。
あの次の日、俺は騎士団の入団式に出席していた。騎士団は四つの部隊に分かれていて、
第一の遊撃部隊。
第二の防衛部隊。
第三の特殊部隊。
第四の特務部隊があり、最初は遊撃部隊に入りその後配属先が決定される。
部隊は数が増えるほど階級が上がり、特務部隊はいわゆるエリートの集まりらしい。
「で、なんでテストなんかあるんだか」
「試されてるんだ。このテストで配属先が決定されると言っても過言ではないぞ?利」
入団自体は自由だが、配属先はテストで選ばれるらしい。その方法は教官との模擬戦。
「それではぁ試合開始ぃ!」
妙にテンションが高い審判がいたが気にしてもられなかった。これもテストの一環なのだろう。俺は特に何も考えず五秒で勝利した。
「なっ!?」
教官も何が起きたか分からなかっただろう。だって俺にとっては半分寝ぼけてても勝てるような相手だったから。
「しょ・・・勝負ありぃ!」
審判も俺の早さに驚いていた。ふぅと溜息をつくと拍手の音がどんどん近づいてくるのが聞こえた。
「流石ですね。勝利さん」
「え?審判の人?」
「あれ?分かりませんか?」
審判は深く被っていた帽子を脱ぎ顔を見せた。
「あれ?イリナさん。貴方がやっていたんですか」
「はいっ。文句無しの特務入りですぅ。ついてきてください」
「あ、はい」
イリナは審判仕事をサボり俺を道案内した。代わりに審判が入ったのを見たが、いつものことの様な顔をしていた。
「特務部隊は王室の警備などを任されているとても重要な部隊ですぅ。勝利さんは特に攻撃に秀でていましたので特務部隊遊撃部に所属してもらいますぅ。」
「それって第一とどう違うんだ?」
「偉さが違いますよ、人の戦国時代と呼ばれるものを参考にすれば、第一は足軽さん。第四の遊撃部はみんな将軍です」
「しょ・・将軍?良いのかよ、そんな大層な立場に俺がついて」
「いーんだよ。こっちに来たということはそれなりの力を持ってるんだろ?」
その時だった。後ろから妙に聞き覚えのある声が聞こえた。しかし彼がここにいるはずはない。そう断言したかった。俺は後ろを振り返った。
「久しぶり、と言っておけばいいんですかね」
「あ?何言ってんだ?俺様とお前は初対面だろ?」
「!?」
彼こと俺の師匠斬撃綺羅に間違いないはずだ。その声と見た目を見間違えるはずがない。
「あれ?勝利さんお知り合いですか?」
「・・・いや知り合いに似てただけでした」
「なんだ?そんなに似てるのか?俺様とその知り合いは?」
「ええ、声も似ていて一瞬本人かと思いましたよ」
「ほぅ」
ここで問い詰めると余計事態がややこしくなりそうなので止めておいた。
「自己紹介がまだだったな、特務部隊遊撃部隊長、キラだ」
「今日から遊撃部に配属される、天本勝利です。よろしくお願いします」
彼は師匠ではない。俺はそう思いたかった。彼が天使であればの話だが。キラさんは俺たちと同じ人間だ。だから可能性を捨てきれないでいた。
その後、俺はイリナさんに自分の部屋へと案内された。部屋は12畳ほどの広さで暖房、冷房完備、ソファあり、机ありと尽くしてある。だが、尽くしすぎている。なぜ一人部屋なのにベットが2つあるんだ?
「あの、イリナさん?どうしてベットが二つ有るんですか?」
俺が聞くとイリナさんは頬を赤く染めた。
「ヤダな~察してくださいよ~」
何を察せと言うのだ?
「その片方は私のですよ?」
「・・・はい?」
「だから勝利さんは私と相部屋ですよ」
「はああああああああああ!!!!????」
有り得ない。この女は何かを隠している。そう俺の勘が告げている。
「何が目的だ?」
「聞きたいですか?そんなこと言わせるなんてツミなヒト」
ラチがあかない。そう思いかけたとき助け船がきた。ノックがきた。
「イリナさん。またやってるんですか」
「あれ、優佳里さん。なんの用ですか」
「貴女がしっかりやっているかの観察です。勝利、イリナさんは言動は少々アレですが中身はしっかりしていますから、勝利さんの世話を頼みました」
ようやく理解した。つまりはイリナさんは俺の教育係ということである。まあ、中身はともかく見た目は綺麗な人なんだけど。
「まあ、仲良くやってください。それと今日の夜、宮殿にいらしてください。」
「あ、はい」
二つ返事を返し、姉さんは部屋を出て行った。
「ふふふ、これで二人っきりですね〜」
イリナさんが獲物を狙ったような目つきで俺を襲う準備をしている。
「イリナさん。悪いけどあなたの相手をするほど俺は暇じゃないんです」
「ええ!?私はノンケな美少年が嫌がりながらも私に屈服していくのを望んでるんです!さあさあ、私に襲わせて?」
(この女、・・・)
正直俺は我慢の限界に達していた。理性ではなく、怒りだ。ここは多少痛い目に合わせないといけないと思った。俺はイリナの袖を掴みベットに押し倒した。それと同時に入り口のドアが開いた。
「利!?」
「あれ〜何をやってるのかな〜」
「た、正喝!誠治!こ・・・これはだな、えっと・・・」
「見損なったよ」
「ブレイブゼロスターに相応しくない」
「何を勘違いしている!?」
「こっから落とそう?」
「そのまま帰ってこなくていい」
「・・・・・・」
死にたい、とまではいかないが軽く引きこもっていたい気分だ。だが更に追い討ちをかけてきた。
「それとも今ここで終わる?」
「あ、あの!」
「?イリナ・・・さん?」
「襲ったのは私です!彼に罪はありません!」
「・・・なんだ〜勝利が浮気したのかと思ったよ」
「利、今度同じようなことを起こせば遠慮なく半殺しにさせてもらうぞ」
「?浮気って何ですか?」
「・・・気にしなくていいです。こっちの話ですから」
これ以上話を広げるとややこしい話になると感じたからだ。しかしイリナさんは
「そう言われたら余計気になりますよ!さあ、話してください!」
「俺は姫様を護る。ただそれだけだ」
「?ふ〜ん。よくわかりませんがまあいいです」
「しかし、利もよくそんなこっぱずかしいセリフを言えるな」
「事実だからな。俺が桃花を護りたい気持ちは」
「つまり〜勝利は昔より正直になったよね〜」
「俺が?」
誠治の意外な言葉に驚いた
「少なくともこちらに来る前の利はひねくれていたぞ」
「そうか?自分じゃあんまり実感ないけど」
「・・・・・・」
「?どうした?」
八神と本田は思った。勝利はすごい事を成し遂げているのにすごいと思ってないと。
「そういえば二人もこっちに配属?」
「当然だ」
「結構簡単だったよ〜」
「ああ試験はどうだっていいんだ。問題はこの部隊の隊長だよ」
「物凄くキツイとか〜?」
「いや、なんと言うか・・・俺の考えが間違ってなければ恐らく隊長は斬撃綺羅だよ」
「!本当か?」
二人とも驚愕な表情を隠さずにはいられなかった。行方不明だった人がまさかこんなところで働いているとは思いもしない。
「けど、今のあの人は記憶を失ってる。下手に詮索はしない方がいいだろう」
二人とも了承の合図をし自室へと向かった。
「そういえば何の話でしたっけ?イリナさんの性癖?でしたっけ」
「ええ、ですが勝利さんはノンケじゃありませんでしたね」
「(寧ろ俺がいつノンケのような事をした?)」
「知りませんでした。勝利さんはホモだったなんて」
「どこからその気があった!?」
俺は思わずツッコミをかました。
「だって年頃の男の子があんな可愛い姫様をただ護りたいなんてそれだけな訳ないでしょう?襲いたいでしょう?」
「・・・・・・」
その言葉には肯定も否定もできなかった。
「あれ?もしかして既に・・・」
「「そうだ」と言ったら?」
「ええ?恐ろしいですね。早速王様に報告しようと思います」
「けど、イリナさんの襲うとは多少意味が違いますがね」
「へ?」
「俺は体を操られていたとはいえ桃花に斬りかかってしまった。その事実は消しようもない。だから俺は二度とそんな事が起きない様にしたい。ただそれだけなんだ」
「・・・尊敬しちゃいました。実に興味深い話です。そして、そのあとは?」
「そのあと?・・・イリナさんの想像に任せます」
「え〜教えてくださいよ〜」
イリナさんはワガママだ。けどそこが彼女の魅力にもなるだろう。だがまともに付き合っていられるか、と思い、布団に横たわり、ものの10秒程度で眠りに入った。
四時間後・・・
人は腹が減ると自然に目が覚めるものだと思っている。少なくとも俺はそうだ。夕方遅くに目を覚まし何か食事を取りたいと思った。
だが・・・
「ん・・・!」
忘れていた。イリナさんはただの美少女ではないということを。なんと起きたら目の前に彼女の顔があるのだ。その間は30センチもないだろう。俺はとっさに距離を取り彼女の様子を見た。
「寝ているのか?」
彼女は狸寝入りをしているようには見えず純粋に寝ているようだ。
「こうしてれば迷惑じゃないんだけどな」
正直なところ彼女は今の俺にとっては邪魔だった。俺がせっかく寝ようとしているのになかなか寝させてくれなかったからだ。
「と、腹減ったな。冷蔵庫に何かあるか?」
飲み物の一本ぐらいはあると思ったが、入っているのは冷凍室の氷だけだ。
「参ったな、イリナさんは寝てるから起こすわけにもいかないし・・・」
そんな時部屋のインターホンがなった。相手は正喝だった。
「利、そろそろ食事の時間だそうだ。食堂へと向かうぞ」
「了解、少し待ってろ」
俺はイリナさんを起こそうと軽く揺さぶった。しかし起きる気配は全くない。
「仕方ない。俺一人で行くか」
俺は部屋を出てた
「待たせたな。行こうか」
「食事はバイキングか?」
「この場合ビィッフェだ。食べ放題がバイキング、ビィッフェはパーティーや電車の中で立ち歩きしながらも食べられるものだ。」
バイキングとビィッフェの違いを語った正喝は少しドヤ顔をしている。
後ろで似合ってないと言わんばかりに誠治が笑いをこらえている。
それより食事の味の方が問題だな、俺は一つドーナツのような物を食してみた。見た目通りドーナツのように甘かった。
「少し喉も渇いたな」
ここではドリンクバー見たいなものは無い。誰かに頼むにも誰に頼めばいいかわからない。そんな時・・・
「勝利、八神さん、本田さん。お食事いかがです?」
優佳里姉がどこからともなく現れた。」
「姉さん、いきなり現れないでくださいよ。」
「そんな・・・人を幽霊みたいに・・・」
「ああ、すみません。俺がわるかったです。そして食事美味いです」
「ふふ、それは良かった。」
優佳里姉はここでも自分のペースを崩すことなく俺たちに接してくれた。緊張をほぐそうとしているのだろう。が、あの同居人のせいで緊張どころか仲間から罵倒されていて俺の精神は少し荒んでいる。
「ところで何か飲み物は入りますか?」
「炭酸はあるか?できればサイダーがいい」
「水。おいしい水」
正喝のサイダーはともかく誠治のおいしい水とはボケなのか?それとも真面目にそう言っているのか?どちらにせよ同じものを選ぶのは面白く無い。
「勝利は何です?」
「・・・ミルクでも貰おうか」
「ここはボウヤが来るところではありませんよ?」
「姉さんの前じゃ俺もボウヤかよ」
「冗談ですよ。しかしミルクは冗談では無いですよね?」
「ああ、ミルクと言うか、牛乳をお願します」
最近いろんな事があってカルシウムが不足している気がする。やはりイライラするのはカルシウムが足りないからだろう。師匠、キラさんは生きていたと思ったら記憶喪失してるし、イリナさんはイリナさんで面倒な人だし、環境にはなれない。こんな盛大なパーティーのようなものに俺が参加していいのだろうか?そういう疑問を浮かべた。
「そういえば月村は?」
「見ていないな。試験にもいなかった」
「実は〜悪魔の血を引いてるのバレてごう・・
俺は誠治の肩を叩き、注意を促した。
「余計な事は言うな」
「・・・悪かったよ」
しかし心配ではある。姉さんに呼ばれてからいっさい姿を見せていない月村はいったいどうなっているのだろう?だがそんな悩みは一瞬で打ち消された。
「よお!新人共!食ってるか?」
「キラさん。まあそれなりに」
「なんか随分と少ねえな?ほら、もっと食え!」
キラさんは俺の皿に色々と乗っけてきた。
「そういやお前、昨日は車イス使ってなかったか?」
「使っていました。しかし優秀かつ変態な同居人のおかげで治りました」
「イリナの嬢ちゃんか。まあ性格はともかく腕は俺様の7割ぐらいはあるからな。くれぐれも変なことすんなよ?」
「しませんよ!そんなこと」
俺は真っ向から否定する。少なくとも今の俺にそれはあり得ない。
「皆さん、お飲物をお持ちしました」
「おお、天本か、今は新人教育にジョブチェンジか?」
「・・・まあそんなところです。八神さんかおいしい水、本田さんがサイダー、勝利がミルクでしたね」
各々飲み物が渡されていく。
「そういえば、じょ・・・ジョイでも飲むか?旨いぞ?」
「ジョイ?それは飲み物ですか?」
「そうだ。それと、男がミルクだと?男は黙ってジョイだろ?」
ジョイなんて飲み物は俺は知らない。がものは試しだろう。
「このミルクは俺が没収だ。だが廃棄は勿体無い。俺が代わりに飲んでやろう」
結局自分が飲みたいだけだと気付いた俺はおとなしくジョイを貰い飲もうとした。だが・・・
「ゲオうおおオォォ!なんじゃこりゃ!?すんげえ辛えじゃねえか!」
忘れていた。姉さんは俺に辛いものを飲ませる、食べさせるのが日課だと。辛いミルクなんて不味いに決まってる。キラさんは盛大に吹き、目の前にいた俺はびしょ濡れになった。
「勝利、すまねえな。お前は内なる強さを身につけようとしてたんだな。見直したぜ」
「勝利、大丈夫〜?」
「大丈夫に見えるか?この状態を・・・」
とりあえず寒い。ミルクの冷たさと辛い何が混ざり合ってとにかく気持ち悪い。
「利、とりあえずシャワーを浴びてこい」
「勝利、これを」
姉さんはタオルを用意してくれた。とりあえず水気は拭けるだろう。
「姉さん、ありがと」
俺は自室へと向かいドアの鍵を開けバスルームの扉を開けた。
「はっ!」
忘れていた。どうしてイリナさんがちゃんと部屋にいるのを確認しなかったのだろう。あの人なら寝てても俺が戻ってきたら真っ先に向かってくるだろう。彼女はバスタオル一枚でそこにいた。透きとおった肌。濡れた銀髪はまるで絵のように美しい・・・ってそんな場合じゃないだろ!
「わ・・・」
「失礼しました!!」
俺は勢いよく扉を閉めた。まずいな。これは何を言われるか分からん。もしかしたら俺最後の扉開けちゃたかも。
???「扉が!最後の扉が!」
扉おじさんはおかえりください。まあイリナさんのことだから笑ってくれるだろう・・・と信じたい。
3分後
イリナさんがバスルームから出てきた。今度はちゃんと服を着てる。そのまま真っ直ぐ俺の前に来た。五秒ほどの沈黙、これほど怖いものはなかなか無い。
「「あの」」
二人の言葉が同時になった。
「先にどうぞ」
次に俺は落ち着いた雰囲気を醸しつつもどこか焦ってるような声を出した。もう笑ってくれ、この空気を。
「その・・・見ました?」
「な・・・何を?」
「その、私の胸とか・・・」
最後の方はほとんど聞き取れ無いような声だった。
「正直、バスタオルと銀髪しか見ませんでした」
倒置法というのはこうゆう時には非常に便利だ。なんせ印象付けがしやすい。その言葉を聞いて、イリナさんはホッとしたようだ。
「なら良いです。・・・それよりなんでびしょ濡れなんですか?」
「ああ、そうだった。シャワー浴びに来たんだった」
俺は本来の目的を思い出す。多少乾いてるもののこのままにしておくと俺の服が牛乳臭くなる。
「だったらお風呂も入っちゃってください」
「ありがとう、せっかくだから使わせてもらうよ」
「どうせならお背中流しますよ?」
「いや、いらない。ゆっくりと1人で浸かりたい気分なんでね」
「ふぅ〜ん・・・」
イリナさんは少し残念そうな目をしている。
「・・・すごい綺麗な水だな」
まず俺はシャワーを浴びることにした。ここの水はとても純度が高く、まるで何かに包まれているような安心感がある。だいぶ匂いも消えた気がする。次に風呂に浸かり、体を休めた。このまま眠ってしまいそうだ。だが
「勝利さ〜ん服洗っておきますよ〜」
イリナさんの腑抜けた声に少しだけ目がさめる。
「ああ、頼むよ・・・」
なんか、こう今日1日でいろんなことあったな。同居人はイタズラ好きの少女。上司は記憶喪失、同僚はすぐにいなくなる。
「なんか、騎士団って大変だな」
現状を把握し俺は風呂へとでてバスローブへと着替えた。
さて、そろそろ行くか。




