6話 あきらめきれない
「あ~あ。収穫なしかあ。」
会社の軽トラのハンドルを握りながら、大げさに叫び、誠二は僕の方を同情したように悲しそうな視線を投げてよこした。
僕は黙って、窓枠に身を乗り出し、風に吹かれる。
「おい、何とか言えよ。」
「ああ。」
「会社にはマンホールポンプの調子が悪くなって、点検していたんだって、ごまかしといてやったからさ。」
「・・ありがと。」
誠二がごまかしてくれたおかげで、僕はサボって美容院に行ったことはばれずに済んだ。
だけど、今朝に比べて髪が短くなっていたのは一目瞭然だろう。
「ほら。着いたぞ。」
「ありがと。」
会社の駐車場に着き、自分の車のドアロックをはずす。
「飲みに行くか?」
誠二が気を使って声をかけてくれた。
「うん。いい。まっすぐ帰って寝る。」
僕は落ち込んでいた。
カットしている間の35分。何とかして、次の出会いに持ち込もうとあれこれと凛に話しかけるのだが、どれもこれもつれない返事。
〝今度またあの4人で飲みに行かない?〟
〝メールしちゃ駄目かな。アドレス持ってるよね。〟
〝仕事何時に終わるの?お茶くらい駄目かな。〟
彼女にとっては職場だからあまりしつこくも言い下がれないし、僕も変な客だと摘み出されても困るから、カットが終わると大人しく料金を払い店を後にしたんだ。
誠二に話すと、笑う、笑う。そんなに笑わなくても。
〝直みたいな大人しいやつが、よくそこまでやったよな。俺、感心する。褒めてやるよ。〟
〝結果はどうあれ、チャレンジしたことに意義ありだよ。ま、女の子なんて星の数ほどいるんだからさ。がっかりするなよ。また何かあったら誘うからさ。〟
確かに女の子をナンパしたこともない。しつこく付きまとったこともない。
駄目そうな子には最初から行かない。
確かにハングリー精神には欠けてる。今流行の草食系男子って僕のことだろうな。
その僕があそこまで大胆に食い下がったのは、凛が初めてだ。
それほど、彼女は僕の心に突き刺さった。彼女の存在が今の僕のすべてだ。
心を占めている。何をしてもどこにいても、彼女が僕の中にいる。
凛に会いたい。
その思いがあの駅前の、あの美容院の店先に向かう。
が、通りの向こうの本屋からぼんやりシルバーグレーの店内を覗き見るだけだ。
だって、あれだけしっかり拒否されたら、もう客のふりをして店を覗くことすら出来ない。そこまでやったら、やっぱりストーカーだ。
さてさてどうしたものか。