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クォーツトランス  作者: HaiTo
序章
3/3

Case3

「今日も早いのね」

 黒々とした外套を羽織った女性から常套句を投げかけられる。髪も黒く、はっきりと見える色がタバコの先の赤程度だった。昼に電話を掛けてきた人間と同一人物とは到底思えない振る舞いだが、事実ではあった。

「友人とのカラオケをこっちから誘ったのに、蹴ってきたんだぞ。早く帰らなきゃやってられん」

 手元のナイフを中空へ放り遊びながら空を見上げる。

「ソレは残念だったな。さあ、仕事だ」

 女が咥えた煙草を吐き捨て、ブーツのかかとで潰していく。ビルの際に足をかけ、眠らない街へと飛び込んでいく。狩りの時間だ。腰に固定したナイフ三本を確認してまだ黒い空を見上げる。目を細めて月をを見ていると、黒い影が落ちていくのが視界に確かに入る。鳥とは終えない。四肢があるのだから。

「やっぱり今日も現れたわね。最近活発ね。行くわよ拓也」

 彼女はタバコを吐き捨てかかとでつぶす。ビルの屋上にたまるタバコは果たして……。彼女が駆けた後を一呼吸置いて追いかける。都会の光に照らされた黒い空はへ溶け込んでいく女をぼうっと見ていた。

「遅いわよ。何か考え事でもしてるの?」

 速度を落として並走する様になった絢香に業務上の心配をされる。性能を発揮し確実に対象を葬らなければならない。それを求められている。

「気にするな。お前のほうこそいい加減俺の斬撃に耐えうるナイフ、作れないのか」

 罰が悪そうな顔をしながら無理無理、と手を降る。

「アレを斬撃と呼ぶか君は。あれはもはや砲撃の域だよ。ただのナイフが戦車の主砲に耐えられるはずがなかろう」

「そこをどうにかするのがリス――急ごう」

 突如として空が赤く反転した。ヒトが闊歩する夜へと。ヒトが創りだす赤い領域に踏み入れたのだ。一度基点のソレへ身を投げれば、後は全てが塗り変わる。

「ここ、降りるぞ」

 地下鉄の入り口へ検討をつけ、駆け下りる。

 むっとする匂いに囲まれる。

「何人死んでる」

「……そりゃごまんと」

 血の匂いを振りきって駆け抜ける。すでに世界は移り変わっている。どこから影のケモノ――異猊の者――が襲ってくるかわからない。腰からナイフを抜き放ち警戒を強める。

 この世界で死んだものはあちら側で死ぬことを許されず、忽然と姿を消したようになる。しかし、この規模は異常だ。以前であれば一人が消失したなど2日3日でニュースから消える。だが地下鉄の駅の人間がまるまる消えたとあれば。

「本格的になってきた?」

 彼女も頷き、歩を進める。改札は予想通り血の海だった。いや、すでに世界は薄ら赤く塗り替えられていたが。それでもわかるドス黒い血の色。

「シににキタの! ゴハン! イタダきます!」

 黒い異猊の者、四体。殺意が全て向く。彼女はすでに数歩引いてをM500引きぬいている。射線から逃れるように横転。

 乾いた音が響く。二回。その二発の弾丸によって一体の異猊の者は地面に伏せていた。

「カカカ! カリウド! コロせ!」

 残った奴らがこちらへ襲い掛かってくる。銃声が響き一体の足を44マグナムの弾丸二発が吹き飛ばす。俺は足が消えたそいつに向かって走る。

 二体の腕をどうにか躱し、地面を這うケモノの頭を踏み倒す。聞き取れない悲鳴をあげるが構わずナイフを首へと力の限り刺すと、すぐに動きが止まった。

 突き立てたナイフを振りぬく力のまま後ろを薙ぐ。迫っていた腕を払うような形になる。ちらと見た背後からはもう一体が迫っている。その先には女の姿。

「伏せろ!」

 言われるがままに全身を血の床へ投げる。彼女の手には「持ってきた」ヒトラーの電動ノコギリよろしく、MG42。二次大戦の遺物だが威力は折り紙つき。駅の改札という密閉空間で轟音を二秒にわたって響かせたソレは沈黙する。

 異猊の者は身体を四散させ、息絶えていた。彼女はMG42を捨てて腰の拳銃を抜き放ち、最初に三発弾丸を打ち込んだケモノに向かって、三発の弾丸を叩きこむ。

「……めちゃくちゃだ」

「いいのよ。硝煙の香り、薬莢の音。美しいじゃない」

 彼女――夕陽陽光――はトリガーハッピーだ。間違いなく。

 シリンダーを叩き落としながら中空へ手を伸ばす。陽光の内腕に刻まれた文様が一瞬光ると、彼女の腕にはの装填された円柱が握られる。

「銃刀法違反だ」

「気のせいよ。ならあなたのナイフは?」

 再装填しコッキングをすませると、セーフティをかけて再び彼女は腰へ銃器を戻す。

「刃渡り的にはセーフ」

「あの白い刃はなんて言い訳するの」

 腰にはまだ様々な武装が見えるが、何も言わない。

「あれはソレこそ気のせいじゃないか」

「それもそうね……行くわよ。ホーム」

 急に真顔になった彼女が、今しがた腰へ戻した銃器をすぐに取り出す。何か不穏なものを感じたのだろうか。俺よりも彼女のほうが経験が豊富だ。そういったものはあるのかもしれない。

「あいさ」

 自動改札をすぎる。死体はもはや見飽きた。

「何かいるのか?」

 ホームへ向かう階段を下りながら聞く。

「わからん。が、嫌な予感がする。力を使えるようにしておけ」

 言われる通りに、左手の手袋を捨てる。唯一にも等しい俺の兵装である力を開放する。

「応用きかんものか――」

 ホームへ降りた直後に彼女の身体が階段へたたきつけられる。

 リボルバーが落ちる。前方の赤く暗いホームからゆっくりと「人」が現れる。

「やあ君たち。上の雑兵を楽したのは君たちか」

 赤い世界よりなお赤い髪を腰まで伸ばした、女性のような顔をした人型の何かが現れる。

「ぐ……貴様あっ!」

 何かの力で階段で喘いでいた陽光だったが、起き上がると足元の拳銃を拾い上げセーフティを叩き発砲する。

「ダメダメだよ」

 弾丸は人型を穿つことなく中空で螺旋を描きながら停止した。

「いやね。別にあまり君たちに用事は無いんだ。別にいくらでもアレらは殺してもらって構わないしね。でもほら、特に君の左腕。ソレは――なんだい?」

 目の前に女の顔が現れる。視界が上がる。腕を捕まれ高く持ち上がれる。

「はな、せ!」

 蹴り上げようと脚を振るうが片手で簡単に止められてしまう。

「興味深い、が、すまないな少年。君の相手はまた今度だ。それではな魔術師諸君。赤き夜にまた」

 地面にたたきつけられながら、女がゆっくりと消えて行く様を傍観するしかなかった。女が視界から消えると同時に、ゆっくりと世界が崩壊していく。

「糞が……」

 陽光が立ち上がる。すでに元のホームへと回帰していく空間へ意味もなく弾丸を穿つ。スライドが下がりきった状態になり、打ち捨てる。

「一体何者なんだ、あいつは」

 半分以上が元に戻り、死体も崩れていく中俺は問うた。

「悪魔信仰集団。私達、魔術協会と対を行く組織だ」

 

 魔術協会に雇われてすでに三ヶ月。一度整理をしてみるのも良い頃合いかもしれない。



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