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遭難した島は死んでました

月村と手合わせしてその午後にセンシンを出港した勝利達、ただいま台風に煽られています。

「くっ、このままでは・・・」

さすがの由佳里姉も想定外のようだ。舵を握っているので精一杯。無理に舵をきれば操作不能になるため、何もできない。俺はまるで地震の上にずっといるような感覚で吐く寸前だ。

「はぁはぁ、キツイ・・・」

目的地は始まりの地アルトマーテ、のはずだったが、この台風では無理だろう。

そんな時吉報が入った。

「利、陸地があるぞ!」

正喝の一言により、全員に少しだけ笑顔が戻る。

「なんとかたどり着きます。しっかりついてきてください。」

由佳里姉も船も踏ん張る。そして・・・




「やっーと着いた」

「ふぅん、台風、強えじゃねえ・・・か」

師匠は港に着くと同時に船内で倒れた。さすがの師匠も自然には勝てないか。

「で、この島はどの島なんだ?グロウか、サイシェイか?」

「すみません、ここは私にも分かりません」

「そっか、外に出るわけにもいかないし、・・・」

港に着いたと言ってもまだ油断はできない。台風はまだ続いているのだから。

「様子見てくる〜?」

「やめとけ、風の餌食になるだけだぜ」

「それにしても寒いね」

「毛布にでも包まっておけば大丈夫だろ」

この状態では船から出るのは危険だ。

「はぁ、さっさと静まってくれればいいんだけどな。こんな台風」

「それにしてはおかしいですね。そんな台風があるという情報はなかったのですが」

「突然発生したってことか?」

「いえ、この地域は雨でなくとも肌寒いので、台風は起きないはずです」

「異常気象ってやつか」

「それなら、もうしばらくで収まるでしょう。寒い地域の台風は長続きしませんから」

案の定一時間ほどで風は止み、雲ひとつない快晴となった。

「ん、んーー、あー眩しい」

「第一声がそれ?寒いから暑くなって『あつーい』とか言って爆発でもしなきゃ面白くないよ?」

「あのな桃花、そういうのは俺じゃなくてししょ・・・

ドカーン!と爆発した。船の中から聞こえた。

「な、なんだ?」

「行って見よ、」

爆発音は船の心臓部、つまりエンジンのところからだ。

「あ、二人とも」

「由佳里姉、これは一体?」

「先ほどの台風の影響でエンジンがおかしくなったようですね。」

「直るの?」

「予備のパーツで直します。直り次第出港しましょう」

「分かりました」

「じゃあさっそく観光しよ?かんこう?」

「直るまでだぞ、月村と誠治、正喝も誘って行くか」

師匠は無視しよう。(笑)




「心〜僕も修理手伝わなくてよかったの?」

「由佳里姉なら俺が誘う前に手伝わせてるさ、多分な」

「まあ気にしたって仕方ないよね〜」

「ところで勝利」

「ん?どうした、月村?」

「この辺り、何か臭くないか」

「確かに、ハエも多いな」

「なんだろうな、この匂いは・・・

「?そういえば、私達、まだ人にあってないよね?」

『まだ人にあってないよね』

この一言が妙に引っかかる。台風の後晴天なのに、大人はおろか、はしゃぐ子供の姿も見当たらない。

「利、気をつけろ。何かおかしい」

手には既に槍を構え、見えない気配を辿っている。この島に来て始めて感じる違和感。それはこの島自体が生きていないように感じる。既にこの島は死んでいる。それも最近のことだ。街自体はまだ腐りきっていない。それが証拠である。

「正喝、さっさとこの島を出たほうが良さそうだな」

「そうだね〜ここは臭いし」

不穏な気配の正体。それを探るためハエが集る場所に近づく。

それは人である。しかし既に死んでいる。ハエが多いのもそれが原因であろう。

「ひっ!・・・」

桃花が悲鳴を上げ、俺の左腕にすがりついて来た。その腕は震えていて、恐怖に押されていた。

「これは・・・酷い・・・」

月村が死体の状態を見て言う。それは『肉を切らせて骨を断つ』状態であった。筋肉のいたるところに傷があり骨だけが原型をとどめている。顔は既に誰のものかわからないほど変形している。

「この傷のつき方・・・俺は知っている?」

「こんな非人道的な殺し方をか?」

「ああ、それは・・・

そこで言葉は途切れる。隣の家だったものが吹き飛んだ。

「く・・・なんだよ!?これは一体!」

幸い吹き飛んで来たものには当たらなかった。しかし現象には続きがあった。他の死体がまるで魂のない人形のように襲いかかって来たのである。強さ自体は対したことはない。しかし数が多い。まともに戦えるのは四人であり、俺は桃花を護衛しているので実質3人である。対してあちらはその30倍。90体、いや下手をすれば3桁を超えるであろうそれはただ突撃するのみであった。リーダー的なものは見えない。

「仕方ないね〜一気にやるよ〜」

『ブレイブ イブテロス』

サイシェイで見せたそれは隙は大きいものは、絶大な威力を誇る。前はロボットを一掃していた。

「この火力なら!」

一斉発射し、迫り来る敵を薙ぎ払う。あちらが数で来るならこちらは質。ほぼ全てを消し飛ばした。

「やったか?」

煙が舞う。何も見えずただ時を待つのみ。

見えてきたその先には悪夢の始まりがあった。それは紛れもない悪。それも最大級最上級のものである。黒いコートに身を包んだその人物は例えれば死神。右手には大鎌を持ち

「!お前は!」

「久しぶりと・・・言っておくか」

「統治・・・お前は死んだはずじゃあ・・・

「確かにお前の知る統治は死んだ。だが私は違う!」

咄嗟に攻撃されなんとか躱す。鎌相手にやってはいけないことは防ぐことである。大鎌は扱いが難しい分相手にとってもやりにくい。

「っ、戦うしか無いのか」

「利、あいつは誰だ?」

「ラグナロクの幹部の一人、闇夜(やみよ)統治(とうじ)だ。こりゃあ厄介だな・・・」

しかし、さっき言った言葉が気になる。俺の知る統治は既にラグナロクと一緒に死んだ。じゃあ今目の前にいるこいつはなんなんだ。

「心〜、やっちゃっていいよね!」

また一斉射撃。この状態では芸がないが、一番強く、より確実である。あいつが普通のやつならばの話だか。

「フッ、」

左手でバリアを作り、あっさりと受け止めた。

「僕の攻撃が効かない?」

誠治のブレイブは時間切れになり、元に戻る。あれほどの攻撃を片手で受け止められる奴なんだ。奴は普通じゃない。

「桃花、お前は船に戻れ」

「!そんな、私も・・

「いいから戻れ!こいつは俺たち四人で戦っても勝てるかどうかわからない。だから、師匠を呼んで来てくれ」

「・・分かったよ」

全力で駆ける。その足は何処か寂しげさを感じさせた。正直に言うと桃花を護りながらこいつを倒すのは無理な話だ。師匠が来るまでなんとか耐えないといけない。それでも五分五分の勝負だろう。

「統治!お前の目的は俺だろう!なら俺以外は関係無いはずだ!俺と戦え!」

「フッ、フハハハハハ!確かにお前を殺すのも面白い。だが、私は任務遂行のほうが大事なのだよ」

「任務・・・だと・・・?・・!まさか!?」

俺以外が目的だとすると恐らく狙いは桃花か由佳里姉だろう。そして今一番危ないのが桃花だ。船には師匠がいる。船は恐らく安全だろう。(師匠は安全ではないが)つまり狙いは桃花だ。

「正喝!誠治!月村!ここは任せる!」

「ああ!」

「了解〜」

「任された!」

再び駆ける。ただ勘に頼った。それだけのことである。

「逃がすか!」

統治が俺を追いかける。だが、

「おっと、ここから先は行かせないよ〜」

それを誠治が止める。

「やらせるわけにはいかない」

正喝も引く気は無い様だ。

「フン、ならお前達から潰してやろう」

決して後ろを振りかえらない。誠治達が止めている間に行かなければ。




予想通り、桃花は死体に囲まれていた。逃げながらだったため船とは全く違う方向に進まされいた。

「邪魔だ!」

一閃。抜刀で前方を斬り、切り返しで吹き飛ばす。

「勝利君!来てくれたんだ」

「ああ、だが、厄介だな、奴の狙いは俺じゃない。桃花、お前だ」

「え?私?」

戸惑うだろう。最初に目をつけられていた俺ではなく、自分が狙われていることに。

「心配すんな。俺は護ることぐらいしかできないけど、逆を言えばそれだけに専念出来るんだ」

「?よく分からないや」

行ってる俺も何言ってるか分からなかった。何で俺はこんな時に励ましの一声すらできないのだろうか。

「分からなくていいよ。とにかく、師匠を呼びに行くぞ。




「ふぅん、断る」

「なっ?何言って・・・

「と、普段の俺様なら言うが面白そうじゃねえか。強いやつなら俺様は戦うだけだ」

「では私も行きましょう。エンジンはもう直りましたからいつでも行けます。場合によっては撤退も考えます」

「由佳里姉、師匠・・・行きましょう」

つくづく俺の師匠は戦闘狂だと実感した。誠治達は大丈夫だろうか?勿論三人が簡単に負けるとは思えないが、嫌な予感はした。そしてそれは的中する。




「!・・・誠治!正喝!」

既に二人は倒れていてピクリとも動かない。残った月村も満身創痍の状態だった。

「ハアハア、ここで、やられるわけには・・・

「月村、お前は下がれ!何とかする」

「っ、頼む」

そうして月村は船へ戻る。

「出来るのか?ブレイブを封印したお前が?」

「ブレイブだけがレジェスターの戦いじゃないさ。お前は俺が・・

「悪りいな、勝利、ここは俺の独壇場だ!」

突撃。そして猛攻。師匠は両手の剣を縦横無尽に振り回し、統治を下がらせる。

「オラオラオラ!対したことねーな!」

キン!やガ!などの金属音が響く。

「調子に乗るなよ、人間風情が!」

攻撃を防御していただけの統治が弾き返した。それにより師匠が俺の方に戻る。

「ふぅん、やるじゃねえか」

「師匠?俺も・・

「勝利、お前は撤退しろ」

「あなたもですか・・・」

「なーに、俺は邪魔なんだよ。そこに寝ているガキどもが」

「あくまで一対一でやるのですか?・・・分かりました。任せます」

「由佳里姉?」

「勝利、貴方の師匠は自らしんがりを努めるのです。その気持ちを無駄にしては行けません」

「・・・分かりました。師匠・・・死なないでくださいよ」

その呟きは聞こえず、ただ逃げるのみ。

由佳里姉さんの術で二人を浮かせ、船へと連れて行く。




「みんな、目を覚まさないね、」

「幸い息はある。死んではいないはずだ」

師匠以外をを乗せ船は出港した。

・・・俺は何をしているんだ?仲間も守れず、師匠を置き去りにして、犠牲の上に立つ守りなんて・・・

思わず壁を殴った。何もできない自分に、酷い劣等感を抱いた。

「か、勝利君?」

「俺は、俺はなんで!・・・なんでこんなことになるんだよ!」

叫ぶ。それは自分への叱咤。情けないのだ。

「おれがあの時あいつを討てなかった俺の甘さが、お前達を・・・

謝って済む話ではないが、ただ重く、どんよりとした空気が流れる。そこに月村が来た。

「勝利、大丈夫か?」

「大丈夫・・・に見えるか?俺は負けたんだ。俺は何もできなかった。ただ逃げて、何も守れない。今の俺には何の力も無い。これじゃあ・・・」

「勝利君」

バチン!と頬を叩かれる。だが、その手は弱々しく、あまり痛みはなかった。

「勝利君は嘘をついてる。勝利君は逃げなかった。」

「じゃあ俺はどうすればよかったんだ!師匠や正喝、誠治をこんなふうにして何が護るだよ・・俺はどうすればいい?どうすればあいつらに償いが出来る?桃花、教えてくれ」

「・・・私にはその答えは出せないよ。けど、勝利君は今苦しいんだよね、辛いんだよね?だから今は泣いてもいいんだよ、誰かを思って泣くことは恥ずかしいことじゃないんだから」

その言葉を聞くともう歯止めが利かなくなりどうしようもなくなった。

泣いた。ただひたすらに。声にならない叫びを上げ続けながら情けなくって、苦しくって、どうしようもないくらい悔しくて、頭がどうにかなりそうだった。

その間桃花はずっと俺を抱きしめてくれていた。その温かさが嬉しくってまた涙がこみ上げてくる

さらに温もりを求めようと抱きしめる手に力を込めた。桃花もそれに応え俺を強く抱き返してくれた。

「あ、あの、」

月村が気まずい顔で声をかけて来た。

その空気はこちらをも気まずくさせた。俺と桃花は抱きしめるのをやめ目を合わせることができなかった。

「ごめん。かっこ悪いとこ見せちゃったな」

「ううん、平気だよ。むしろ弱い所も見せて貰えて少し嬉しい気分かも」

「そういう物か?」

「人によるかもしれないけど、私は勝利君の強い所ばかり見てきたから、これで勝利君の全部を見れたなって気持ちになるんだよ」

「そうか、ちょっと恥ずかしいな」

「えへへ」

まだ息は荒く嗚咽も少し漏れているが頭の方は少し冷静さを取り戻していた。

これだけ泣きはらした後だ、目も顔も酷い事になっているだろうが今更取り繕ってもしょうがないだろう。

そのまま沈黙が流れ、俺はボソッと呟いた。

「ところでさ、この船どこに向かっているんだ」

「「え?」」

二人同時に疑問符を浮かべる。

「月村、由佳里姉さんから何か聞いてないか?」

「いえ、何も」

「桃花は・・聞くまでも無いか」

「聞いてよ」

「じゃあ知ってるか?」

「いや、何もないよ」

そんな自信満々に言われてもなぁ。やはりここは本人に聞いた方が一番早いだろうと思い、ドアを開けようとした時、

「あの〜・・・非常に予想外のことが起こりました」

由佳里姉さんが先にドアを開けて来た。

「え?なんですか?」

「この船の・・動力が切れました」

え?

一瞬何を言ってるか分からなかった。

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