試練 傲慢のラーゼ
着いたのは星空輝く夜の荒野だった。まるで宇宙に浮かぶ小惑星の上に立っているようだ。
「ここが第一の試練の場所?さっさと終わりにして、次に行きたいところだが・・・敵はどこだ?」
きれいな星空を見まわしてみると左から流れ星が流れてきた。
「あ、流れ星だ。えーとこうゆう時は・・・
「いや、あれは流れ星なんかじゃあないぞ」
「フッフッフッフ、アッハッッハッハッ!アーハッハッハッ!」
流れ星と思わしきそれは人だった。特徴的な笑い声を三段階で声を上げていき、こちら側にまっすぐ近づいてくる。
「な、何?あのどこぞの田舎でお医者さんやってそうな声は?」
「自称死神でも名乗ってそうだと思ったぞ、俺は」
やがて姿がはっきりと見えてくる。全体的に白い軍服を羽織り、目を覆うマスクをしている。しかしもっと特徴的なのは背中にある大きなリングだ。さらに男の周りにはいくつもの小さいリングが不規則に飛び回っている。さらに右肩に軽く背負うように、ライフルを背負っている。弾倉が見えないことからビーム式とみて間違いないだろう。左手には大型で縦長の盾を構えている。
「あんたがこの試練か?ま、接近戦に持ち込んで一気に終わらせてやるよ!」
刀を構え男のもとへ走る。非常に体が軽く今なら100メートルも9秒台は夢じゃないみたいだ。俺はわざと盾の持つ左側から攻撃を仕掛けた。その動きはあくまでもフェイントであり、本命は回り込んで右手に持つライフルの破壊、いければそのまま止めだ。刀を抜刀しそのまま刃の方をぶつける・・・のではなく鞘の方で衝撃を加える。その勢いを生かし、体を回転させてに右側に移りライフルを斬る・・・ことはできなかった。
小さなリングが縦に並び、刀の勢いを完全に殺した。
「フッフッフ、惜しいな」
その後ライフルを払い、間合いを取らされた。仕方なく桃花の方へ戻る。
「挨拶すらまともにさせないとは無礼、いや、傲慢だな」
「傲慢か・・・それはあんたもだろ?」
アルファさんの説明を聞いていなくとも、直感でこいつは危ないやつだと感じた。
昔の経験がこんな形で生きるのは幸運なのか、不運なのか、ともかくさっきの一撃で決められなかったのは奴を甘く見ていた俺の責任だ。桃花になるべく負荷をかけると俺も大変になる。だからこそ一撃で決めるべきだったのだ。
「私は傲慢のラーゼ、貴様の上をいく男だ」
「ラーゼ、それがあんたの名か」
「そうだ、人は誰しも傲慢な部分を持っている。他者より強く、他者より先へ、他者より上へ、競い、妬み、憎んで、その身を食い合う!」
「・・・あんたの言い分も分からなくはないよ。それでも俺はあいつを、統治を倒さなきゃ前に進めないんだ!」
刀を鞘に戻し、ブーメランをラーゼの上空へと投げる。
「どこを狙っているのだ?」
このゲームの世界なら、ある程度のものは自分の意思で操作することができる。当然あのブーメランも例外ではない。
「来い!」
急降下させて真後ろからブーメランを狙わせ、俺がライフル側から攻め立てる。
盾は一つしかないためまず正面からくる俺のことを止めた。すると体が自然と左側を前にせざるおえない。最初からライフルを狙って俺はブーメランを投げたのだ。
先ほどの様にリングで塞がれない様、ブーメランにはある細工を施しておいた。
触れた時に発火する術式を組み込んでおき、最低でもリングの数を減らせる作戦だった。
しかし・・・
「その程度の策、緩いわ!」
ブーメランがこちらに向かってくる最中、リング五つが十字の形で合体し、ビームを放った。更にもう一つ十字を作りこちらは俺への攻撃を放つ。
躱す為に間合いを取らされ、ブーメランも破壊された。2方向からの攻撃程度では意味が無いようだ。
リングは攻防一体の物。盾で大抵の攻撃は防がれる。どうしたものか・・・
「勝利君?大丈夫?」
桃花に心配されるようではこの試練もそう簡単にクリアできそうには無い。しかし今は猫の手も借りたいところだ。
「桃花、奴の盾かリング、どっちか惹きつけられないか?」
「・・・やってみる」
桃花は自分の武器である鉄扇を広げた状態で二本持ち、ラーゼに投げる。ライフルとリングから放たれるビームが迎撃を開始し鉄扇を次々と落としていく。
「まだ有るんだよ!」
投げては落とされを繰り返していく。体力があまりない桃花の為にも、あまり時間をかけたくはない。しかしこの状況で近づけば誤射?を食らうな。
俺のライフルもあの盾に防がれるだろう。打つ手がないように思えたが、頭の中にあるイメージが飛び込んできた。
盾に防がれる射撃武器しかないなら盾ごと破壊する大出力の武器があればいい。
「来い!ラグナ・・・いやイブテロス!」
誠治の大型ビーム砲ラグナロクを参考に、片手一つでも撃てるよう小型化、しかし威力は変わらずに作り上げた武器イブテロスをラーゼへと放つ。しかしぶっつけ本番、それも片手で撃ったので狙いが逸れ、ラーゼのやや下から粉塵を巻き上げつつ、撃った反動で俺の態勢ごと砲身が上った。結局地面から上に薙ぎ払うようにラーゼに当たり、粉塵の影響でどうなったか不明だ。煙が収まる速度がやけに遅い。先ほどの俺の速さの原因も考え、ここは重力が軽いのだろう。
「やった・・・のか?」
今ので終わっていればかなり楽に済む。しかしそんな期待とは裏腹に、大量のリングが飛び出し、桃花に迫る。あれだけの数を迎撃できるほどの体力もないと判断し、桃花を抱えこみ粉塵の中に飛び込む。
「え!?え?」
「目と口閉じてろ!」
桃花は言われるがまま目を閉じ、口を手でふさぐ。俺も目を塞ぎ、呼吸もできるだけ少なくした。
あのリングが健在ということはまだ戦いは終わっていないということだ。粉塵の中に入った後撃ってこないことを見るとあちらは見失ったようだ。
「桃花、ちょっとしゃがんでろ」
俺は桃花を下ろし、俺は刀を勢いよく抜刀し風を起こそうとする。しかしこの長さでは煙をまくにはパワー不足だ。
「桃花?風魔法いけるか?」
「ゴホォ・・・ハァ今はちょっと・・・」
扇の呼び出しと投げすぎで、体力がない状態で使っても意味はないだろう。分かっていたことだが、出ればビームの雨、出なければ呼吸が苦しくなる。なら・・・
「桃花?あと一回だけ扇だせるか?」
「うん・・・多分できる」
桃花は力を振り絞り、扇を二枚出す。上出来だ。
俺は扇を投げ、周りに回転させる。もちろんこれだけでは対して意味はない。
『爆ぜよ、その回転は攻守一体の壁となり、すべてを焼き焦がす、フラム・ティフォン!」
扇に炎を帯びさせ、炎の竜巻を作り出す。炎は水には弱いが、風には強い。寧ろ空気を送り込んでくれるため大きさを増していく。この炎の竜巻によって粉塵は飛んで行ったが・・・酸素が薄い。
俺は桃花をまた抱え、俺は竜巻の遥か上にとぶ。新鮮な空気はいいな。生きてるって感じがするよ。
空気をしっかり吸い込んだ後、扇を逆回転させ、風の勢いを相殺させる。炎は地面に広がり、徐々に消えていく。今の竜巻で、リングもあらかた焼かれたようだ。
「奴はどこだ?」
上空に飛んでいる為地面が広く見えるが、ラーゼの姿は無かった。試練をクリアしたわけでもないため、何処かに隠れているのか?
そう考えていた時桃花が何かを伝えようと俺の腕を叩く。しかし、その行為を伝えるのが少し遅かった。
ラーゼは俺よりも上に飛んでいた。盾とライフルを放棄し、大型ビームサーベルで俺の体を貫いた。
「喰らうがよい!」
更にそこから蹴りを入れられ、地面へと激しく激突する。咄嗟に桃花を離していた為被害は俺だけに済んだが、実質この試練は失敗に思えた。
「勝利君!待ってて今治療を・・・」
重力の影響で勝利よりも後に地面に着いた桃花は治療を施す為魔法を行使する。しかし体力が切れかかっている今の桃花では満足な治療は行えなかった。
「君もその男と同じところに送ってあげよう」
ラーゼは勝ち誇り、一歩づつ歩いて桃花に近づいてくる。抵抗も虚しく、ラーゼがサーベルを振り上げた。
「ここ・・・」
勝利が力を振り絞り、左手でラーゼの左足を掴んだ。こんなことに対した意味はないと思ったらラーゼはそのまま振り下ろした。
「だぁ!」
しかし勝利は倒れた態勢のままラーゼの体を強引に引っ張り吹っ飛ばした。
「な、何だ!?その力は?」
何だ?奴に触れてから急に体力が回復しだした。しかしまだ起き上がれるほどではない。
「来い」
竜巻に使っていた扇をラーゼに飛ばす。こんなものは時間稼ぎ程度にしかならないが、時間稼ぎが出来れば十分だ。
ラーゼは扇を斬り払い、態勢を整える。その間に俺も立ち上がる。
「勝利君?まだ傷が・・・」
「大丈夫、・・・そろそろ終わりにしてくるから」
少しづつ歩くテンポを早めていき、走りへと移行する。そしてラーゼに近づいていき刀を構える。ラーゼはカウンターに持ち込もうと、サーベルを構える。
リーチの差であちらの方が先に仕掛けられるのは見えている。ならそれ以上にリーチを長くするだけだ!
刀を抜刀すると刀身が延びた、ラーゼのサーベル以上にだ。突然の現象にラーゼは驚きを隠せず無防備に逆袈裟斬りを喰らう。
「まだだ!」
更にそこから重い突きを放ちラーゼの体を刀が貫通する。確実にダメージが入っていることを実感し、ラーゼの顔を右手でぶん殴り、ラーゼの体は低い放物線を描くよう吹き飛んだ。こちらも体力の限界がきたのかその場に倒れこむ。
「これでやっと一つかよ・・・」
「傷、大丈夫なの?」
俺の体はボロボロだったが、貫かれたはずの場所は元に戻っていた。ここがゲームの中じゃなければ自然治癒などあり得ないだろうが。
「大丈夫だ、こんなところで止まるわけにはいかないし、止まるつもりもない」
まだ試練は始まったばかりなのだ。
「そっちこそ、慣れない戦いで疲れただろ?少し寝てみたらどうだ」
戦いに夢中で夜景?を眺める余裕も無かった。しかし終わってみればこの光景も美しいものだ。
桃花は横にはならず、ただ座るだけだった。服が汚れるのを嫌ったのだろうか?
「ね、覚えてる?初めて会った日の事」
「ああ、あの日は・・・こんな夜空だったよ」
「夜?」
記憶を辿りにすると桃花が俺と会ったのは転移後の朝だ。夜空を見てはいなかったのだ。
「お前を拾ったのは、師匠との戦いのあと、俺が今みたいに疲れて眠ってた時だったんだ。あの時はこんなことになるとは思わなかったよ」
「こんなことって?」
「知られたくない過去バラされて、元の世界に戻るつもりだったのに、もどるつもりないと言ったら戻りたくない原因が目の前に現れた。
この世界も結局俺は戦いから逃れられないのかもな」
戦いを続けていつかは、またいつかはと終わりを願う。本来俺はどうありたいんだ?どう生きたいんだ?
「でも悪いことばかり無かったでしょ?」
「いいこと・・・か。秘密を隠す必要がなくて、少しは気持ちが・・・
「違うよ?私が言いたいのは・・・その・・・
桃花が言いづらそうにする。察せと言わんばかりだが、なにを察して欲しいのかは分からなかった。
「桃花?その言ってくれないと分からないんだが」
「言わない!やっぱり鈍感だよ勝利君は!」
「どうせ俺は鈍感だよ・・・あ」
今ので桃花の言いたいことが大体分かった気がする。流石に今ので桃花の気持ちがわからない奴はそうはいないだろう。
好意か・・・俺は桃花のことをどう思ってるんだろうか?
しばらく夜景を楽しんでるとまた真っ黒な世界に戻される。
「お帰りなさいませ、御二方」
アルファさんが迎えに来てくれた。それと質素なテーブルの上に青色の飲み物が二人分用意されていた。
「早速ですが、こちらをお飲みください。疲労回復に効くお飲み物でございます」
「頂くよ」
俺は飲み物を一気飲みする。ちょうど喉も渇いていたので有難いが、一杯では物足りなくお代わりを要求するが・・・
「過度の摂取はお身体に障りますよ?」
「それもそうか・・・」
「お身体に触りますよ?」
「やめろぉ!」
何か危険を感じ、強い拒否の言葉を口にする。
「お身体に触る?・・・勝利君、今何か変な事考えなかった?」
「やめろぉ!」
桃花にまで誤解を招きかねない表現をやめろぉ!
「次の試練は召喚士カーバーとの戦いです。貴方も召喚士として彼とモンスター同士による戦いを行ってもらいます」
召喚士・・・姉さんのフェンリルみたいなものか?
「と、言いましてもやるのはカードゲームですがね」
「ええ・・・」
このようなやり取りに命のやり取りが本当にあるのか?少し呆れながらも次の試練へと向かう。




