28話 つらい思い出
同じサークルで知り合った女の子。価値観がよく似ていて共通の趣味もあったし、一緒にいて楽だし楽しくて、修一兄ちゃんはいつも彼女と行動を共にしていた。修一兄ちゃんは、彼女のことをとてもいい友達だと思ってつきあっていた。
「僕はこんなんだからさ。女の子のことを恋愛対象としてはなから見ていないから、あまり深く考えもせずに、その子と友達としてつきあっていた。彼女もそうだと思っていた。いや、思いたかったんだろうな。本当は僕も気づいていたかもしれない。いや、気づいていても気づかない振りをしていた。」
ある日、飲みに言った帰り、彼女に抱きつかれてキスをされた。好きなんだと告白された。
「最初は彼女も、僕のことを友達として付き合ってくれていたらしいんだけど、途中から違う感情が芽生えてしまって、その思いに対してどうにもならなくなってきた。そして、ああいうことになってしまったんだ。」
修一兄ちゃんは当時を思い出してか、とても悲しそうに眉間に皺を寄せてカウンターの端に視線を落とした。
無理もない。僕だって凛のこと、友達でいいと覚悟を決めたけど、やっぱり一緒にいる時間が長くなればなるほど、自分の気持に嘘なんかつけなくなる。いっぱいいっぱいになって苦しくて、どうにもならなくなる。だから、修一兄ちゃんのその友達の気持ちもよくわかる。
「もし、自分がストレートだったら、こんな女性と付き合って結婚するんだろうなって思うくらい、とてもいい子だった。本当に気が合って一緒にいると楽しくて、ずっと付き合っていたかった。本当にね。」
「難しいのよね。だったら最初から正体打ち明けてりゃいいのかっていうと、そういう問題でもないのよね。だれかれ構わず自分のカードって見せれる?見せれないと思うわよ。」
譲兄ぃが口を挟んだ。修一兄ちゃんは、譲兄ぃの方へ顔を向けてため息をつき、
「だけど、それからは、僕は最初から言うことにした。僕はゲイだってね。」
「とても勇気がいることだけど、もう悲しい思いをしたくないんだ。その子みたいに悲しい思いもさせたくないし。どうにもならないんだもの。僕だってストレートだったらその子と恋人としてつきあいたかったよ。そのくらい彼女を失うことが悲しいことだった。だけど、男が女になれないし、魚が空を飛ぶことも出来ない。そのくらいどうしようもないことなんだよ。僕が女性を愛せないってことは。」
「修一兄ちゃんはすごいよ。僕だったら告白できない。」
「そうだね。大変なことだ。だけど、僕はその一方で自分のセクシャリティを告白して、人を選んでいるんだなって思う。この人は僕の味方だろうか、僕のことを理解してくれるだろうかって。」
何だか難しい問題になってきた。修一兄ちゃんの核心にかかわる話題だ。僕、聞いていいんだろうか。でも、凛も同じことで同じように、修一兄ちゃんみたいに悩むんだろうか。悩んだんだろうか。