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胸を借りる

「やるぞ!ガングオー!全力だ!」

俺の言葉と共にガングオーが電子音をあげる。受け答えするように一歩づつ前進していく。テンポを少しづつ早めていき次第に自然と走るようになる。

そして殴る。一発一発を丁寧にかつ豪快に壁を殴り続ける。

しかし壁にはヒビ一つ入らない。

「やっぱり力押しじゃあダメか?」

「何か別の方法があるのかも」

ガングオーのコックピットは二人乗れるようになっており手前の俺が操縦、奥に桃花が座り計器を見て色々とサポートする役割だ。その巨体はおよそ20数メートルあり今俺たちは最後の試練と称してこのガングオーの数十倍にもなる壁を破壊しようとしている。




なぜこんなことをしているかのは昨日に差し掛かる。

あの後部屋を出た俺達が見た光景はゲームのチュートリアルルームのように地面に縦と横、等分で書かれた線がいくつも地平線の先まで続いておりその先に待つものは文字通り壁だった。

「こいつは・・・壁じゃねぇか」

「どんな壁でも突破できるなんて言ってたら本当に壁だったんだね」

二人して壮大な壁を見つめているとアルファさん達が現れた。

「お疲れ様です、勝利様、桃花様。最後の試練はこの壁の先を行き、元の世界への扉を開くことでございます」

「あの壁をどうにかすればいいんだな?」

「そ〜だよ〜。ただ簡単には行けないかもね〜」

「あんまりいい思い出がないんだが、こいつを用意しといたぜ」

ガンマの指パッチンで現れたのはガングオーだ。

「ガングオー、また会うとはな」

「しかもな乗れるんだぜ。アニメみたいにな」

胸のハッチが開きコックピットがあらわになる。階段状になっており二人分の座席が用意されている。しかし足りないものがあった。

「こいつには超AIは搭載されてないのか?」

ガングオーは超AI、つまり人間よりも人間らしい超AIを搭載していたはずだ。

しかし何も語りかけてこなかった。

何でもいらないからカットされたとかされなかったとか・・・まぁそんなものに頼らなくてもやるだけだ。

「さ、さっさと終わらせて帰るぞ。桃花」

「うん。行こっか」

しかし初日は満足に動かすこともできなかった。操縦系統が色々と面倒なものばかりでいかにこいつが超AIに頼って来たかが分かってしまった。

そして時は今に・・・





「ダーーーーダメだ。まるで攻略法が見つからん」

壁相手に攻めあぐねて一旦水分補給のためペットボトルに入った水を飲む。中身が半分ほど減ったところで満足し、後ろの桃花に渡した。

「え、ええ!?これ飲むの?」

「今更か?まぁ嫌なら新しいのをもらってくるけど」

「う、ううん。飲むよ」

いわゆる間接キスというものになるのだが俺は気にしない。今更間接などで恥ずかしがっているのは桃花だけで十分だ。

恐る恐る水を取る桃花に対し俺はちょっと可愛いと思った。

・・・そういえばこの水は大丈夫だよな?何か変なもん仕込まれてないよな?と飲んだ後に疑うがこの状況でそれはないと信じたい。

実際味も匂いもおかしくなかったのでこれは普通の水であった。





休憩を終えた俺は一旦ガングオーから降り壁がどんなものかを確かめていた。

意外にもその壁は柔らかかった。まるで低反発枕を触ってるかのようだ。

ガングオーに乗ってる時は気づかなかったが、この壁の異質さは俺に一つの策を思いつかせた。

「強すぎるとダメならもっと優しくするべきか?」

柔らかいものに硬いのを押し付けてもそうそう上手くはいかない。それが金属等ならなおさらだ。ならソフトタッチで壁を破壊ではなく少しづつめり込むように進めていくべきだ。

そう思い即行動に移すべく再びガングオーに乗った。

「桃花、出力を三割に下げてくれ」

「えっ?でもそれじゃあ破壊は・・・」

「いいんだ。残りの七割を別に当てる」





「おいガングオー、聞こえてるなら答えろよ・・・。お前は今からドリルになるんだ。鈍く、脆く、けど愚直に進むドリルだ」

このガングオーの新たる能力。それはパイロットの想像を形にするものだ。

ガングオーの右手が通常の手からドリルに変わる。そのドリルを壁にと押し付けていくがうまく入っていかない。原因は壁からの抵抗が大きすぎるためである。

「ドリルには問題はない。・・・となると問題は足場か」

ドリルの出力は三割、残りの七割を姿勢制御についやることにした。

「アンカー射出、地面とのドッキング完了・・・さぁやるぞ!」

そしてドリルは今・・・壁に穴を開けていった。・・・が、

「こっから先は絶妙な力加減が必要そうだな」

約五メートル進んだところでドリルが空回りしてしまった。壁の硬度がガングオーからは分かりにくく出力を微調整しないといけなくなっている。

参考として何かあの壁と同じくらい柔らかいものがあればいいんだが・・・

「桃花、ちょっと胸を借りていいか?」

「?なんかおかしい気がするけどいいよ」

「・・・本当にいいのか?」

「うんを私なんかでよければ」

「そっか、じゃあ遠慮なく・・・」

そう言って俺は左手を後ろにいる桃花の胸めがけて進めた。服越しから手の平で触れ軽く押していく。指が軽く沈んでいく感覚はあの壁に似ていた。

「かかか、勝利君!?何を・・・」

桃花から抗議の声が出るが抵抗はない。

「いや借りていいって言うから・・・」

「こういうことじゃないよ!」

俺が言う胸を借りるは文字通りだが、桃花の方は格下の者が格上の者に相手をしてもらう本来の意味だと思ったのだろう。

騙したつもりはないがちょっと済まない気持ちはある。後でちゃんと謝っておこうと思った。

「いいからじっとしてくれ。これが一番効率がいい」

「ぅうう・・・」

事実左手からくる感覚を元に右手のレバーでのドリル操作はかなり良くなっていた。そして今、壁に穴が開いた。

大きさとしては半径五メートルほどのもので人が通るには十分すぎる大きさだ。

ガングオーの手を穴の入り口に持っていき俺はハッチを開く。

「ふぅ、桃花ゴメンな。騙すつもりはなかったんだが・・・」

謝罪の言葉を出すが桃花は答えない。言葉の代わりの返答とばかりに頬にビンタを食らわしてきた。

「痛っ!桃花、やっぱり怒ってるのか?」

「ううん。怒ってないよ。けどこれでおあいこにしてあげる」

あんまり怒ってない様に見えたが機嫌はとってやらないとな。先にコックピットから降り桃花を待つ。形だけでもエスコートしてやろうと手を伸ばした。

桃花は手を握ってくれたが足を躓き倒れこむ様に俺の方に来た。俺は桃花を抱きしめて受け止めた。俺は態勢を保ち桃花を離そうとする。

「だめ、離さないで」

桃花から離すなとの命令を受けた。しかしこのままでは動きにくいな。そう思い態勢をかえいわゆるお姫様抱っこの形をとった。

「勝利君・・・」

「一応離してはいないけど?」

「そうだけど、そうじゃなくって・・・

勝利君ってこれが好きなの?」

「これ?これってなんだ?」

「この今の態勢・・・」

考えたこともなかった。桃花にお姫様抱っこしてやるのは何もこれが初めてじゃあない。いつのまにか自然にやっていたことだ。この態勢が一番咄嗟に運びやすかったからだ。おんぶの方が安定しそうって言うかも知れないが、慣れてしまったものを今更変えることもできんしな。

好きか嫌いかって言われると・・・案外難しいものだな。けど・・・

「好きだよ。こんなことするのは桃花だけだ」

「本当に?」

「本当だって」

そう言って穴の中を進んでいくと一筋の光が見えた。

「これが元の世界への扉・・・なのか?」

光源に対しいまいち実態をつかめずにいるがそもそもつかむものではなかった。体全体が光に包まれる。影一つ生み出させまいと言わんばかりの光に俺達は目を瞑った。





広がるは元の世界。生み出すは幻の虚像。その幻を現実にするためにも過去への精算の扉を開く。


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