38話 また会う時まで
髪の毛にドライヤーをかけながら、彼女からきた葉書を見る。
ビリケンさんだ。
裏には通天閣の名物、ビリケンさんのどアップの写真が移っている。
〝直人くん。元気ですか。凛は元気でやってますよ。大阪へ戻ってきてから、お母さんの店を手伝っています。昔からの常連さんや、親戚の叔母さんやいろんな懐かしい人に囲まれて、結構楽しくやってます。何だかんだいっても地元はやっぱりいいね。先日、久しぶりに通天閣に登って来ました。悲しいことや嫌なことがあったんじゃないよ。久しぶりに高台から大阪の町の風景を見たかったら。通天閣に登ったら、何だか無性に直人くんに会いたくなってしまいました。いろいろ凛のわがままを聞いてくれてありがとう。ホントに今度大阪へ遊びに来てください。待っています。〟
通天閣でこの葉書を買って、送ってくれたんだな。
僕の気持はまだ整理しきれてはいない。
一度好きになった子と、友達としてまた付き合っていけるのか、今の僕にはわからない。だけど、凛が地元で元気にやっているのを知って嬉しい。
また会いたい。
やっぱり会いたい。
だけど、それまでに気持を整理しておかないとな。
頭にバスタオルをかぶったまま、小さな波が胸の中の海を行ったり来たりする、くすぐったいような、嬉しさとも愛おしさともわからない気持に浸っていた。
葉書をひっくり返し、彼女の可愛らしい小さな丸い字を何度も眼で追っていると、携帯の画面が青く光った。
あ、誠二だ。
〝早くしろ。もうメンツは揃ってるぞ。〟
語尾に怒った顔マーク。
いかん、いかん。急がないと。誠二にかわい子ちゃん、全部持ってかれそうだ。
僕はビリケンさんの葉書を大事に机の上に立てかけた。
そして胸の中でそっと呟いた。
〝行ってくるよ。凛。〟